Eコマースはビットコイン普及の呼び水になるか:bitFlyer加納代表

ビットコインはいまや97億ドル(約1兆円)相当の価値があり、ドル換算で2位の仮想通貨に対し10倍程度の水準に達している。加えて、ビットコインの根幹技術として生まれた「ブロックチェーン」は、金融システム、金融商品、行政手続きなどさまざまな応用可能性がわかっており、グローバルで投資が沸騰している。

国内最大の仮想通貨取引所bitFlyer代表取締役で、日本ブロックチェーン協会代表理事の加納裕三氏は、現状はビットコインがブロックチェーンのキラーアプリだが、より堅牢なスマートコントラクト(自動的に執行される契約、デジタルの形の約束事:専門家間でも共通合意がない)が取って代わる可能性はあると指摘している。

2016年5月に国会で仮想通貨法が可決。1年以内に仮想通貨法が施行されることになっており、ビットコインなどの仮想通貨を扱う取引所に追い風が吹いている。一時は多数の大手報道機関が取引所「マウントゴックス」の破綻に絡んで、マウントゴックスの不備をビットコインの問題と取り違えて報道したため、日本ではビットコインに関して難しいイメージが一般的になっていた。

bitFlyerは取引高を拡大し、4月にシリーズCで約30億円を調達。資金調達後の資本金は38億9152万円(資本準備金含む)。これまでの出資者は三菱UFJキャピタル、リクルートストラテジックパートナーズ、SBIインベストメントなどだ。加納氏は「主要な取引所の利用者はFXを利用している個人投資家。5月に法律が国会を通ってから取引高が増加した」と話している。

ECサイトがビットコイン決済を利用するとき

bitFlyerはビットコインを利用した決済も手がける。ビットコイン決済は手数料が安く、クレカ決済が多数のステークホルダーを介しているのに対し、仲介者が少なくより完結なトランザクションになりうる。「クレカで海外で決済すると(クレカ事業者に)2、3円分為替レートを載る。ビットコイン決済はそうならない」と加納氏は語っている。

このビットコイン決済のスケールには、ECプラットフォームが導入することがもっとも火付け役になるだろう。ECサイトではクレカ決済が一般的だが、決済手数料が載ることになるため、取引やプラットフォーム提供者に一定の影響を与えていると見られる。

しかし、Amazon、楽天のようなEC事業者は現状ビットコイン決済を導入していない。加納氏は「『鶏と卵』の問題で、大きなeコマースサイトがビットコインを支払い手段とするためには多くの人がビットコインを使っていることが必要なのですが、ビットコインを使用できる主要なeコマースサイトがないのでビットコインを使う人が増えない」と説明した。

加納氏は解決手段として大手ECとの協業を検討しているそうだ。「まずはユーザーを増やさないと。数百万人くらいないとECサイトは導入の意欲を示さないだろう」。

ECサイトは第三者を仲介させて、取引を担保する「エスクロー」を提供しているが、これはビットコイン決済でも変わらない、と加納氏は語っている。「ECサイトがビットコイン決済を導入するには、仮想通貨法が施行される見通しで、これに則ったライセンスを取得する必要がある。あとシステム構築が必要だが、それはあまりリソースをとらない。壁にはならないだろう」と語った。

仮想通貨の取引は高いボラティリティ(価格変動性)、トランザクションの速度などのリスクをもっている。現状は決済事業者がこのリスクを背負う形だ。しかし、加納氏は「ビットコインのボラティリティはかなりなだらかになっており、またECサイトで利用される場合、一個一個の取引は数千円から数万円なので、そこまで問題ではない」と話した。

汎用性のある評判システム

ブロックチェーンはECサイトなどのプラットフォームをまたいだ評判システム(Reputation System)への活用可能性が指摘されている。加納氏は「信用の証拠などが共有されて便利になる。悪いことをすれば、ブロックチェーンは消せないので、忘れられる権利のような問題が出てくる」と話した。「C2Cがかなり利用しやすくなる。その人が誰か判別可能で、例えば、ヤフオクで上がった評判を、メルカリで活用できるようになるだろう。さらにその評判からその人にお金を貸せられる。入居審査にも使える。ブロックチェーンを中心としていろんなプラットフォームがつながるというアイデアは面白い」。

「サービス提供者がブロックチェーンによる評判システムをつくると思えない。別の事業者がそれをつくるだろう」。

ブロックチェーンは規制のあり方を大きく変えるだろう。「いまの状況だとセントラルサーバーがないので、サーバーを強制停止するということができない。だから出口のところを規制するのが現状の方向。ビットコインだとドルとビットコインを変えるところ、うちのような事業者(取引所)を規制する。(規制当局は)その出口だけを見張っているというのが現時点の考え。それしかできないと言っていい」。

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国内最大の仮想通貨取引所bitFlyer代表取締役、日本ブロックチェーン協会代表理事の加納裕三氏

「プラットフォームが責任をもって運営していく。それでも、B2Bを(規制当局)が見張ることはできるが、C2Cのアプリをつくられると難しい。完全なディセントラライズド(非中央集権的)なシステムをつくって中古品オークションのアプリケーションをつくり、やり取りは仮想通貨で行う。そうするとサービス提供者すら必要なくなる。これは個人と個人が『これを百円』で買いませんか?』と言っているのと同じことだ」

評判システムがアイデンティフィケーション(身分証明)とつながっていると、評判がその人の生活の上で極めて重要になるため、人の行動も変わる。「アメリカのメディアだと署名記事が当たり前だが、日本ではあまりそうしない。名前付きのほうが良いと思う。良いこと言えば賞賛されるし、まずいことを書くと非難される」。

非中央集権が適するもの

「中央集権システムがワークするケースと非中央集権システムがワークするケースの2通りがある。例えば、軍隊システムは絶対に中央集権システムがワークする。Googleの働き方はまったく別。これが社会システムになったとき、例えば、会社や土地の登記は中央集権である必要はなく、非中央集権的に運営されて、法務局には書き換え権限をもたせてあり、ほかの人はそれを閲覧する権利だけを有しているとすれば、中央のサーバーは必要なくなる。より便利になるだろう」。

「今のところ」はビットコインがブロックチェーンのキラーアプリケーションだと見ている、という。「Ethereum(イーサリアム)が結構行くかなと思っていたら停滞気味だ。もう少ししっかりとしたスマートコントラクトが出てきたらそれがキラーになると思っている。思想が違うものが出てくる気がする。Ethereumはあまりにもフレキシビリティがありすぎるようだ」。

Written by 吉田拓史
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