リオ2016から東京2020へ:今日からはじまるブランド・アクティベーションへの挑戦

本記事は、株式会社電通のコンサルティング・ディレクター、小西圭介氏からの寄稿となります。内容に関しては著者個人の意見であり、所属企業の見解を代表するものではありません。

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2016リオデジャネイロ・パラリンピック大会が現地時間9月18日に閉会し、ひと月半におよぶリオ・オリパラの熱い夏が終了した。リオでの競技選手の活躍および大会運営、またブランドの協賛活動とオーディエンスのエンゲージメント形成は、次の東京大会に向けてさまざまな示唆をもたらすものであった。本稿ではマーケティングの観点から、リオ大会のアクティベーション(協賛権を活用した取り組み)の成果と、東京2020に向けての考察を述べていきたい。

リオ・オリパラ大会のブランディング競争の成果とトレンドは?

今日のオリンピックイベントは、世界最強のグローバル・コンテンツを通じてオーディエンス基盤とブランドを直接結びつける、デジタル時代の巨大マーケティングプラットフォームとしての価値を増幅しつつある。ここでは世界の主要メディア、プラットフォーム各社が発表した、リオ大会のブランド・アクティベーションに関わる数値データを見ていこう。

1. SNSプラットフォームでの五輪エンゲージメントは?

Facebookの発表によると、リオ・オリンピック大会期間に2億2700万人の利用者の15億回のインタラクション(リアクション、コメント、シェア)があった。また1億3100万人もの人々がインスタグラムでオリンピック関連のコンテンツを楽しみ、9億1600万のエンゲージメント(写真や動画のシェア、いいね!、コメント)を記録したという。

インスタグラム上でエンゲージメントの高かった国を示したヒートマップ

インスタグラム上でエンゲージメントの高かった国を示したヒートマップ

なお、リオ五輪大会期間中に日本人代表選手がインスグラムで投稿したうち、もっともいいね!された写真は、男子体操・白井健三選手のこのショット。

olympic champion team😊🇯🇵🎊

Kenzo Shiraiさん(@kenzoshirai)が投稿した写真 –

Twitterもリオ大会のデータを発表しており、「#Rio2016」に関係するツイート数は1億8700万、インプレッションは750億回に達している。Twitterでもっとも盛り上がった瞬間は、男子サッカー決勝(ブラジル対ドイツ)のPK戦で、ネイマールが最後のシュートを蹴り込んだ歓喜の瞬間だった。

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2.大会期間中のブランド・アクティベーションの成果は?

米国Adweekの記事では、五輪期間中に放送されたトップ12ブランド広告についてGoogleが調査した結果を報じている。リオ五輪関連の広告は全体で35億インプレッションを記録、想起率1位はナイキ「Unlimited」キャンペーンで34.4%。次いでコカ・コーラ「That’s Fold」キャンペーンの33%となっている。女子体操シモーヌ・バイルズ選手を起用したP&Gタイドの広告「Small Can Be Powerful」も22%、製品想起率50%と好成績だった。また、五輪広告に関する検索の83%がスマートフォンで行われ、タブレットが10%とモバイル利用がさらに加速している。

PR WEEKでは、コンテンツアナリティクスを専門とするAlva社のグローバルなオリンピックパートナーのリオ大会期間の「Visibility(ブランドに関する顕著で独自の言及度とオーディエンス影響度)」と「Likability(ブランドに関するポジティブな言及の割合)」の変化を分析してマッピングを紹介している。この分析によると、金メダルの獲得者は+103%のVisibility上昇と+9%のLikabilityを達成したサムソンということになる(下図)。

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もちろん、これらはあくまでもオリンピック期間中の短期的な広告効果に限定されたデータであり、五輪協賛のブランド・エンゲージメント効果は、より長い視点での投資対効果とブランド価値の向上を見ていく必要があるのは言うまでもない。

3.オリンピックのメディア視聴とターゲット変化は?

AdvertisingAgeのレポートでは、米国でリオ五輪を独占中継したNBCの夜の平均視聴者数は2600万人・世帯視聴率14.9%(放送とケーブルテレビとストリーミング視聴者を合わせた全体の視聴数/率)となり、ロンドン五輪からは15%減となった。特にミレニアル世代の五輪視聴離れが進み、18-34歳のプライムタイム平均視聴率は5.3%で、ロンドンの7.7%から31%減となっている。リオは視聴者年齢の中央値が52.4歳と、テレビ放映史上もっとも視聴者年齢の高い五輪となったという。

一方で、オンライン配信では5000万人の視聴者の半分以上が35歳以下で、34億分オンライン配信を視聴を行い7%分の視聴率の押し上げ効果となった。また、オリンピックハイライトをデジタルコンテンツ提供したSnapchat(スナップチャット)の「ディスカバー」チャンネルとライブ配信の「ライブストーリー」サービスでは合計1.9億分以上の視聴がなされている。ミレニアル世代はオンライン視聴の割合が高く、夏季オリンピックは「ライブコンテンツ」としての同時視聴・体験ニーズが強いためデジタル視聴シフトを促すことになった。今後東京大会でもライブ配信とデジタル・プラットフォーム活用がますます鍵になると考えられる。

4、パラリンピック大会の進化とミレニアルズへのポテンシャルは?

