「リアル店舗」ブームが加速する、EC企業たちの狙い:趣旨に反さないのか?

寝具販売ストアであるボール・アンド・ブランチ(Boll&Branch)はニュージャージーに新しく小売店をオープンした。何も知らず店に入った人は、そこで目にした商品がつい数週間前までオンラインでしか購入できなかったことには気付かないだろう。親切な店員が商品の説明をしてくれ、まるで通常店舗のように感じられる。しかし、この店から出てくる人々を見るとあることに気がつく。それは、購入した商品を手に持っている人がいないということだ。購入商品はすべて、顧客の住所へと直接配送される仕組みになっている。それはオンライン購入に近い体験だ。

この1年でオンラインから実際の小売店舗へと展開をはじめたeコマースビジネスは増えている。ボール・アンド・ブランチはその仲間入りを果たした。ほかにもオールバーズ(Allbirds)、アウェイ(Away)、モッドクロース(ModCloth)、グロッシアー(Glossier)、そしてマディソン・リード(Madison Reed)などが実店舗展開をしたオンラインストアの例として挙げられる。さらに、Amazonが全米に460店舗存在する大手スーパーマーケット「ホールフーズ(Whole Foods)」を獲得したのも記憶に新しい。

eコマースビジネスのリアル店舗進出は新しい動きというわけではない。ワービー・パーカー(Warby Parker)、サッポス(Zappos)、そしてボノボス(Bonobos)といったオンラインブランドがここ10年間に実店舗を展開してきている。その動きが加速してきているのだ。全国小売業者連盟(National Retail Federation)のデジタルリテール部門シニアディレクターであるジル・ドヴォラック氏は「過去1年間でさらにこの動きが目立つようになった。大手プレイヤーたちが大きな動きを見せている」と語る。

現実に非対応な小売は死ぬ

なぜオンラインのブランドがわざわざ実店舗を持つのか、不思議かもしれない。市場ではメイシーズ(Macy’s)やJCペニー(JCPenney)といった「フォーチュン500」に名を連ねる大手リテールストアたちが、毎日のように店舗の数を減らしているというニュースを聞く。一方で、店舗を閉じたリテールストアがオンラインに集中する、という流れは一般的になった。アメリカでは全国的にショッピングモールが閉鎖されつつある。そして4月に発表された証券会社クレディ・スイス(Credit Suisse)の調査は、2017年に全米で8600店舗が閉鎖され、リテール面積にして1億4700万平方フィートが失われると予測している。

しかし、オンラインショッピングがどれだけ便利になろうとも、消費者は依然、プロダクトを購入する前に直接見て、試着したり、手に触ったりしたいと思っている。これがボール・アンド・ブランチが3年間オンライン販売で成功してきた後に、実店舗を展開する理由となっている。皮肉にも店舗が出されたのはショッピングモールのなかだ。CEO兼共同ファウンダーであるスコット・タネン氏はいう。「顧客が我々の商品をオンラインで買わない大きな理由は自分で手触りを確かめたいからだ。実店舗でそれに対処している」。

カンター・リテール(Kantar Retail)のeコマース部門主任研究者であるレイド・グリーンバーグ氏によると、実店舗やショッピングモールが消えつつあるのは、彼らのビジネスモデルが現代社会に対応できていないからだという。「小売業が死んだわけではない。小売りの85%から90%は依然、実店舗において行われている。しかし悪い小売業は死んでしまった。ショッピングモール形式の百貨店は顧客がつながりたい方法でつながろうとしていないために、多くの課題に直面している。こういった店舗でどんな体験をするのか、顧客は入る前から分かってしまっているのだ」。

EC企業の客足離れ防止策

eコマースは店舗への客足離れを防ぐための対策を講じている。店舗内でのアプリの利用やデジタルタッチポイントなどを上手く組み合わせることで、訪れた顧客に驚きを提供するのだ。「何がデジタルリテールで何が建物を持つ実店舗のリテールなのか、境界線は曖昧になりつつある」とグリーンバーグ氏はいう。

Amazonに買収されて以降、ホールフーズには初日からエコー(Echo)デバイスが並んだ。ボール・アンド・ブランチは無料の配達や、オンラインで購入したものの実店舗での返却といったオプションを提供している。ボール・アンド・ブランチのタネン氏によれば「オフラインでの消費者の行動データとオンラインメディアを組み合わせ、有効に利用しているブランドが伸びている」という。

