ブランデッド動画の命は、企業の社会性と哲学:Branded Shorts 受賞作に見る未来

プロダクトプレースメントが当たり前になって久しいが、動画広告と映画作品の区別は、近年、ますます曖昧になってきている。

米アカデミー賞公認のショートショート フィルムフェスティバル&アジア(SSFF & ASIA)は、企業のブランディングを目的として制作されたショートフィルム部門、Branded Shortsの受賞作品の上映・表彰式を6月7日に恵比寿で行った。今回の授賞式では、国内外問わず公募制で集まった36本のブランデッドフィルムのなかから、もっとも優れた作品をナショナルカテゴリーとインターナショナルカテゴリーに分けて評価した。

今年は、ナショナルカテゴリー部門では、トヨタ自動車株式会社が広告主の「THE WORLD IS ONE FUTURE, JAPAN, SOUTH AFRICA, AND AUSTRALIA」(監督:永井聡(JAPAN)/小林大祐(SOUTH AFRICA・AUSTRALIA)/井口弘一(FUTURE)、代理店:株式会社電通、制作:株式会社スプーン)が受賞。インターナショナルカテゴリー部門で、Take Note(カナダ、トロントの文房具店)が広告主の「Notes」(監督:Chris Booth & Joel Pylypiw、代理店:BBDO Toronto、制作:Skin & Bones)が受賞した。

「THE WORLD IS ONE FUTURE, JAPAN, SOUTH AFRICA, AND AUSTRALIA」は、4つの異なる時代と地域で起こる普遍的な価値の共有がテーマで、男同士の友情、恋愛、そして自動車への興味が描かれた。「Notes」は、男女のカップルの人生上の出来事をメモでのコミュニケーションを通して表現した作品。受賞式では、Branded Shortsの審査員が登場し、総評のパネルトークを行った。

提供。受賞作品、「THE WORLD IS ONE FUTURE, JAPAN, SOUTH AFRICA, AND AUSTRALIA」。画像提供 SSFF & ASIA

受賞作品、「Notes」。提供 SSFF & ASIA。

ただの企業広告ではない、企業の社会性を表した映像

授賞式では、映画監督の崔洋一監督とSSFF & ASIAの代表で俳優の別所哲也氏が2作品の表彰を行った。崔監督は、「ブランデッドフィルムは企業広告のためにあるのではなく、その企業がいかに社会性をもつか、いかに社会とコミットしているのかを表現する哲学が、ブランデッドフィルムの命だと思う」とコメント。「放送広告は時間の縛りがどんどん薄れてきている。今回は、映画として表現する哲学とは何かというのがひとつの大きな審査の基準になった」と語った。

写真提供 SSFF & ASIA

写真提供 SSFF & ASIA

別所氏は、「ショートショートは1999年、海外フィルムを輸入するのも大変だった時代からはじまった。それから21世紀になって、インターネットとともに映像文化が大きく変わった。俳優としてもこの映画祭を通してさまざまな出会いがあり、生まれたのがこのBranded Shortsという世界。企業そのもの、サービスやプロダクトそのものに物語があると思う」とブランデッドフィルムの部門創設の経緯を語った。

広告と作品のあいだにあるものを評価する

審査員メンバーにはそれぞれ広告代理店側の視点とクリエイターの視点を持ち込み、9名の審査員によって審査された。メンバーは、崔洋一氏(映画監督)、犬山紙子(エッセイスト)、北田淳(コンデナスト・ジャパン社長)、関根光才(映像作家)、高崎卓馬(電通、エグゼクティブクリエーティブディレクター/ CMプランナー)、高野文隆(アサツー ディ・ケイ、クリエイティブ・ディレクター/ コミュニケーション・アーキテクト)、長谷部守彦(博報堂 エグゼクティブクリエイティブディレクター)、山戸結希(映画監督)、行定勲(映画監督)の9名だ。

審査員と受賞者(中央)。 写真提供 SSFF & ASIA

審査員と受賞者(中央)。 写真提供 SSFF & ASIA

犬山氏は「どちらも企業へのイメージが良くなる広告だった。審査会に初参加だったが、審査の現場は本当に白熱するものがあって審査員の情熱があった」と語る。高崎氏は「広告の概念が揺れつつある。Branded filmのようなものが作られてくると、だんだん作品と広告の合間が混沌としてくるのだなと思った。この分野のカテゴリーの意味付けが今後どのようにされるのかが楽しみ」とコメント。

アサツー ディ・ケイの高野氏は「はじめは、この視点がブランドにどのように上手く着地するのかな、どのくらい見られるかなという、KPIの視点でみているが、あるときにストーリーの哲学に引っ張られていく瞬間もある。広告が広告として機能していないことが多くなっている時代に、映像の本質的な力は、視聴者と同じ視点や方向を向いている作品が生き残っていくのだなと実感した」と語った。

また、クリエイターからの視点では、RADWIMPSのMVや映画『溺れるナイフ』を手掛けた映画監督の山戸氏が「映画を作っている人が、広告としての制限があることに嫉妬してしまうような、広告でしか作れない映像表現が2作品にあったと思う。映画制作からは生まれてこない映像文法を使った作品だったと思う。ブランデッドフィルムは新しい映像文法を開発する場だ」と語る。

さらに、行定勲監督は「映画監督としてBranded shortsは他人事じゃないカテゴリーになってきた。作品作りとして考えさせるものがあった。今回は広告か作品かは意識せずに審査した。日常の何気ないものを映画に切り取ると、退屈なものではなかったという、人生を肯定できるようなものが2作品のなかにはあった。誰にでも起こり得る出来事をこういう手法で見せるのかと共感と嫉妬を覚えた」とコメントした。

こうした長尺のブランデッドフィルムが認知されるようになった背景には、ソーシャルメディアの影響力が大きい。FacebookやSnapchat、インスタグラムで動画が消費されるようになり、人々が15秒以上の動画に耐えられる習慣が出来たことによると、スペシャルゲストのトークセッションで、DIESELの2017年のキャンペーン「MAKE LOVE NOT WALLS」の動画クリエイティブを手掛けた、Dictionary Filmsのエグゼクティブ・プロデューサー、ピーター・グラス氏は指摘する。

また、動画コンテンツ制作技術の発展とともに、クリエイターに求められるのは、クラフト(職人としての仕事)だとグラス氏。広告と作品の境目が曖昧になるに連れて、中間的な存在のブランデッドフィルムが今後より企業から注目され、放送にはない、オンライン配信特有の映像構造が発展していくのは間違いない。そのオンライン配信の特徴とは、ファストペースであり、メタ構造であり、1話で完結型のストーリーテリングであること。360°動画やVRが発展するにつれ、クリエイターは舞台演出のようなスキルも求められると議論された。

※DIGIDAY[日本版]は、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア Branded Shorts」のメディアパートナーとなっています。

Written by 中島未知代
Images from Short Short Film Festival & Asia