「ゴールは進化すること」:エスティローダーのプレジデントが語る、美容業界の大変化

エスティローダー(Estée Lauder)のプレジデント、ジェーン・ハーツマーク・フーディス氏が、ファッションとSNSのコネクションに気付いて、ハッと目覚めた瞬間があった。それは2012年、まだ17歳だったモデル、ケンダル・ジェンナーとエスティローダーの写真撮影をしていたときのことだ。17歳のジェンナーは当然、インスタグラムをずっとチェックしていた。そこで、ハーツマーク氏は気付くことになる。

「その瞬間、『何か根本的なことが起きてる』と気づいた」と、ハーツマーク・フーディス氏は語った。現在、彼女はエスティローダーに加え、ラ・メール(La Mer)、ボビイ・ブラウン(Bobbi Brown)、エアリン(Aerin)、ダーフィン(Darphin)、バンブル・アンド・バンブル(Bumble and Bumble)、オリジンズ(Origins)、そしてアヴェダ(Aveda)という、全部で8つのローダーのブランドを監修している。「その瞬間に、ソーシャルメディアの世界に目が開かされた。そしてミレニアルの思考を、そして今日起きていることの多くが、ソーシャルメディアの影響を強く受けていることを理解しはじめた」と、彼女は語る。

彼女の直感は間違いではなかった。ビューティ業界はソーシャルメディアの台頭によって揺れ動かされてきた。かつては長い伝統をもつ巨大企業によって定義付けられていた業界が、根本から覆されたのだ。どんな新しいブランドでもオンラインで熱狂的なファンの声を作り上げることができれば、成功への階段を上ることができる。

エスティローダーは71年の歴史を有する老舗の組織だ。そんなエスティローダーは、この5年間に根本的な改革を経験してきた。熾烈な競争に勝ち残るためにインデペンデントのブランドを大量に買収した。買収によって、トゥー・フェイスド(Too Faced)、スマッシュボックス(Smashbox)、ベッカ・コスメティックス(Becca Cosmetics)、グラムグロー(GlamGlow)、ローディン(Rodin)、フレデリック・マル(Frédéric Malle)、レ・ラボ(Le Labo)、そしてバイ・キリアン(By Killian)といったブランドが傘下に加わった。

ハーツマーク・フーディス氏は、エスティローダーの(ブランド)グローバル・プレジデントに2009年から就いていたが、2016年に現役職に昇進。同氏は、SNSに関するこの気付きはターゲットの年齢層が何であれ、ビューティブランドすべてに当てはまると考えている。本稿では彼女とのインタビューで、エスティローダーのブランドごとの運営方法、そして、次のソーシャルメディアのトレンド、あらゆるブランドが顧客の注意を獲得しようと尽力するなかで勝つためにはどうしたらいいのかについて語ってもらった。

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——ビューティ業界のパワーはブランドレベルへとシフトした。エスティローダーのような会社は、どうやってこれに適応するのか?

誰でも参入できるビューティー業界は、いまや光の速さで変化を迎えている。けれども、会話の中心にあるのは、ブランドではなくて顧客である。インディーブランドであれ、伝統をもつブランドであれ、もうゼロサムゲームではなくなった。誰でも勝てるようになった。

変化に適応するためには、顧客を中心に据えないといけない。人々を双方向のコミュニケーションでもってブランドに迎えるのだ。ビューティーは参加型であり、ビジュアル的であり、私たちは毎日顧客の声を聞いている。以前であれば秋の戦略を完成させて、時期が来たら春の戦略を作る、という流れであった。いまでは朝9時に何かをしたとしても、午後2時までには何か完全に違うことについて語っている。インディーブランドであろうとなかろうと、カスタマーがミレニアルであろうとなかろうと、すごく上手くやらないといけない。私たちのところでは急進的な考えをもつスタッフを、長い伝統をもつブランドに配置している、なぜなら目標は進化することだからだ。

——ビューティはいかに、このレベルの即時性を性質として抱えることになったのか? 業界が変わったと気づいた瞬間はあったのか?

