Amazonも参入:「ポップアップストア」が流行する理由

「ビジネスインサイダー(Business Insider)」は9月9日、Amazonが今後1年のあいだに、全米のショッピングモールへポップアップストアを数十店オープンすると報じた。これらの実店舗は、人工知能スピーカーの「Echo(エコー)」など、同社のハイテク製品をアピールする場として活用されるという。Amazonはポップアップストアの求人案内のなかで、現在は「テスト段階を終え、展開と拡大をめざす」と記している。

ポップアップストアは、オンラインショッピングの顧客と交流する手段として、あるいは実験販売の場として、ブランドが利用する一時的な店舗。今回、Amazonもポップアップストアを実験導入する、大手ブランドの仲間入りをしたわけだ。

これまで、芸術家が一時的なギャラリーを開設したり、料理人がディナーの新しいコンセプトをテストしたりする場として活用されてきた、ポップアップストア。その歴史ははっきりしていないが、専門家によると小売ブランドにおけるポップアップストアは、ファッションブランドのコム・デ・ギャルソン(Commes des Garcons)が、2004年にベルリンで設けたストアが事実上の初ポップアップ店舗とされている。

だが最近は、オンラインショッピングが拡大する一方、大手小売業者のあいだで、かつてないほどポップアップストアが流行。小売業者向けにデータベースツールを提供するコンサルタント、ポップアップ・リパブリック(PopUp Republic)によると、ポップアップストアの業界規模は3月時点で500億ドル(約5兆円)になった(ただし、移動式屋台やフリーマーケットなど、ほかの一時的な出店も含む)。ポップアップ・リパブリックの意見では、オンラインショッピングが増加している状況のなかで米国の小売業者は、顧客を一層満足させる「実世界での体験」を提供すべきだという。

ポップアップストア流行の理由

広告代理店のジェイ・ウォルター・トンプソン(J. Walter Thompson、JWT)と、ファッション業界ニュースの「ウィメンズ・ウェア・デイリー(Women’s Wear Daily)」が共同で制作した4月のレポートによると、ポップアップストアが流行している要因は、デジタルと実世界が融合した「境界なき小売」現象の一端だという。

小売業者はオンラインショッピングへの集客拡大に取り組んでいる(米国ではミレニアル世代の87%が定期的にオンラインで買い物をする)。だが同時に、実世界におけるギャップを埋める必要もある。なぜなら、同じミレニアル世代は一方で、より豊かな「体験」も望むからだ。

「ブランドは、ポップアップストアでこうした環境を管理できる。つまり包括的な体験を提供できるのだ」と、JWTのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務めるベン・ジェイムズ氏は指摘する。同氏は一例として、米大手金融企業キャピタルワン(Capital One)がニューヨークに開設したポップアップ「カフェ」を挙げた。このカフェは、住宅ローンとはほぼ無関係だが、銀行がのんびり過ごす場所にもなるという考え方を広めることを狙っている(すでに閉鎖済み)。

ポップアップストアは通常、規模が小さく一時的なものなので、必要経費も限られる。小売業者は柔軟に、一部の商品を一定期間のあいだだけ売れることが特徴だ。

オンラインとオフラインを繋ぐ場

たとえば、ランナー向けブランドのトラックスミス (Tracksmith)は今年、ボストンマラソン専用のポップアップストアを開設し、レース出走者のみが特定の商品を購入できるようにした。また、クリーク・メディア・グループ(Clique Media Group)がローンチした「ソーシャル」ブランドのオブセッシー(Obsessee)は8月、ロサンゼルスのショッピングモール、ザ・グローブ(The Grove)にポップアップストアを開設。その狙いは、ターゲット層のジェネレーションZ(1990年代前後~2000年代終盤に生まれたデジタルネイティブ世代)に、オンライン世界とオフライン世界を繋ぐ「リアルライフ体験」を提供することだ。

ボストンマラソン会期にトラックスミスが出したポップアップストア

ボストンマラソン会期にトラックスミスが出したポップアップストア

オブセッシーによると、ポップアップストアの期間中、プラットフォーム全体でブランドのフォロワーが13%増加。また、ポップアップストアの商品販売数は1700点を超えたという。

このように小売ブランドに大人気のポップアップストアだが、ほかの業界でも流行している。ファッションサイトの「リファイナリー29(Refinery29)」は、2016年秋冬ファッションウィークのために、29室からなるポップアップスペースを開設した。アイスクリームブランドのマグナム(Magnum)は6月、アイスクリームバーをカスタマイズできるポップアップイベントを開催。シンガポール産ビールブランドのタイガー(Tiger)も6月、現代のアジア芸術とデザインを観賞できるポップアップストアをソーホーに出店した。ポップアップなら、比較的安価に、商品の販売、体験、そしてブランドのプレゼンスをまとめて提供できる。

最小限のリスクで市場参入

ポップアップストアを実験の場として活用するケースもある。たとえば市場テストだ。カナダのアパレルブランド、キット・アンド・エース(Kit and Ace)は、この戦略のおかげで、2年間で63カ所にオープンできた(毎月1店舗の出店ペースでも5年を要する数字だ)。同社は、カナダの実業家チップ・ウィルソン氏の妻、シャノン・ウィルソン氏と息子のJJウィルソン氏が創業。小売責任者を務めるレイシー・ノートン氏いわく、ポップアップストアの開設は、コミットしすぎることなく、ひとまず市場に進出する手段だという。化粧品ブランドのエリザベス・アーデン(Elizabeth Arden)が今年、パリに初のブティックを一時的に開設し、その後これを大型の旗艦店に変えたのも、同じ戦略による。

一部の小売業者は、新しいタイプの商品をテストするのにポップアップストアを使っている。ファッションブランドのケイト・スペード・ニューヨーク(Kate Spade New York)は3月、2カ月限定のポップアップショップを開設し、ホームグッズのコレクションを並べた。CMOのメアリー・ビーチ氏は、「実店舗は、ケイト・スペード・ニューヨークのブランド体験の集大成だ」と語る。ビーチ氏によると、このポップアップストアはブランドの知名度を高めると同時に、eコマース事業にもインパクトをもたらしたという。「ニューヨーク市域に住む顧客によるkatespade.comの利用が、2倍近くに高まった」。

ケイト・スペードのホームグッズを並べた「アパートメント」風ポップアップストア

ケイト・スペードのホームグッズを並べた「アパートメント」風ポップアップストア

顧客に展示して提供するため、多様な流通方法を実験したいファッション小売業者や、オートクチュールのデザイナーは、一時的なストアを活用することで、うまくいくかどうかを最小限のリスクで検証できる。ファッションデザイナーのアレキサンダー・ワン氏は「ニューヨークファッションウィーク(NYFW)」で、「いま見ていま買う(see-now-buy-now)」ロジスティクスを実験するため、「ポップアップトラック」を駆使した。JWTのジェイムズ氏は、「ひとつの環境でブランドと商品が一緒になり、混じり合う。ポップアップストアはそんな場所になっている」と語った。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)