いかにマーケターは「正しい目的」を簡潔に設定すべきか?:SMACという目的設定の道具

本記事は、資生堂ジャパン株式会社の執行役員である音部大輔氏による寄稿コラムです。

◆ ◆ ◆

人生のさまざまな局面と同様、マーケティングの実務においても手段は簡単に目的化してしまいます。なんのためにやっているのか、目的のよくわからない施策や作業がたくさんあります。忍耐力をつける精神修養にしかならないのなら、その作業は必要ありません。目的のないアクションは、取らなくてもいいアクションです。残業しない日を定めても労働時間短縮の効果が限定的なのは、目的の曖昧な作業や仕事がたくさんあるからかもしれません。目的の曖昧さをなくすことで、しなくていいことが明らかになり、作業量が減り、結果的に効率が上がることがあります。

戦略を構成するふたつの基本要素(12)のひとつである目的は、言葉にするまでもなくとても重要です。でありながら、正しい目的、つまり誰もが解釈の余地なく理解できる目的を設定するのは意外と難しいのです。目的が曖昧なままだと、しなくてもいいことが分からなくなりかねません。そこで、今回は目的設定の道具について、お話ししたいと思います。SMACという概念がそれです。

SMACというのは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Consistent(一貫性がある)をつなげた単語です。場合によっては、MがMeasurable(測定可能)ではなくMethodological(方法論の明示)とすることもあるようです。また、AはAchievable(達成可能)と同じ意味のAttainableと説明されることもありますが、Agreed(合意された)と変化することもあります。ひとつずつ説明していきましょう。

Specific(具体的)

数値化する

Specificとは具体的ということです。具体的であれば、解釈の余地を小さくできます。具体的であるためには、数値化しておくと便利です。「市場でリーダーシップを確立する」という代わりに、「10%の金額市場シェアを確保する」と表現することで具体性は格段に上がることでしょう。ここに読み手の解釈の差が入り込む余地はありません。

Measurable(測定可能)

測定方法、単位を明らかにする

Specific(具体的)に記述すると、必然的にMeasurable(測定可能)あるいはMethodological(方法論の明示)になっていきます。明示すべき方法論とは測定方法のことであると考えればわかりやすいかもしれません。10%の市場シェアを目的に設定したとしても、測定できなければ意味がありません。市場シェアは数量シェアなのか、金額シェアなのか。

さらに、測定方法の厳密さも含むべきでしょう。9.5%は端数を繰り上げて10%としてもいいのか、やっぱり10.0%以上でないとダメなのか。事前に決めておくことで、目的達成か否かで無駄な議論を避けることができますね。

Achievable(達成可能)

実現可能性を測る

Achievable(達成可能)とは目的の達成が可能そうであること、あるいは達成が不可能ではないことを意味します。それに対し、Agreed(合意された)は組織や会社のなかで合意がとれていることを示します。それぞれ意味が違います。組織によって目的の達成可能性を優先する場合と、組織内・社内の意思統一を優先する場合があるのかもしれません。前者は社外の不確実性を強く意識し、後者は社内の確実性を重視していると思われます。

目的を明示するにあたっては達成可能性も合意も、ともに大事です。Agreed(合意された)かどうかは、上司に確認してみればいいので、判断自体は難しくありません。Agreedでなければ合意を取りに行きましょう。しかしながら、Achievable(達成可能)を担保するというのは簡単なことではありません。とはいえ、ここをきちんとしないと非現実的な目的を設定することになりかねません。どうすればいいでしょう。

    帰納的に可能性を測る : 過去の実績を参考にして、目的達成の可能性を推し量ることはできそうです。「6カ月間で市場シェア10%を確保する」という目的の達成可能性を考える場合、以前にも10%の市場シェアを達成したことがある、過去18カ月の平均成長率を維持できれば6カ月後に10%までいけそうだ、などといった検証ができれば、過去の延長線上に実現可能な未来を想定できます。対して、過去5年間の最大シェアが6%だとすると、本当に6カ月で倍に近い10%が達成できそうか、不安になるかもしれません。