私はケンダル・ジェンナーから多くを学んだ。エスティローダーの撮影現場で一緒になったときに彼女が電話を使って、インスタグラム、ソーシャルメディアに張り付いているのを見た。そして私は、我々のブランドを彼女のレンズを通して反映させたかった。それは我々が慣れ親しんでいる分野から飛び出して、コントロールを少し失ってみることを意味していた。

業界において重大なシフトが起きたことに疑いはない。私たちのブランドはすべて、デジタルとソーシャルにますます大きな予算を割いている。私たちはプロダクト開発においてもイノベーションを招いている。プロダクトがインスタグラムやYouTube上でどう見えるか、という点も多いに考慮されるのだ。いま起きているのは、パワーが顧客の手のなかにあるという事態だ。それはまさにバトンを受け渡すのと同じだった。ブランドが自分のブランドを定義付ける、というのではなくてオーディエンスが彼らの頭のなかで定義付けるのだ。そのためユーザー生成コンテンツ(UGC)やソーシャルリスニングといった手法が非常に重要になった。消費者が我々のストーリーを伝えてくれるのが、いまの時代だ。

——ソーシャルメディア上ではビューティ関連の情報は溢れている。いかに騒音から自分を切り離すのか?

それぞれのブランドが知られている、はっきりとした特徴をもったプロダクトを開発することで、騒音から切り離れることができる。ブランドが売るすべてのアイテムにフォーカスを置くのではなく、そのブランドでひときわ目立っているプロダクトにフォーカスする。そして残りのストーリーを、それを中心に語っていく。エスティローダーであれば、それはアドバンスド・ナイトリペア商品だし、ボビイ・ブラウンならファンデーションスティックだ。ラ・メールならオリジナルのフェイスクリームになる。正直に言うと、ビューティはヒーローとなる中心のプロダクトが何かが問題だ。ひとつのブランドから必要なコスメすべてを購入するなんてことは、もう起きない。顧客はすべてのブランドから、それぞれのベストを欲しがるのだ。

それが我々のポートフォリオ戦略の指針となってきた。それぞれのブランドが異なる専門性や長所を攻めていくというものだ。マック(Mac)、オリジンズ、バンブル・アンド・バンブルから顧客が何を欲しいかというのは、まったく異なる。私たちのポートフォリオに何が含まれているか、それぞれのブランドのそれぞれのカテゴリーのグローバル長所は何かについて、我々は非常に戦略的だ。いまの時代が面白いのは、とても根本的な変遷が起きていて、それは我々のブランド全体を巻き込んでいる。そのため全員が新しいゲームをプレイしている状態だ。最初から存在してきたブランドであれ、新しく買収したブランドであれ関係ない。

——エスティローダーに新しいブランドを取り込む一方で、どうやって長く付き合ってきた顧客に疎外感を与えないようにするのか?

エスティローダーの素晴らしいところは起業家精神を理解している、ブランドを多数抱える会社だということだ。それぞれのブランドのアントレプレナーに大きな自由度を与える一方で、彼らのポテンシャルを達成するための助けとなるリソースと知識が存在している。

ディストリビューションについては、私たちは非常に気をつけている、このことはキーとなっている。我が社は大きな消費者リーチ能力をもっているが、忍耐をもって時間をかければブランドを築くことができる。顧客の需要が供給を上回って欲しいと考えている。そのため私たちは、いつも時間をかけて供給するようにしている。ソーシャルメディアが素晴らしいのは、全世界をつなげることだ。そのため、ひとつの国で需要をもち上げてから全体に出す、ということができる。これは我々のビジネスモデルの大きな要素のひとつだ。

——ビューティ業界の変化の最高潮は何か? 何が次に訪れるのか?

デジタルとソーシャルという点で言うと、インフルエンサーのバブルが弾けるだろう。消費者が欲しいものは本物であること、そして彼らは偏見の無いレビューが欲しいのだ。消費者が真実にたどり着くようになるという点で大きな再編成が起きると思う。大きな巨額の手数料が絡んだインフルエンサー契約の頻度は落ちる。より細かい、ローカライズされたオススメに取り組むマイクロインフルエンサーに多くの会社はシフトしつつある。

また優れたマーケターたちは消費者たちがどの方向に向かっているか、脈を測るように見張っている。私もソーシャル上をスクロールすることで一番マーケットについて学習している、ほかのどんな場所よりもだ。スキンケアが次の時代のメイクアップになると、私は信じている、そのため私の注意はいま、そこに向かっている。しかし、もっとも重要なのは自分の組織のなかにいる、ミレニアルの声を聞くことだ。彼らのほうが、いま何が起きているのかの感触を上手く掴んでいるのだから。彼らの意見を聞くことで頭を柔らかく保ち、誰よりも早く動くことができるのだ。

Hilary Milnes(原文 / 訳:塚本 紺)