「次世代マーケターは、経営に直結する『構想力』が必要」:X-TANK 伊藤嘉明氏 ✕ C Channel 森川 亮氏

あらゆる企業活動がデジタル化し、マーケティングの役割がより経営に近くなったと言われて久しい。

女性向け動画メディア「C CHANNEL(シーチャンネル)」は11月9日、イベント「攻略し共感させよ! 次世代マーケターセミナー」を赤羽橋の同社新社屋にて開催。同イベント内の「経営者が語る -マーケター覚醒論-」と題したトークセッションには、X-TANKコンサルティングのCEO伊藤嘉明氏およびC Channel株式会社 代表取締役社長の森川亮氏が登壇し、これまでのマーケターと次世代のマーケターとの違いについて、マーケターおよび経営者双方の視点から語り合った。

2014年2月、それまで15年連続赤字事業体だったハイアールアジアグループ(現 アクア株式会社。三洋電機白物事業体が母体)の代表取締役社長兼CEOに就任し、初年度に黒字化を果たした伊藤氏。その後、2016年にX-TANKコンサルティングを設立した同氏は、「マーケターはより経営者をサポートする役割が求められる」と語る。

また、LINEの元代表取締役社長としても知られる森川氏。今後のマーケターについて、「『データ』が重要性を増すからこそ、マーケターの『センス』が重要視される」と述べた。

本記事では、対談の模様を若干の編集を加えてご紹介する。

X-TANKコンサルティングCEO 伊藤嘉明氏(左)、C Channel代表取締役社長 森川亮氏(右)

X-TANKコンサルティングCEO 伊藤嘉明氏(左)、C Channel代表取締役社長 森川亮氏(右)

「マーケティング」という言葉

伊藤嘉明氏(以下、伊藤):いま、自分の企業を経営しながら、2017年10月からジャパンディスプレイ(JDI)のCMOを務めています。そこで感じるのは、マーケターに求められる資質が変わってきているということ。

日本ではマーケティングという仕事が理解されていない面があって、そもそも、「マーケティング」という言葉が明確に定義されていません。「お金を使って華やか」というイメージがありますが、実はそうではなく、経営にもっとも近い仕事だと思います。いままで以上に経営へスピードが求められる時代に、経営に直結する理解力、判断力がマーケターには求められています。

森川亮氏(以下、森川):ビジネスのデジタル化が進んでいますが、マーケターとしての根本的な資質は変わっていませんよね。

伊藤:おっしゃる通りです。基本的なマーケティング理論については、マーケターだけでなく、むしろすべての経営者が理解すべきだと考えています。そのうえで、マーケターはデジタル領域での理解に加え、経営者をサポートする役割が求められています。

英語が苦手は通用しない

森川:次世代のマーケターに対し、経営者が期待していることは何だと思いますか?
たとえば、「コンバージョン」などのヨコ文字もついていける経営者とそうでない経営者がいます。

伊藤:デジタルに関する感度の問題だと思います。感度という意味では、やはり「語学」の壁が大きいと感じます。「英語が苦手」という理由で海外の事例を見逃してしまうケースがありますが、いまの時代、インターネットで翻訳ソフトも利用できるわけですし、英語が苦手は通用しないと思うんです。

森川:セールスとマーケティングの役割についてはどう考えますか?

伊藤:両者は表裏一体で、売る仕組みを考えるマーケティングと、実際に売る営業は、右脳と左脳のような関係にあると思います。

森川:では、マーケターは感度を高めるためにはどんな勉強が必要でしょうか?

伊藤:日本語のメディアをチェックするのは必須として、メディアや情報は「取捨選択」が大事。何を拾いにいくか、自分で仮説を立てていかないと、情報に埋もれてしまいます。あと、これは語学にもつながりますが、海外の事例は先進的で、デジタル領域でいえば日本は中国よりも2周半遅れています。そういう自覚を持って情報に接することが大事です。

再建は「定義づけ」から

森川:テレビをはじめとするマス広告とデジタル広告の違いは、デジタルは「数字」で明確に結果が示されること。もちろん、直感力や感性から作り出されるクリエイティブやメッセージングも重要ですが、お客様やユーザーのデータを持ち、それを分析しながら改善していくことが、マーケティングだけでなく、商品開発などあらゆるビジネスプロセスで求められています。

伊藤:デジタル以前は、「センス」「感覚」「ネットワーク」が大事だといわれていました。いまはそれも大事ですが、データをどれだけ分析できるかが勝負になっています。

森川:2014年に三洋電機がハイアール・グループに買収されて、伊藤さんが再建を請け負ったわけですが、イノベーティブな商品を市場に出すときにどんな壁がありましたか?

伊藤:私がCEOに就任したときは、平均年齢49歳、ボリュームゾーンは52歳と、日本の産業構造の縮図のような会社でした。15年連続で赤字を出していたわけですが、就任時に感じたのは「すべてが遅い、後手後手に回っている」ということでした。

森川:具体的なエピソードはありますか?

伊藤:入社後、最初に研究開発センターに行きました。「このなかでスマホ持っている人は?」と聞いたところ、約1割くらいでした。マーケターもいる部署で、2014年にガラケー全盛というような状況だったのです。

森川:その状況から、どうやってマーケティング、デジタルの考え方を浸透させたのですか?