テキサス州オースティンに昨年11月にオープンしたオープンモッドクロースの店舗では、モッドスタイリストによって寸法を測ってもらうことができ、そのデータをモッドクロースの「フィット・フォー・ミー(Fit For Me)」アプリに入力することでオススメのファッション商品の通知を受け取ることができる。「デジタルの体験を補完してくれる体験を提供することが我々の意図。このアプリのおかげで、消費者は店舗を訪れた後にカスタマイズされたオススメ情報を受け取ることができる。オススメされた商品は自分の寸法に合う、という高いレベルでの信頼を作り出している」とモッドクロースのCEOであるマット・カネス氏はいう。

また、プロダクトを売るスペースというだけではなく、こういった実店舗たちは消費者に買い物以外の体験も提供する場として機能しているようだ。アウェイのニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンの店舗では、コンサートやヨガのクラスなどを主催している。「体験型マーケティングは長い目で見た効果があると強く感じている。より深いレベルで顧客とつながることがこういったプログラムのおかげでできている」とアウェイの共同ファウンダーのジェン・ルービオ氏は語った。

実店舗を持つメリットは多い

これまでのところは、こういった実店舗の展開は消費者の興味をひいているようだ。店舗数を今後数年に渡って増やすことを計画しているブランドもある。アウェイは2017年末までに2店舗オープンする予定だ。カネス氏によるとオースティンにオープンしたモッドクロースの店舗は期待以上のビジネス成果を達成しており、店舗の追加も視野に入っているという。そしてボール・アンド・ブランチは2020年までに20店舗オープンするという計画を出している。

予算上可能なのであれば、ブランドにとって実店舗を持つ利点はたくさんある。体験に惹かれるデジタル世代にアピールできるだけではない。ドヴォラック氏によると、オンラインよりも店舗の方が顧客転換率は高いという。Web検索においても実店舗があると有利に働く。Googleは実店舗を持つブランドを優先するからだ。何かひとつのトピック、もしくはプロダクトをGoogleに入力すれば、オンラインでしか存在しないストアよりも実店舗を持つストアの方が検索上位に表示されるだろう。

もちろん、eコマースブランドのすべてが実店舗を所有できるほどの資金を持っているわけではない。アメリカの賃料は高く、ニューヨークのアウェイ新店舗の賃料はひと月3万7500ドル(約421万円)と報じられている。それもあり、短期のリテール展開が台頭してきているのだ。オンラインブランドは特定の期間だけ、インターネットから飛び出して消費者にアプローチすることができる。こういったマーケットプレイスを提供しているビジネスのひとつがアピア・ヒア(Appear Here)だ。アピア・ヒアは2013年から累計8万ブランドに短期の小売ロケーションを提供してきた。

アピア・ヒアの先進的取り組み

eコマースブランドの多くはこういった種類のロケーションやポップアップストアをまず実験的に展開し、それから自社で所有する実店舗へと進んでいる。アウェイの場合もアピア・ヒアを使って実店舗で旅行鞄を試験販売している。「小売スペースの技術的な側面をやりくりするなかでアピア・ヒアは非常に便利だった」とアウェイのルービオ氏はいう。

アピア・ヒアはトップショップ(Topshop)といった大手リテーラーとも契約を結び、彼らの敷地内でほかのブランドが展開できるようにスペースの賃貸をしている。「ストアのなかのストア」と呼ばれるこの形式も増加傾向にある。利用する小さいブランドにとっても、スペースを貸し出す大手リテーラーにとってもこれはウィンウィンとなる。eコマースブランドは顧客が多く訪れるストアに商品を置きたいのに対して、大手リテーラーにとっては消費者を呼び込む魅力となるからだ。

恒久的な店舗、ポップアップ、短期スペース、どの形式であれ専門家たちは同じ利点を見ているようだ。実店舗を持つことは消費者とブランドのあいだの信頼を強化してくれる。「いまでは誰であれオンラインで何かを売ることができる。けれど実店舗を持つことには確実にブランドに正当性を与えてくれる。ビジネスが今後も長く続くことを消費者に示しているからだ」と、ドヴォラック氏は述べた。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)