アトリビューションと動画がデジタル広告の通貨を新しくする:Adobe 近藤弘忠氏

アドビ(Adobe)は昨年12月にチューブモーグル(TubeMogul)を5億4000万ドル(約600億円)で買収完了した。Adobeのクラウド製品群にもとからあるさまざまなデジタルマーケティング機能に、チューブモーグルのテレビ広告とデジタル広告を横断した測定情報をひとつのダッシュボードで管理・プランニングし、DSPとしてビデオ(テレビ・デジタル双方を含む広義の動画)を買い付ける機能を加えた形。

アドビはチューブモーグルの機能と各種のデジタル広告を買い付ける機能などを集約し「Adobe Advertising Cloud」としてリリースしたのが今年の3月。これにより大手企業向けCRMマーケットが重なるセールスフォースやオラクルに比べて、顧客接点での能力を増しユニークになった。Googleや、独立系で唯一気を吐くDSPであるトレードデスク(The Trade Desk)と競合するポジションとも言える。Adobeのクラウド群は、常に新規の顧客層を開拓する必要のある消費者に近い産業や、同社製品が伝統的に強いメディア産業などの要望を先取りする形で変化してきた。

アドビ アドバタイジングクラウド営業統括本部 執行役員の近藤弘忠氏は日本最大級のインターネット広告事業者であるヤフージャパンでネット広告黎明期から業界に携わり、GoogleでのYouTubeの広告営業の統括から、チューブモーグルを経てAdobeに合流。日米のデジタル広告業界事情に詳しい。近藤氏はDIGIDAY[日本版]のインタビューに対し以下のように主張した。

  • 大手企業向けのペイドメディアや拡張をもって顧客接点に訴えかけることを管理するSaaSとしての能力は、チューブモーグルの買収統合により、アドビが突出した
  • 良質なモバイルビデオ在庫は今後増えていく。DAZN(ダゾーン)のような試みがそうだが、サブスクリプション型の動画配信サービスも最終的には広告に門戸を開く
  • テレビからデジタルまで通貫した測定・評価を提供する開発競争が起きている。業界としてもラストクリックに基いたデジタル広告の通貨設定に限界が来ている。マルチタッチのアトリビューションが正しいことを証明できるひと握りのプレイヤーが新しい通貨の設計に関与する

必須のクロスデバイスのインサイト

インタビュー直前、アドビは「Adobe Advertising Cloud TV」をリリースしていた。よりビデオのターゲティングに深みを増せると近藤氏は説明する。「もともと『プログラマティックTV』はデジタル広告をプランニングする方法を、テレビ広告の買い付けに応用する方法だ。プランニングまでがデジタル化され、実際の買い付けや入稿はマニュアルが入っている。テレビ広告は日本の場合も基本的に一緒で、例えばF1に当てたいというときは人が線を引く。この時間帯にF1が多そうな番組をピックアップして買い付けるという形で人手を使っている」。

「アメリカは多チャンネルで、実際にコンテンツがリーチする仕方もケーブル経由もあればUSBもありさまざま。人手でやっているとどうしても偏りが出る。ベストとは言わなくとも、ベターかどうかさえももう分からない。要は人の勘でする作業になっている。アドビが提供している製品は『どの番組、どのチャンネルのどの時間帯にどういう属性の人の含有率が高いか』をデータベースで持っていて、それが買い付けたときに一番効率の良い、ピックアップの仕方を、要は自動計算して出せるのがベースだ」。

「通常日本の場合は年齢と性別がメイン。アメリカの場合はさらに戦略的な、例えば『決済者』のような属性データがあり、その含有率が高いところをピックアップする。深いターゲティングまでプランニングに織り込める。セットトップボックスには基本的にその世帯の契約者情報が入るので、深い情報の一部はそういうのを使うこともある」。

Lenovo_A30_Internet_TV_Set_Top_Box_-_Front_with_Remote_(6639767915) (1)ケーブル・衛星・インターネット通信などの受信・管理を一元的に行えるセットトップボックス Via Wikimediacommons