    ただ、この便利な方法には大きな問題があります。文字どおり、過去の延長線上に未来を見ていることです。時間の流れは一般的には過去から未来へとつながっていますが、世のなかには不連続の出来事もたくさんあります。いままでに経験したことのない大成功などです。自転車では1日かけても辿りつけなかったところへ、自動車なら簡単に行けます。自転車の経験だけで、自動車の限界を推し量るべきではありません。過去のモノサシでは測れない未来があります。特に、大規模なイノベーションを計画している場合にはなおさらです。

    演繹的に可能性を測る : もうひとつの方法は、帰納的なやり方ではなく、演繹的な方法です。過去の実績ではなく、論理の積み上げで目的の達成可能性を予測します。この方法であれば、新しい試みが過去の実績に排除される可能性は少なくなります。経験に基づいて考えれば不可能でも、論理を積み上げることで過去の束縛を逃れ、経験したことのないような成果をもたらす道が示されるかもしれません。

Consistent(一貫性がある)

方向性や整合性の認識

最後に出てくるのがConsistent(一貫性がある)です。これは、戦略の上位概念である会社のヴィジョンや上位組織の戦略、あるいは現状との一貫性を示しています。なぜ一貫性が重要なのか、議論を進めるにあたって、戦略の階層性について言及しておく必要があります。

多くの組織は階層構造をもっています。社長を中心とした取締役会が意思決定の機関を構成します。意志決定に際しては、会社のヴィジョンとの整合性、会社が現在採用している戦略との整合性に基づくのが基本です。ここでの決定は、それぞれの組織が達成すべき目的として、社内に伝えられます。

たとえば、「世界中の消費者に安価な製品を提供する」というヴィジョンに基づいて、成長中の新市場に新しい工場を建設し、製造・流通コストを下げ、価格を低く抑えるという決定がなされたとします。この決定は、物流部門、製造部門、財務部門や人事部門、あるいは開発部門、営業部門、マーケティング部門などにも伝えられます。そして、「新しい工場を建設する」という会社の計画は、「新しい工場の建設を成功させる」という各部門が達成すべき目的となります。

具体的には、物流部門と製造部門は新しい工場の提案書を財務部門と一緒に作成しなくてはならないでしょう。彼らにとっての成功は、新工場が予定どおりの製品を予定どおりのタイミングや価格で取引先に納入できることを指します。

人事部門はその工場用の採用計画を立てなくてはなりません。彼らにとっての成功は、操業開始の日に工場労働者が準備万端、能力も訓練も士気も高く整っていることを指します。

製品開発部門にとっての成功は、新市場でニーズの高い製品群がこの新工場でとどこおりなく製造できることを指すでしょう。営業部門とマーケティング部門にとっては、新たな生産能力を最大限活用するために、新市場での売上伸長が担保されることを指します。

このように、新しい工場の建設を成功させる、という各部門共通の目的は、それぞれに解釈し直されていきます。そして、それぞれの目的に対し、各部門は計画をもちます。それぞれの計画は、今度は各部門内の各部署や各チームの目的となっていきます。

上部組織の計画は下部組織の目的になり、さらに各部署、各チーム、ひいては各個人が達成すべき目的へと細分化されていくはずです。これがConsistent(一貫性がある)の意図です。上位組織の戦略や計画との一貫性、全社の方向性との関連性がある、という意味です。こうすることで、それぞれの部門や部署の戦略は互いに補完的になるはずで、あっちの部門とこっちの部門がバラバラの目的を達成しようとしている事態は避けられることでしょう。

以上が、目的設定を助けるSMACという概念です。戦略を策定したり、アクションを起こしたりする際に必要不可欠な「目的」を解釈の余地なく正しく設定するために、SMACという道具が役に立つ場面は多いことでしょう。SMACをうまく使って目的を明確にすることで、不要な仕事を減らすこともできるかもしれません。

SMACに加え、目的設定や解釈の仕方についてご興味を持たれた方は、拙著『なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる』もどうぞ。目的や資源の扱い方について、説明しています。

Written by 音部大輔
Image via Getty Images