東京五輪・組織委、実りはじめた「感情の絆」作る広報戦略:IOCも認めるその成果

2013年にブエノスアイレスで行われたIOC総会で、2020年の開催地に東京が決定してから、開催まで残り3年を切った。

これまでにエンブレム問題、スタジアムの建設場所や建設費用問題と、あまりポジティブとはいえないニュースが大きく取り上げられてきた。だが、組織委員会広報局は予算を順調に調達しており、PR手段のひとつとして、デジタルを活用した取り組みも積極的に行っているという。

組織委 広報局 企画制作部 デジタルメディア課長の庄司佳代氏は「大会にひとりでも多く参画してもらいたいという思いを、デジタルでダイレクトに伝え、またライブ感をもって伝えるためのデジタルならではの手法を常々考えている」とDIGIDAY[日本版]の取材に応えた。

デジタルコンテンツで国内外の人々と東京2020大会を繋ぐ

広報局はすでにFacebookライブ動画を活用し、アスリートのトークセッションをシリーズで配信している。また、開催地に関係するものや場所を、スポーツと絡めた動画で紹介している。

「ダイレクトであり即時性があることで、(SNSは)人々の心が動きやすいプラットフォームだと思う」と庄司氏は語る。「しかし、伝え方ひとつで反応がまったく変わってくるという良さと悪さがある。ポリシーは『エモーショナル』であること。グローバルかつ幅広い世代が共感し、心動かされ、拡散したくなるような投稿を丁寧に作って発信していきたい」。

組織委員会はFacebook、Twitter、インスタグラム、LINEで公式アカウントを運営している。Facebookの公式アカウントの現在のフォロワー数は約51万5000人だ。SNSでは海外からの投稿に対する反応が圧倒的に多いと庄司氏。これまでに、6月23日のオリンピックの日に、「Get Active!」というスローガンのもと、組織委員会に所属する元オリンピアンの伊藤華英氏をはじめとした元競泳選手やクラブサッカーの元選手の3×3(スリーバイスリー)の動画を配信。また、アスリートのトークセッションやインタビュー、組織委員会の職員たちによるマネキンチャレンジの動画を国内外に配信している。8月4日には、1964年の東京オリンピックのために制作された東京五輪音頭のリメーク版、東京五輪音頭-2020-のMVが公開された。

東京2020大会で新たに実施種目に加わったバスケットボール「3×3(スリーバイスリー)」

いかにミレニアル世代を大会に取り込むか

組織委員会の広報局、広報部 戦略広報課長の高谷正哲氏は「ひとりでも多くの人の関心を東京2020に向かわせて、感情的な絆を作っていくことが広報局のミッション」と語る。

今後、消費を牽引していくミレニアル世代のスポーツ離れが深刻化しているといわれるが、IOC(国際オリンピック委員会)も若者のスポーツ離れに危機感を持っている。こうした危機感は、東京開催で新たに加わったサーフィン、スケートボード、スポーツクライミング、バスケットのスリーバイスリーや自転車競技といった、若者が興味を持っているスポーツが追加種目として選ばれたことにも表れているという。

高谷氏は、「大会を通じて社会におけるスポーツの価値やアスリートの役割を世の中の人に理解してもらうことが目標。それを達成するために、ミレニアル世代や子どもに対して大会の魅力やスポーツの価値を発信していくことに取り組んでいる」。

組織委員会はスポンサー企業とともに国内で多数のイベントを開催している。たとえば、国内スポンサーの三井不動産は子どもを対象にしたスポーツクライミングイベントを実施。LIXILの場合は、パラリンピックの選手が使う義足の体験授業を開催しており、スポーツを楽しむコミュニティーを各地に作りだすことで、スポーツの価値を再認識してもらうことが狙いだ。

東京オリンピックの大会組織委員会、広報局の高谷正哲氏(右)と庄司佳代氏(左)

東京オリンピックの大会組織委員会、広報局の高谷正哲氏(右)と庄司佳代氏(左)

スポンサー契約が順調に進んでいる

マーケティング活動においてはIOCが認めるくらい、過去の組織委員会において類を見ない成功を収めてきていると語る高谷氏。立候補時点のローカルスポンサーの収入目標は800億だったが、現時点では2500億円以上の調達を見込んでいる。その成功要因は、通例ではない1業種複数社制を東京2020大会では実施していることだ。

「IOCの基本ルールは1業種1社制。ただ日本の場合は、同じスポンサーカテゴリーにおいて同業から複数手が上がっているものに対して、大会の成功のために、各社とも同業種がいてもいいということだった。大会を盛り上げようという思いで、競合社が共存を認めたことで1業種複数社が実現した」と高谷氏。

「それだけでは組織委員会におけるマーケティング活動の成功とは言い切れないが、マーケティング収入増にはもちろん繋がっている。現時点でこれだけの数のスポンサーが、大会3年前の時点でいるということは、本当にまれだ。IOCも認めるマーケティング活動だと思う」。

現時点の東京2020オリンピックのスポンサー数は56社。そのうち、ワールドワイドオリンピックパートナーの13社はIOCがグローバルで契約しているトップパートナーであり、それ以降のパートナー43社を組織委員会が独自でスポンサー契約している。東京2020パラリンピックの場合は独自でスポンサー契約しているのは46社だ。しかし、全体予算の目標は6000億円に繰り上がったため、高谷氏は楽観視していない。今後、オフィシャルサポーターというスポンサー枠が新たに加わることで、さらなるスポンサーシップ獲得を目指している。

デジタルでライブ配信は可能になるか

なにより、組織委員会の目標である「ひとりでも多くの人に東京2020大会に参加してもらう」ために、オリンピック・パラリンピックコンテンツをどのような形で観客に体験してもらうかの実現も組織委員会の課題だろう。

NHKは2019年から番組のネット同時配信の開始を目指していると報じられている(産経ニュース)。実現すれば、オリンピックのテレビ中継を視聴できない層に対してコンテンツを届けることができる。しかし先日、日本テレビ社長の大久保好男氏がNHKの表明に対して難色を示したと、朝日新聞デジタルが報じている。放送法ではNHKの場合ネット同時配信には規制があるが、民放はその規制はない。ところがまずは、コストに見合うほどニーズがあるのか、また受信料についてなど、ネット同時配信にはNHK側に解決すべき課題が多く残っている。テレビ東京や東京MXですでに一部のネット同時配信は実施しているが、民放もコスト面とニーズの懸念があり、積極的な姿勢ではない。

いまや民放キー局はTVer、Hulu、Netflixなど、動画配信プラットフォームと連携してテレビ番組のプラットフォーム配信に乗り出しているが、オリンピックの場合、中継放送はどのような形で放送されるのか。また、ソーシャルプラットフォームのライブ機能は大会にどう活用されるのかも気になるところだ。

庄司氏に、デジタルプラットフォームでのコンテンツ配信がどれほどテレビ視聴をカバーする可能性があるのか、また放送先との連携について聞いたところ、そうした取り組みについてはまだ何も決まっておらず、議論もはじまっていない段階だと応えた。「大会の盛り上がり、大会期間中の会場でのリアルな競技観戦体験やテレビ視聴体験など、大会に関するさまざまな体験をひとりでも多くの人に楽しんでもらうため、デジタルプラットフォーム上でどのように伝えていくかが重要なポイント」と語るのみに留まった。

Written and photo by 中島未知代
Top Image from 東京2020大会組織委員会