中国における「高級品」eコマースサービスの現状:85兆円市場での挑戦

過去2年半のうち、世界のラグジュアリーマーケットプレイス、ファーフェッチ(Farfetch)は、香港と上海に2つのオフィスを設け、同社にとってアメリカに次いで2番目に大きい市場である中国に対して、万全の体制でサービスを提供している。それにもかかわらず、2008年の進出以来、ファーフェッチの中国消費者に対する売上のすべては、輸入で成り立っている。

「高級品の調達では、中国企業はヨーロッパやアメリカの企業とやり取りする必要がある。つまり、我々が同地域で完全にローカライズされた存在として確立されていないことを意味している」と、ファーフェッチの創業者でCEOのホセ・ナーブ氏は語る。

この状況はファーフェッチが、中国の最大eコマースマーケットプレイス、アリババ(Alibaba)のTモール(Tmall)に次いで2番目に大きなBtoC小売サイトであるJD.comから3億4700万ドル(約347億円)の投資を受け入れた6月に変わった。この投資によってJD.comがファーフェッチの筆頭株主のひとつになるのと同時に、両社はパートナーシップを構築。700を超えるブランドとブティックをもつファーフェッチのネットワークを事実上そのプラットフォーム上で取り仕切ることと引き換えに、JD.comは中国におけるファーフェッチのトラフィックと認知度を高め、同日配送やウィチャットペイ(微信支付)やアリペイ(支付宝)のようなサービスによる現地決済などを含めた地域の物流支援を行う。

サンローラン(Saint Laurent)は、上海、北京、香港にあるサンローランの現地店舗から調達されるオンライン在庫をもとに、中国でJD.com提供のファーフェッチプラットフォーム上で稼動する最初のブランドだ。サンローランは中国でeコマースプレゼンスを発展させようとしている高級ブランドの最近の事例だが、7月には、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)とグッチ(Gucci)が直接運営するオンラインストアを開いている。7月末、アリババのTモールは高額出費する顧客限定で、バーバリー(Burberry)やヒューゴ・ボス(Hugo Boss)のようなハイエンドブランドに特化したプラットフォームをローンチした。

マーケットの地域的な移動は、これまで中国で商品のオンライン販売を行ってこなかった高級ブランドの戦略転換を意味している。世界の高級品市場は、2020年までに年間2〜4%の成長が予測され、鈍化しており、圧倒的な7850億ドル(約85.5兆円)規模を持つ中国のeコマース業界に彼らの目が向けられるようになっている。アリババとJD.comでは、偽造品やグレーマーケット(そこでは、海外で購入された商品がちょっとした利益のためにオンラインで再販される)が蔓延し、高級ブランドが二の足を踏む状態を作り出している。だが、こうした大手のマーケットプレイスでまったく販売することなしに、自社が独自に現地市場に参入すると、外国ブランドにとって物流上の課題が生まれてくる。

ビジネスの拡大を模索する高級ブランドにとっては、中国でのeコマースの課題は、開始するべきかどうかということではなく、どのようにやっていくかということだ。

無視するには大きすぎる

中国でもっとも裕福な顧客の贅沢品の購買力はブランドにとって非常に重要であり、こうした顧客にはブランドの方から彼らにアプローチしてくることを求めるようになりはじめている。

過去には、大半の購買活動は海外で行われていた。中国人顧客が高級品の売上金額の3分の1を占める一方で、本国での購入はそのうちわずか7%にすぎないと、ベイン&カンパニー(Bain & Co.)が行った2017年のグローバル高級品市場レポートでは伝えられている。一般的に、こうした購買活動は、買い物代行者が海外で商品を買い、クライアントに届ける商業経路を通じて行われ、高級品を中国で買うよりも3から4割安く入手することができる。

不正販売を制限し、国内販売を増大させるため、代行売買市場に対する中国における最近の取り締まりにより、現在、高級品を購買する中国人顧客たちは、これまでと比較して、国内でより多くのお金を高級品にかけるようになった。ベイン&カンパニーの予想としては、今後も増加するだろうとのことだ。

「中国では市場に消費者たちが再び戻りはじめ、より大きなグローバルトレンド、つまり高級品のリローカリゼーションの典型である行動パターンが見られる。だが、いまのところ、海外へ向かう中国人旅行者の購買活動による販売機会逸失を相殺するほどには至っていない」と、ベイン&カンパニーのアナリスト、クラウディア・ダルピッツィオ氏は述べる。

プラットフォームの力

世界でもっとも検索されている高級品ECサイト、ファーフェッチは、ふたつのオフィスを超えて運営される中国を拠点にしたチームと、相当数の中国人顧客を有している。それでも、中国で自力でeコマースに取り組むことはできないと判断した。

「重要なポイントは、中国でeコマースを運用することは非常に複雑だということだ。それを可能にしているブランドはほとんどない。サンローランはこれまで中国でオンラインでのプレゼンスがまったくなく、中国市場でダイレクト販売に取り組む企業はほどんどいない」と、ファーフェッチのCEO、ナーブ氏。