注目すべきは、ロンドン大会に続くパラリンピックの躍進だ。国際パラリンピック委員会(IPC)によれば、2012年のロンドン大会からパラリンピック中継の地域が3割増え、リオ・パラリンピック大会中継の世界全体の視聴者が初めて40億人に到達した。当初懸念された観戦チケット販売枚数も、パラリンピック大会期間中に急伸して210万枚と史上2位の実績をもたらした。

英国でリオ・パラリンピックを独占中継するチャンネル4は「We’re the Superhumans」を7月に公開し、Unrulyによると8月23日までに146万回以上シェアされてリオ大会でもっとも多く共有された動画コンテンツとなった。

また、ナイキやサムソン、ビザやパナソニックなど各社のリオ大会キャンペーンでも、オリンピックとパラリンピックアスリートを分け隔てなく、共通の括りで紹介・活用したことも特徴的であった。

ニールセンが9月に発表したリサーチ*では、パラリンピックとスポンサーブランドは、オリンピックと対比して特にミレニアルズ(18-35歳の若年層)へのブランド構築に大きな可能性があることが示されている。パラスポーツ支援が、単なるスポーツ協賛にとどまらず、社会変革を促すブランドとしての信頼性とエンゲージメントを高める効果をもたらしうる。

5、五輪アクティベーションの影の勝者は任天堂?

そして、リオ五輪(およびリオ・パラリンピック)閉会式での次期開催国・東京のパフォーマンスはオーディエンスとメディアの大きな反響を呼んだ。YouTubeのNHK公式チャンネル動画の再生回数は700万回に登り、NYTimesやBBC、NBCはじめ世界の主要メディアでも好意的に取り上げられて、東京2020と日本への期待を高めることに成功したといえよう。また、その後9月7日にAppleの新製品発表会で、iPhone7とともに「スーパーマリオラン」のスマホゲーム参入発表を行った任天堂は、プレイスメント面での最強の勝者かもしれない。

リオ五輪閉会式の東京五輪引継セレモニーのパフォーマンス映像より

リオ五輪閉会式の東京五輪引継セレモニーのパフォーマンス映像より

東京2020:今日からはじまるブランド・アクティベーションへの挑戦

さて、ここまでリオオリンピック・パラリンピックの成果データとトピックを紹介してきたが、2020東京オリンピック開幕までわずか1400日と、次なる挑戦がすでにスタートしている。ここでは、東京2020に向けたマーケティング活動への示唆を3点述べておく。

◯協賛投資を活用し価値を生むブランド・アクティベーションを

オリパラを活用したマーケティング活動は大会期間の宣伝に留まるものではない。大規模化するスポンサー投資を行う企業にとっては、ポスト2020も見据えた中長期の価値づくりを戦略的に進めていくことが肝心だ。世界最強の「ブランド」でもあるオリンピック・パラリンピックを活用したアクティベーションは、特に多くの日本企業にとっての課題でもある、グローバルブランドとしての新たなステージへの成長進化のチャンスを切り拓くものだ。2020はデジタルプラットフォームを中核としたグローバルブランディングの大きな契機となるだろう。

また今後4年間は、東京からさまざまなイノベーション投資を有効活用し、新たなハード・ソフト面でのレガシー形成を実現していく時期である。開催国ブランドのチャンスを活かして事業や社会的な価値づくりも含むアクティベーション活動をまさに今日からはじめていくタイミングが来ている。

◯デジタル・テクノロジーから実需を生むマーケティングへ

フィジカルな価値を擁するスポーツとデジタル・テクノロジーは親和性が高く、リオ大会でもライブ体験やVRをはじめ、さまざまなデジタル活用が行われた。

さらに、データ計測・ビジュアライゼーションで「見る」スポーツから「参加する」スポーツ市場を拡大するIoT技術で、健康や娯楽価値を拡大する、デジタルコンテンツ化で価値を高めるなど、デジタルが新たな実需を生み出すことが期待されている。

スポーツ庁はこの夏、スポーツ未来開拓会議の中長期戦略として、現在推定5.5兆円で縮小傾向にある国内スポーツ産業を、2020年には10.9兆円、2025年には15.2兆円産業に育てる成長プランを発表している。デジタルはこうした新たな市場創造にどのように貢献できるだろうか。東京2020はデジタルマーケティングがメディアやチャネルの最適化にとどまらず、スポーツや観光に代表されるような新たな実需を生む、マーケティング革新のチャンスでもある。

◯パラリンピックの進化とブランド構築チャンス

先に述べたように、世界ではじめて2度目の開催となる東京パラリンピック大会は大きなポテンシャルを秘めている。パラスポーツは2017年に4つの世界チャンピオンシップが開催されるなど、メジャー化に向けて新たな進化を計画しており、協賛スポンサーの積極的な支援活動や、バリアフリーをはじめ開催都市環境整備の取組みもすでにはじまっている。

このように2020東京パラリンピック大会では、新たな社会的ムーブメントを牽引するイベントに躍進することは間違いない。ミレニアル世代へのブランド構築視点からも、パラリンピックムーブメントを活かした共生社会への進化をブランドが先導していきたい。

Written by 小西圭介
Image from Thinkstock / Getty Images