欧州「クッキー法」、成立近づく:その敗者と勝者は?

欧州連合(EU)で立法手続き中の「eプライバシー規則(ePrivacy regulation)」法案のせいで、デジタルメディア業界とデジタル広告業界は悪夢にうなされている。

eプライバシー規則は、欧州市場で最近話題になっている2018年5月施行予定の「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)と区別しなければならない。GDPRは消費者データのプライバシーに関するより広範な法規制であり、個人情報の取り扱い全般を対象とする。一方、eプライバシー規則はクッキー使用の規制に重点を置いており、そのため通称「クッキー法」と呼ばれる。法案が成立した場合、企業は欧州において、クッキーを使用する場合にはユーザーから事前に許可を得る必要があり、ユーザーがいつでもその使用を制限できるようにしなければならない。

立法手続き中のeプライバシー規則法案は、GDPRほど注目を集めてこなかった。それは、法案が成立するかどうかはっきりしなかったからであり、また広告事業者団体が条件を緩和できるという自信を持っていたからだ。ところがそのような楽観論は潰えてしまった。ロビイング活動が続けられてきたにもかかわらず、欧州議会は10月26日、賛成多数で法案を承認した。今後、さらにEU理事会が法案を承認した場合、法案は成立する。その場合、施行後に法律に違反した企業には、GDPRと同レベルの罰金が課されることになる。

eプライバシー規則が成立した場合、「勝ち組」と「負け組」はあまりはっきり区別できない。実際には、誰もが何かを失うことになるからだ。以下で詳しく見ていこう。

Losers / 敗者たち

行動ターゲティング広告:クッキーは、オーディエンスの行動履歴に基づくマーケティングや広告配信すべての中核を成している。広告主はクッキーを使って、オーディエンスの訪問サイトを追跡することで、その関心を推測できる。オーディエンスが広告出稿先のサイトを訪れると、広告主は推測されたオーディエンス個人の関心に合うように、広告のメッセージを調整することが可能だ。しかし新しいeプライバシー規則では、広告主はサイト訪問者に渡すひとつずつのクッキーについて、使用する前に明示的な同意を得なければならない。この負担は、リターゲティング広告を提供するベンダーや、リターゲティングを利用するメディアまたはマーケティング企業にかかってくる。さらに、FacebookやGoogleなどによる消費者データの収集と利用も制限される。WhatsApp、Gmail、MessengerなどのOTT(オーバーザトップ)サービスのデータに基づくターゲティング広告は、各サービス利用者から同意を得なければ配信できなくなる。

サードパーティークッキーに依存するサービス:さまざまなクッキーがあるなかで、eプライバシー規則によってもっとも大きな影響を受けるのは、オンライン広告でもっともよく使われている「サードパーティークッキー」だ。広告主は、サイトの訪問者にクッキーを渡してその行動プロファイルを作成することで、リターゲティングに利用している。しかし新しいeプライバシー規則では、この目的でクッキーを使用すると、プライバシーの侵害と見なされる。したがって、ユーザーのログイン情報を保存するタイプのサービスは今後、サードパーティークッキーに依存するタイプのサービスよりも有利になる。

A/Bテスター(全員):現行のeプライバシー規則法案では、さまざまな種類のクッキーが区別されていない。たとえば、パブリッシャーは、「追跡型」でないクッキーを使って、自社サイトの訪問者をランダムにテストグループに割り当てることで、新機能や新製品のA/Bテストを実施している。これにより、パブリッシャーはより好まれるユーザー体験を把握し、将来のプロダクトに役立てることができる。ユーザー体験の改善やパーソナライズを促すこの種のクッキーは、全員のために、ほかとは区別したほうがよい。

Winners / 勝者たち

クッキーバナーが嫌いな人:EU28カ国内のサイトでは現在、クッキーの使用に関する告知バナーが、現行法にしたがって表示されている。新法施行後は、ユーザー体験を損なうこれらのバナーが表示されなくなるかもしれない。ただし、サイト上で消費者にクッキー使用の必要性を説明し同意を得るために、ほかにどのような方法が使われることになるのかは不明だ。

ログイン情報を蓄積してきた事業者:新法成立後は、一流パブリッシャーもうかうかしてはいられない。マーケティングや広告配信にクッキーを使用している以上は、ほかのパブリッシャーと同じ課題を克服しなければならないからだ。GoogleやFacebookなども同様だ。ただし顧客のログイン情報を大量に保有しており、消費者と直接よい関係を築こうとしてきた企業は、多くの消費者からクッキー使用に関する同意を得やすいかもしれない。どんなパブリッシャーであれ、消費者がクッキー使用と引き換えに得られるメリットを証明できれば、より多くの人から同意を得られるだろう。

ブラウザの開発者や提供者:ブラウザの開発者や提供者が新法によって勝者となるかどうかは、意見がわかれている。ドイツのメディアグループ、アクセル・シュプリンガーは、新しいルールがブラウザ提供者にとって都合のいいように運用され、パブリッシャーがブラウザの同意設定に関する対価を要求される可能性があると主張している(たとえばブラウザの設定でホワイトリストに入れてもらうには、パブリッシャーは料金を支払わなければならないなど)。その一方で、ブラウザの新しいプライバシー設定の開発にかかる追加コストは、ブラウザ開発者が負担することになるという見解もある。

通信事業者:通信事業者には、いくらか希望がある。通信事業者は、せっかく広げた自社の通信ネットワークを、台頭してきたOOTサービスに利用されるばかりで、単にデータを流す「パイプ」を提供するだけの立場に長らく甘んじてきた。もちろん通信事業者が新法で優遇されるわけではないが、OOTサービスとの競争の土俵は少なくとも以前より公平になるだろう。

Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)