伊藤:たとえばマーケティングを「企画営業」という言葉に置き換えて、「どうやったら黒字化するか、仕組み化することがマーケティングですよ」と、社員とのあいだで共通認識として定義していったんですね。「マーケティング」という言葉も聞く人によって、いろんな答えが買ってくると思いますが、まずは社内で用語、考え方の定義づけに注力しました。

思い入れこそが「センス」

森川:広告アルゴリズムなどにAI導入が進んでおり、人の仕事がAIに置き換わっていくといわれますが、経営者視点で、マーケティングの役割は変わってくると思いますか?

伊藤:2016年の世界経済フォーラム(World Economic Forum)いわゆるダボス会議では、2020年までに世界で約510万人が職を失うという見通しが示されました。このなかにはホワイトカラー、マーケターも入ってくると思います。単なる市場調査などの仕事は、AIがデータを収集する時代になっていくでしょう。

そこで大事なのが、どう付加価値をつけるかということです。データがわかることに加え、センス、つまり「仮説立て」の部分は人間にしかできない部分で、その価値づくりをこの3年で取り組まないと、5年後には仕事がなくなることになりかねません。

森川:このセンスはどうやって磨いたらいいかというのがいつも悩ましいです。

伊藤:センスというのは「自分が欲しい」と思うかどうか、思い入れを持てるかどうかだと思うのです。

2014年にハイアール・アジアのCEOに就任したとき、それまで15年連続赤字事業体だったので広告宣伝費ゼロの状態からはじめなければなりませんでした。そこで考えたのが、冷蔵庫や洗濯機といった白物のコモディティをどうやって欲求商品にさせるかということ。これはマーケティングの役割です。

そこで開発、発売したのが映画『スター・ウォーズ』に出てくる「R2-D2」型の自走式冷蔵庫でした。ディズニーの公式ライセンスを受けた商品として完全受注生産した商品でしたが、次世代のマーケターに期待されるのは「予算がないからできない」ではなく、価値の作り方の仮説や、「お金がないなら、あるところと組む」といった構想力だと思います。

営業とマーケの境界線

森川:マーケター視点では、商品開発と広告宣伝というのは別々のキャリアとして捉えられている現状がありますよね。

伊藤:興味深い視点です。マーケティングは本来広範なものですが、キャリアとしては商品開発も広告宣伝も別々だと考えられています。マーケティングというのは、お金を生み出す仕組みを「企画」すること。そして、その企画を売上として刈り取っていくのが営業です。双方が両輪となってはじめて会社は回っていきます。

森川:組織全体で見たときは、あらゆる部門の協力が必要という意味で、経営者から社員に、あるいは社員同士で行われるインターナルコミュニケーションが大事になってきます。

伊藤:日本の会社で欠けているのが、財務や経理、総務、広報など、関係部門を巻き込んだ社内コミュニケーション、いわゆる社内マーケティングの視点です。そこが欠けているから「マーケティングは金ばっかり使いやがって」という風になってしまう。

海外では、組織機構として、営業とマーケティング責任者が、「コマーシャルオフィサー」として融合されるキャリア変革が起きています。マーケティングも売ることに密接に関わっていますし、両者の境界が曖昧になっているのです。

経営に伝える努力

森川:一方で、社内マーケティングの重要性を経営者が理解していないケースも多いと思います。

伊藤:おっしゃる通りです。

森川:C Channelの営業で訪問したお客様の会社で、「年配の経営者を直接説得して欲しい」と、担当者に頼まれることがあります。動画マーケティングとテレビの特性、どちらにどういう優位性があるかを説明するのですが、なかなか理解してもらえない「世代間のギャップ」というのはあると思います。

伊藤:いまは過渡期にあって、その意味では、あと10年経てばそういうレガシーな経営陣は入れ替わると思います。ただ、大事なのは、その10年をどう過ごすかで、無為に過ごせば自分たちが取り残されてしまいます。

では、いまできることは何か。先ほども述べましたが、「年配の経営者にも分かりやすい言葉に置き換えて、伝える努力」をすることです。過渡期にあるマーケターには、経営に伝える努力が必要だと思います。

複線思考が「応用力」を磨く

森川:そうしたことも含め、今後、マーケターに求められるスキルは何でしょう?

伊藤:大きくふたつあります。ひとつ目は、語学力。基本的な会話レベルでも、片言でもいいですから、これはもう「苦手」といわずに取り組んでほしい。

ふたつ目は、自身の得意分野、担当分野以外に対するアンテナです。これは自分自身も心がけていることで、「引き出し」を増やすということです。

森川:ひとつの専門分野に加えて、幅広い知識を持つ「T型人材」に加えて、最近では、2つの専門分野を兼ね備えた「π型人材」ということも言われますね。

伊藤:僕自身、IT、自動車、飲料、映画、ソフトウェア販売、家電などの仕事を経験してきましたが、いくつかカジっていると「応用力」というか、アンテナが高くなって、違う仕事のなかに関連性を見出すことができるようになるんじゃないか、という思いを持っています。

森川:特に「アンテナ磨き」にマーケターが取り組むべき領域はありますか?

伊藤:デジタル分野のニュービジネスは必須の領域です。それと、マーケターに考えて欲しいことは「外の世界」を見るということです。

その意味では転職も大事ですが、転職はなにも外の会社に飛び出すだけではありません。社内で仕事が変わるだけでも転職だと思います。ひとつの会社にいたとしても、外の世界を見て、いろいろな仕事を経験する、これもひとつの転職だと思います。

Written by 阿部欽一
Image courtesy of AQUA(TOP画像) / C CHANNEL(本文中)