「Advertising Cloud TV」は「VIZIO」というコネクトTVメーカーがあり提携していることが大きい。「IPアドレスと見ている番組が、全部データで出てくる。 VIZIOを見ている人は家庭のインターネットとモバイルが同じIPアドレスを使っているケースが多い。クロスデバイスがどうか全部把握できる。プログラマティックTVでの買い付けを行う前の分析に使える」。

買収から進むインテグレーション

買収の発表は昨年11月。「アドビはそれまでマーケティングオートメーション系のツール群とデータ系のツール群は豊富にあったが、ファネルの一番底に訴えるのは、『エフィシェント・フロンティア(Efficient Frontier)』という検索広告の自動入札ツールがあるだけだった」と近藤氏は説明した。「一部DSPも持っていたが、あまり使いこなせてなかった」。

「チューブモーグルはアメリカのマーケットでプレゼンスが非常に高く、特にテレビ広告も同時に扱っている動画DSP。アドビはチューブモーグルを買収し、ファネルを全部カバーすることを目指している。DMPとデータ分析ツールにあるデータを、Advertising Cloud側で簡単に使えるインテグレーションがだいぶできてきている。もうひとつが検索ツールとチューブモーグルプラットフォーム、両方をもったままなこと。その間の最適配分どうするのかがいま進んでいる」。

大手SaaSのマーケティング部門を切り出して比較したとき、アドビはセールスフォースやオラクルに対してアドテクの機能が突出している。「ほかは、たとえばセールスフォースはCRM(顧客関係管理)で有名だが、全体を見たときに、CRMは基本的にIDベースの庭のなかで行う作業になってしまう。それをペイドメディアや拡張をもってコミュニケーションするのはアドビのほうが強い。もちろん、Googleさんのように大きなところがまだある。違いはというとわれわれは在庫を『幸運ながら』持ってない。ニュートラルさこそカスタマーが彼らの顧客とコミュニケーションをとることの手伝いができる」。

座組、プランニングの変化

「日本ではGoogleが大き過ぎ、実態の構造はGoogle対その他になる。われわれはその他をボンディングするのにちょうどいい。我々はFacebookの在庫も全部扱える。Twitterは海外では使えるんですけど、日本は使えない。もうヤフージャパン時代のヤフー一極集中からだいぶ分散した感はある」。

「我々が大きな商談を動かすのは海外。アメリカでテレビ広告も交えてコミュニケーション取るのに、テレビ広告とアメリカのプログラマティックTVとオンラインビデオとディスプレイとセットで提案して、お買い上げいただいて、というのが、サイズとしてはケタが違う。実は(グローバルな日本企業による)海外の広告の買い付けは、たとえば、日本の広告代理店ががいても、海外のメディアエージェンシーから買い付けたりして、結構手間とコストかかる。Adobe Advertising Cloudでそれをスキップできる。実は日本の広告会社とは一緒にプランニングしている。海外のエージェンシーさんはもう必要なくなるので、わりと座組的にはきれいになる」。

「アメリカは各広告主側にプロフェッショナルなマーケターがいる。自らプランを立てオペレーション用のエージェンシーさんがいて、DSP使う。これが完成形かもしれない。日本の場合はそうではないのでエージェンシーのポジションがある。逆に彼らがいないと全体が回らなかったりするのは事実」。

ビデオ(動画)の多様化と広告

「日本のテレビ視聴率は高齢者は上がっているが、特に若い子は見ておらず、全体的に下がっているなかで言えば、商材がどのターゲットかによって響き方が変わる。マスプロダクトの商材だとテレビがまだまだ勝ちパターンで通用する。より細やかにターゲットを設定したいプロダクトだとデジタルを使うのは全部ではないにしろ、プランニングに入ってきている」。

日本市場でいいモバイルビデオ在庫を見つけるのは難しいときがある。「DAZN(ダゾーン)の取り組みはまさにそれ。メインはYouTubeの在庫なんですが、掲載場所にこだわりを持った瞬間に少し厳しくなる」。

AbemaTVなどのAVOD(広告型ビデオオンデマンド)も発達しているが、ネット広告代理店のサイバーエージェントらが在庫がオープンなプログラマティックに載るとは考えにくい。あるいはサブスクリプション型ビデオオンデマンド(SVOD)もじわじわ拡大している。

