あなたの知らない、2016年の「ベスト広告」6本:失業中コピーライター(55歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(55)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。

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2016年のベスト広告リストを見ただろうか。アドウィーク(Adweek)が発表したものは、クリエイティブレビュー(Creative Review)が発表したものとよく似ているようだ。ちなみにクリエイティブレビューのリストは、アドエイジ(AdAge)のと似ている。しかし、アドエイジは自分たちが「権威」だと思っているので、リストで発表したりせずに、ひとつずつ小出しにしていた。

2016年はプロダクト広告にとって良い年ではなかった。公共サービス広告(PSA)はなかなか良いものもあった。オーストラリア・ヴィクトリア州の運輸事故委員会(TAC)が制作した、交通事故に耐えられる人間「グラハム(Graham)」は2016年のベストPSAだ。しかし、PSAはそもそも難しい案件ではない。その一方でプロダクト広告はというと……最後にこれは良い、と思わされたプロダクト広告は思い出すこともできない。もう何年も前のことだろう。

しかし年末年始になると、「ベスト」な何かのリストについてブログに書くというのが決まりなので、今回は2016年の良い広告6つ、しかし、注目を集めずに、おそらく読者の多くもまだ見たことがないものを紹介したい。スパイク・ジョーンズによる下らないケンゾー(Kenzo)の香水コマーシャルは含まれていないので安心して欲しい(もし14年前のスパイク・ジョーンズによる「良い」コマーシャルが見たければこちら)。

1. シークレットデオドラント:ナマステ

男子中学生は知らないかもしれないが、女性だって汗をかくし、汗は臭いの元にもなる。ウィーデン&ケネディによるシンプルかつリアル、そして面白いシナリオは良い。良い広告は作るのは難しくないというのがよく分かる好例だ。意味不明なバズワードばかり追いかける奴らに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

2. マクドナルド「コーヒー」:ウェイクアップ

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要点:マクドナルドは淹れたてのコーヒーが飲める。24時間いつだって。そしてこの要点がうまくグラフィックで表されているのがこれだ。ロゴもスムーズにメッセージに組み込まれている。もはや絶滅危惧種となりつつある「よいアートディレクション」も、久しぶりに見ると感心してしまう。ドバイのレオ・バーネット(Leo Burnett)がエージェンシーだ(キャンペーンの全貌はここで確認できる)。

3. アジアス保険:オーシャン・ゾーブ

「『バック・ミー・アップ』はあなたの失敗に備える、アプリを使った新しいタイプの保険です」。ロンドンのM&C サーチ(M&C Saatchi)によるキャンペーンでは、4つのスポットが制作されたようだが、この「オーシャン・ゾーブ」が抜群に見事だ。イヤホンを付けて男の苦しみを聞いて欲しい。これを見ていると、何か悪いことが起きそうな予感がしてくるのも素晴らしい。何よりもシンプルなのが良い。シンプルの重要さについては、本当に言っても言っても足りないくらいだ。今後もシンプルさについて話し続けるし、止めない。いいか、デジタル頭でっかちども。

4. サヴァン「ファボジェシック(鎮痛剤)」:動け

完成度をここまで高めると、広告ストラテジーを良い意味で破壊してくれるという好例。とにかく見て欲しい。最後に出てくるコピーは「痛みは長引くべきではない」。去年夏にはカンヌの金獅子賞を受賞。ふさわしい作品が受賞するという珍しい事態になった。エージェンシーはJWTブエノス・アイレス。

5. バベル:小さいクジラ

語学学校や語学アプリは陳腐なプリント広告の温床となっている(特に南アメリカ)しかしワイデン&ケネディロンドンによる、このスポットは素晴らしい。また完成度も高い。言葉を話せないことのデメリットを強調するのではなく、言葉を話せることのメリットをチャーミングに見せているところも好感度が高い。多くの語学スポットは、外国語が話せないことによる災難などを描いて恐怖心を煽るものだ。私の気分も晴れた。少しだけ。

6. ボルボ:死のABC

ボルボがスペック・スポットを承認するのは珍しいが、これは例外となった作品。自動運転機能やブレーキ補助機能の広告はたくさん世に出てきたが、これが抜群にベストだ。フィルムメーカーであるダニエル・ティッツとドリアン・レブハーツによる制作。制作の裏話はアドフリーク(Adfreak)で読める。

ではまた次の年末年始のベスト特集で。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)