デジタル広告分野、ブロックチェーン活用の現状:要点まとめ

ファイナンス分野で生まれた分散型台帳技術「ブロックチェーン」を、デジタル広告分野で活用するための取り組みが進められている。うまくいけば、広告主にとってより高い透明性をもたらし、アドフラウドやブランドセーフティに関する問題を解決できると期待されている。

ブロックチェーンは極めて高度な技術だが、その動作はそれほど複雑ではない。簡潔に説明すると、ブロックチェーンはひとつのコミュニティのように機能する。たとえば、あるブランドが10のパブリッシャーからプログラマティックに広告在庫を購入するとしよう。このときブランド、メディアエージェンシー、10のパブリッシャー、サプライサイドプラットフォーム(SSP)、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)は全体でひとつのグループを形成し、それぞれ異なるレベルで台帳にアクセスする権限を与えられる。

ブロックチェーン・プログラマティック・コーポレーション(Blockchain Programmatic Corporation、以下BPC)の共同創業者兼CEO、パーベル・チェルカシン氏は、複数のレベルのアクセス権限を設定することで、取引に関わる正当なメンバーのみが監査目的でデータにアクセスすることができ、ほかのメンバーは分析やモデリング目的などでのデータ収集を許可されると説明した。取引データは、保護のために暗号化される。「ネットワークの各メンバーは、『ノード』としてそれぞれのサーバー上に一定量のデータを保存し、このデータの処理に対する報酬としてトークンを得る」と同氏。「また、データの監査およびクラウドソーシングを実施することで、データの正確性と整合性を確保する」。

ブロックチェーンの活用は広告分野ではまだはじまったばかりだが、一部企業が早くも利用をはじめている。たとえば、ナスダック(NASDAQ)は3月、保証型広告契約の取引に携わるスタートアップ企業、ニューヨーク・インタラクティブ広告取引所(New York Interactive Advertising eXchange、略称NYIAX)と提携し、広告分野でのブロックチェーン技術の活用に乗り出した。また、インタラクティブ広告協議会テックラボ(IABテックラボ)は9月、グループ・エム(GroupM)のmPlatformおよびNYIAX主導のブロックチェーン・ワーキンググループを設立した(正式な会合は11月1日、はじめて開かれた)。

こうした事例が出てきているものの、広告分野におけるブロックチェーン技術の活用はいまだに実用段階に至っていない。以下に重要事項をまとめる。

重要な統計データ

  • ブロックチェーンのグローバルな市場規模の予測値は、2017年、3億3950万ドル(約387億円)。2021年には23億ドル(約2620億円)に成長する見込み。統計調査会社スタティスタ(Statista)のレポートで明らかになった。
  • アメリカのプログラマティックディスプレイ広告支出は2017年、約326億ドル(約3兆7100億円)に上るとeマーケター(eMarketer)は予測している。
  • 現時点でブロックチェーンに取り組んでいる上場企業は、世界に少なくとも11社存在する。ただし、広告に特化しているブロックチェーン企業(上場・非上場)の数は不明。

ブロックチェーン企業の展望

ブロックチェーン広告プラットフォーム企業メタX(MetaX)のCEO、ケン・ブルック氏は、ある広告主と協力して非公開のブロックチェーンベータテストを実施したところ、ボットによるトラフィック、無効なインバナー動画、不正な広告在庫販売者を検出。被害額は、その広告主が支払ったオンライン広告費の30%超に上っていたことがわかったという。

「まったく異なる複数のデータセットが使われていることが非常に大きな問題だ。特に、それらが広告のコストと効果を正当化するために利用される場合がある」とブルック氏は語った。「広告在庫の転売の実態についても、不明点がたくさんある」。

BPCのCEOチェルカシン氏は、SSPやDSPがブロックチェーンのクラウドソーシングと同等レベルの信頼性とデータ処理能力を提供することはできないと語った。つまりブロックチェーンでは、仲介者は人ではなくロボットのため、人は仲介者を信頼してデータを託せる。

チェルカシン氏のチームは、マルチレイヤーブロックチェーンの特許を取得した。この技術では、理論上、10万の独立したブロックチェーンを同時に稼働させることができ、毎秒100万件超の取引を処理可能だという。「もちろん、すべてのブロックチェーンのあいだでリアルタイムの一致を得ることはできない。だが、広告の監査とデータ分析には、それは必要ない」。

BPCは2017年12月、100を超えるパブリッシャーとともにサービスの提供をはじめる。チェルカシン氏は、2017年末までに、少なくとも1万の広告主がトークンの購入を通じて参加すると見込んでいる。

業界の見解

ブロックチェーン技術は毎秒百万単位の入札リクエストを処理しきれないことは、プログラマティックバイイングでの活用にとって大きな障害だとする声が広範囲で聞かれる
「ブロックチェーンがソリューションになるとは思えない。私の知る限り、ブロックチェーンは毎秒約2000件の取引しか処理できない。一方、プログラマティック広告では、毎秒百万単位の取引を処理できる」と語ったのは、データトレーディング企業ナラティブI/O(Narrative I/O)の創業者、ニック・ジョーダン氏だ。「アドテク業界は、ソリューションのうえにソリューションを積み重ねたがる」。

ジョーダン氏は、たとえブロックチェーンが毎日1000億件の広告インプレッションを処理できたとしても、その取引量の処理に必要な大規模データベースを管理できるリソースを持っているのはGoogleやAmazonなどの巨大企業数社だけであり、それは分散型台帳というブロックチェーンのコンセプトそのものに反すると指摘した。「それでは、業界は大手による囲い込みのなかに引き戻されてしまう」と同氏は語った。

インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)のプロダクト部門シニアバイスプレジデント、ドリュー・ブラッドストック氏も、同じ意見だ。同氏は、SSP、DSP、パブリッシャーが協力することで、より高い透明性を広告主に提供することは可能だと述べた。広告主やパブリッシャーがブロックチェーンに依存するようになると、ソリューションの利用に取引価格を基準とした税が課せられるようになるかもしれないという。

「取引記録の監査にブロックチェーンは必要ない。広告主にとっては、パートナーに情報開示を課すことのほうが、追加で税金を支払うことよりも安くて簡単だ」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)