「サブスクリプション型は最初はたぶん動画広告入らないが最終的には入るようになると考えられる。サブスクリプションは絶対、契約者の上限が決まっている。複数と契約する人もいるが普通なら1個。過去の1、2話はただで観れるというのはプロモーションのときにあるだろう。その1、2話には広告を入れられるというふうに」。音楽ストリーミングのSpotifyはそのモデルの代表格で「無料+広告」と「有料+無広告」のハイブリッドでできている。

「サブスクリプションが定着することはすごくいいことだと思っている。動画コンテンツホルダー側にしても、手堅い商売をしたいから絶対そこから普通入る。早くそのステップを越えてもらって次にいってほしい」。

「アメリカだとテレビとデジタルはひっくり返っている。日本はまあひっくり返りはしない気がする。デジタルがもう少し増えるかもしれない。メディアの価値は結局視聴者次第。昔巨人戦をテレビでやっていたころの視聴率といまのテレビの視聴率は、格段に差が付いているのに、実は売上的にあんまり変わっていない。単価が上がっている。調整されるかもしれない」。

測定と評価をめぐる競争

「アメリカのニールセンは日本と同じで基本的にはパネル。パネルだとカバー率が低いので、FacebookのID情報が裏側に付いている。(ニールセンが)テレビとデジタルが両方の測定をできるのはそのおかげだ」。

「日本のニールセンにはテレビの視聴データは入ってないが、Facebookを使うのは今ももうできている。我々のプラットフォームからも、たとえば、『この広告を打ったとき、結果的に女性が何%入っていた、何歳代が多かった』というのはニールセンのデータでレポートできる。その裏側はFacebookのID情報。多少、集計上補正をかけているみたいだが」。

Facebookは広告主へのテレビとデジタルを通貫したアトリビューション分析ツールを提供を開始し、主に米広告業界を激震させた。これは「誰がデジタル広告のレフェリーになるか」という競争の新しいフェイズである。「(測定・評価に関しては)現状はFacebookと直接連携するということはなく、ニールセン経由のものを使っている。ターゲティング自体は我々はダイレクトにFacebookとつながってて、我々側でもっている広告主側のリストをFacebook側に突っ込んでターゲティングしたりはできる(いわゆるカスタムオーディエンス)。(測定・評価の領域で)年内に直接連携するロードマップ。ユーザーはアトリビューションをきちんと見ることができる」。

Googleも今年5月、同様のテレビ−デジタル通貫の「Googleアトリビューション360」の今秋導入を発表し追走してきている。このデジタル広告の測定・評価領域は極めて激しい競争領域だ。なにしろ広告の取引通貨を確定する闘いである。

DSC_0225アドビ アドバタイジングクラウド営業統括本部 執行役員の近藤弘忠氏 吉田拓史撮影

「結局いままでコンバージョンで勝負してきて、要はCPC、ラストクリックが通貨だったが、もうそれだと伸びない。ましてや検索自体減ってきているとも言われている。キーワードを入れて検索するより、Facebook、Twitter、インスタで調べちゃう。うちの娘に聞くとやっぱりそうだ。実は時代が変わりつつあるので、Googleといえども安穏としてられないというのが実態ではないか」。

「だからGoogleはアトリビューションを入れないといけない。アトリビューションはFacebookのほうが先行して導入しはじめた。この分野はデファクトスタンダードをとるのが重要になる」。

ラストクリックの終わり

「アトリビューションによる評価を導入すると、ラストクリックの単価よりは高い入札になるだろう。CPA(顧客獲得単価)をアトリビューションで評価したほうが、結果的に(広告主にとって)安く上がる。効率的になることを分析できるところだけがアトリビューションにチャレンジしている」。つまり少ないプレイヤーにしか、通貨を定義する権利はないということだ。

しかし、アトリビューション分析はトランザクションデータと重ね合わさないと完璧にならない。「マスプロダクト系は購買データがメーカー側にない。流通業者がもっている。そこがもしつながるなら素晴らしい。ECなんかはてきめんに分かる」。

「ファネルをいつも新しく供給するには外側の動きが必要。いろんなテクノロジーが現れ、アプローチがいっぱいできている。広告のペイドメディアの要求は絶対外せないとは思いますね」。

Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida