Amazonに時価総額を抜かれた「ウォルマート」。逆襲の糸口は、1万1000の実店舗を絡めたUXか?

世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」は劣勢に立たされている。Amazonなどのeコマース勢が急成長を遂げるなか、大型店舗によるディスカウントというモデルの将来性が疑われるためだ。

そこで、ウォルマートはAmazonがもたないリソースに注目した。世界中に散らばる1万1000の実店舗だ。オンライン、店舗をまたいだユーザー体験(ユーザー・エクスペリエンス)を向上させることで、「スーパーマーケット離れ」を食い止めようとしている。

売上が5分の1のAmazonに時価総額を抜かれる

1999年の段階でAmazonの売上は16億ドル(約1920億円)、ウォルマートは1380億ドル(約16兆5000億円)と86倍の差がついていた。しかし、15年後の2014年にAmazonは売上を54倍の890億ドルまで伸ばした。ウォルマートはグローバル展開で売上を99年の3倍となる4860億ドルまで伸ばしたが、eコマース事業「ウォルマートコム」はこのうちの2.5%に過ぎない122億ドルに留まった。

市場はこの点から、はるかに売上の大きいウォルマートを時代遅れとみなし、Amazonのビジネスモデルを賞賛している。2015年7月、Amazonの時価総額が初めてウォルマートを超え、10月22日現在では700億ドルも上回っている。Amazonの株価は2015年内で70%上昇、ウォルマートの株価は30%下落し、明暗がわかれた。

その背景には、急速なeコマースの拡大が挙げられる。市場調査メディア「eMarketer」(2014年12月予測)によると、2018年までに全世界でのeコマースの売上は2兆4890億ドルまで増加し、小売業界の売上の8.8%になると予測されるという。

しかも、eコマースに利用されるデバイスは、デスクトップからモバイルへと急速にシフトしており、若年層でその傾向は顕著だ。さらには、Amazonは2014年に一部地域で生鮮食品の配達も開始し、ウォルマートの牙城に入り込んできた。

ウォルマートは、脆弱なeコマース事業へのテコ入れを迫られている。

実店舗でオンライン注文商品を渡す

「ニューヨーク・タイムズ」によると、ウォルマートは今後2年間で20億ドルをeコマース事業に投資することを明らかにした。テクノロジー開発を担う「ウォルマート研究室」(シリコンバレー)には、エンジニア2200人が常駐。クラウドデータセンターもある。

同研究室が進めるのは、実店舗、オンライン店舗での流通販売経路を統合管理し、最終的にUXを向上させること。「私たちの顧客はモバイルやデスクトップ、店舗の3地点で買い物をしている」と、ウォルマートのグローバルeコマース部門の広報担当バオ・グエン氏は、分析する。「私たちの焦点は、いかに実店舗とデジタルなエクスペリエンスをつなぎ合わせ、顧客との関係を確かにすることだ」。

グエン氏によると、ウォルマートの顧客は実際に店舗に行く前に、オンラインで商品のリサーチをしている。これはAmazonユーザーの行動とはだいぶ異なっている。「ターゲットはウォルマートをよく知り、低価格だと信じている人たちだ。Webサイトのデザインは、ユーザーがリラックスして利用できるよう、簡潔さに細心の注意を払っているとわかる」と、デザイン・コンサルティング企業ファンタジー・インタラクティブ(Fantasy Interactive)でUX担当を務めるヴィラ・イングリエニー氏は、話した。

そのため、実店舗(米国内に約5200店舗)は欠かせない。Amazonの1日限定セールイベント「プライムデー」に対抗して、ウォルマートが2015年7月15日にセールを行った際、実店舗で商品をピックアップする機能「My Sotre」を通じた注文数が300%も上昇した。

デジタルエージェンシーのヒュージ(Huge)で、UXのディレクターを務めるトッド・リフェル氏は、オンラインで買い物を行うプロセスのなかで、店舗での商品受け取りに改善の余地があると言う。「実店舗がウォルマートの競争優位性だから、支払い行程のすべてで『My Sotre』機能をより強調させた方が良いだろう」と、リフェル氏は話した。

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Walmart.comのホームスクリーン(左)と、商品ページ

店舗受取を勧めることがウォルマートの利益を押し上げると、イングリエニー氏も同意する。また、ウォルマートのサイトアプリは、買い物客に対し、最寄りの店舗に欲しい商品が置いてあるかを、うまく知らせているとも話した。「ウォルマートは、サイト上の多くのことを簡略化し、最低限に抑えています。サイトの見栄えや利用感覚から分かります」。

ECサイト、Amazon並みのUXを目指す

しかし、前出のUX専門家、イングリエニー氏はウォルマートコムには、Amazonのように「ワンクリック注文」機能がないため、習慣性の薄い客を遠ざけてしまう可能性がある、と危惧する。デジタルエージェンシーのビッグ・スペースシップ(Big Spaceship)で、UX部門のアソシエイト・ディレクターを務めるジェレミー・ベルチャー氏は、「スピードを重視しなくてはならない」と語った。Amazonの統計によると、Amazonのサイト読み込み時間が100ミリ秒遅くなると、売上が1%減少するという。「サイトの読み込み時間はとても重要だ。ウォルマートやAmazonの規模だと、スピードが遅くなるだけで大損失を生んでしまう。UXの向上のためにも、読み込み時間を改善した方がいい」。

一方で、ウォルマートの顧客基盤はテクノロジーに疎い人たちが多いと、リフェル氏は指摘している。もっと言えば、Amazonを利用するような都市部の生活者ではなく、郊外や農村に居住し、自動車で数十分かけてウォルマートの店舗を訪れる人たちと見られる。実店舗を好む、これらの人々は、Amazonなどのオンラインショッピングを好む顧客層とは異なるかもしれない。したがって、ウォルマートのUX施策は、既存顧客には響いても、Amazonを好む都市中間層に響かない可能性がある。

eコマース単体でみれば、ウォルマートコムの売上は120億ドル(2014年)、Amazonは890億ドル(同)と大きく溝を開けられている。前出のニューヨーク・タイムズによると、投資銀行モルガン・スタンレーの小売業界アナリストであるシメオン・ガーマン氏はウォルマートのビジネスモデルに悲観的だ。「小売のインターネットへのシフトは巨大な変化だ。ウォルマートに限ったことではない。すべての小売企業が変化しようとしているが、ロードマップは存在しないのだ。ウォルマートはただ単に最大手であるだけだ。あるいは規模と流通の効率性に根ざした巨獣だ。ただし、そのモデルそのものが溶けつつある」。

(吉田拓史、小嶋太一郎:参考記事
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