ナーブ氏によると、海外ブランドに不利な複数の要因が存在するということだ。現地払い、ユーザーインターフェイス、顧客行動はすべて、地域ごとに微妙な違いがあり、外国企業は対応に苦慮している。

ほかの市場では成功しているが、中国では禁止されているFacebookやインスタグラムのソーシャルメディアキャンペーンのようなアセットや戦略は流用できないため、結果として、ファーフェッチは中国でのオンライン広告の展開と配信に個別のシステムを開発している。同社は、ブランドに直接販売オプションを提供する9億人のアクティブユーザーを持つソーシャルプラットフォーム、ウィチャットのストアも開く予定だ。

アリババやJD.comのような確立されたプラットフォームは、それぞれ5億5000万と2億2600万のアクティブカスタマーを獲得しており、eコマース界のお手本といっていいだろう。彼らは中国人顧客に販売する方法、中国人顧客がどのように買い物をするのか(ほとんどが携帯電話を使っている)を知っており、配送とサービスに対する顧客の期待に適応している。

「中国でオンラインショッピングといえばアリババとJD.comだ」と中国の高級品業界を取り上げるパブリーケーションとコンサルティング企業、ジン・デイリー(Jing Daily)のアソシエイトエディター、イーリン・パン氏は述べる。「彼らはオンラインショッピング、特にサービスや顧客の購入方法について非常に精通している。それに対抗できなければ、競争は非常に困難なものになる」。

ファーフェッチは、JD.comとの契約の一環で、同日配送を保証する、上等な配送サービスを提供することができる。10月には、上海、北京、香港で90分の配送保証(現在、ほかの国際市場でグッチを使ってテスト中)を実施する予定だ。このサービス水準と有名ブランドのみを扱う信頼のおけるファーフェッチのマーケットプレイスを組み合わせることが、ラグジュアリーブランドに消費者を惹きよせることに繋がることは間違いないだろう。

アリババのTモールは同じ市場で成功しようと必死だ。高級ブランドがプラットフォーム上で保護されていることを保証するために、ハイブランド専用プラットフォーム「ラグジュアリーパビリオン(luxury pavilion)」では、ブランドはほかのプレミアムブランドとともに表示され、偽造品は締め出されることになる。また、彼らの商品に目を留めた顧客は、出費金額でそのサービスが利用できるかが評価される。最低出費条件は年間1万5000ドル(約150万円)だが、平均では、アリババでもっとも出費している上客は、年間4万5000ドル(約450万円)分を商品購入に費やしている。

8月第1週、アリババはケリング(Kering:フランスのファッション大手コングロマリット)と知的財産権の保護と偽造品取り締まりに関して協力することで合意した。ケリングの高級ファッションブランドはアリババを通じて販売されていないが、この提携は、アリババのプラットフォーム上でコピー商品を販売している偽造業者たちを特定し、戦うための共同の専門調査団で協力し合うことを意味する。この提携の結果、ケリングは、もっとも利益率が高いグッチとサンローラン商品の模造品の販売を巡って2015年にアリババとアリペイに対して起こした訴訟を取り下げている。

独立した道を築く

自分たちですべてを掌握するために、一部の高級ブランドは直接管理運営するeコマースストアの開設に挑戦している。ルイ・ヴィトンとグッチは、マーケティング、出荷、配送、支払いを含め、中国でのオンライン業務をすべて自社のコントロール範囲に収める予定だ。

「ブランドが所有するWebサイトであれば、ポジショニング、商品情報、価格設定、リスティングをどのように管理していくのかといった問題からブランドを保護できる。強力なブランドイメージをもち、それを維持したいブランドは、コントロールが十分に効かないプラットフォームでの販売には慎重になっていく」とグローバルアナリティクス企業、ブランドビュー(Brandview)のマーケティングマネージャー、ロベル・ナウウェル氏は語る。

2005年にフランスではじめてのオンライン販売を開始したルイ・ヴィトンは、中国12の都市で販売をする予定だ。アリペイとウィチャットをそのサービスに組み込み、現地支払いを容易にするという。すでに中国でオンラインサイトを立ち上げ、ウィチャットでキャンペーンを重視したプレゼンスをもつグッチは、同様のことを行っている。中国では、バーバリーやマイケル・コース(Michael Kors)などが自社独自のeコマースサイトをもっている。

ブランドにとってこの戦略は管理の徹底と併せて、特別性を維持することになるが、物流的には、高い顧客基準を達成する必要がある。

上海に本社を置くRTGコンサルティンググループ(RTG Consulting Group)のチーフストラテジーオフィサー、マルコ・オリビエ・アーノルド氏は、「ほとんどの高級ブランドが拠点にしているヨーロッパでは、ECでの購入体験は中国と著しく異なる」と語る。「中国の消費者は素早い配送を期待しており、さらに優れた顧客サービスによって裏付けられた贅沢な体験も望んでいる。高級ブランドがこれらの違いを理解することは重要だ」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)
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