イベントマーケティングのデジタル化、その最前線とは?:「BACKSTAGE2016」レポート

ブランド企業はしばしばイベントを開催し、リアルな体験をユーザーに提供している。しかし、その目的はブランディングだけとは限らない。ユーザー同士を繋げ、そこにコミュニティを創りだすことも、企業が考えるイベントマーケティングの目標のひとつだ。参加者同士がその場限りの価値を共有できれば、そこにコンテンツが生まれる。

アメリカの主要パブリッシャー数社が、ここ数年、イベント事業を収益の大きな柱にしているように、イベントマーケティングの需要は増えてきた。マーケティングのデジタル化が進むなか、ユーザーはリアルな体験を求めるようになったのか?

2016年8月30日、イベンターのためのイベント「BACKSTAGE」が東京・虎ノ門ヒルズにて開催。テクノロジー企業からイベント企業、そしてメデイア企業が参加し、それぞれのイベントへの取り組みや想いを紹介した。

たとえば、コムエクスポジアム・ジャパン代表取締役の武富正人氏は、セッション「グローバルイベントの作り方」にて、日本企業の経営者やマーケターは本音で語り合うという習慣に慣れていないという。「イベンターとしてアメリカのように本音で議論ができるイベントを日本に持ち込みたいという思いが、Ad:tech Tokyo開催のモチベーションだ」と語った。

コムエクスポジアム・ジャパン、代表取締役社長の武富正人氏。

コムエクスポジアム・ジャパン、代表取締役社長の武富正人氏。©BACKSTAGE

以下、注目のセッションの内容をかいつまんでご紹介していく。

位置情報がイベントにもたらすもの

「ポケモンGO」によって、一気にその名が世間に知られたゲーム企業ナイアンティック。同社アジア統括マーケティングマネジャー須賀健人氏は、「ポケモンGO」の前身となった、位置情報データを活用するAR(拡張現実)ゲーム「Ingress(イングレス)」のイベント規模を年々拡大させているという。

現実世界とゲームの世界をデジタルでつなぐAR体験は、アバターが不要でユーザー自身がゲームの登場人物となるため、高いエンゲージメントを要求する。だが、それがユーザーを惹きつける魅力のひとつでもあるようだ。ゲーム内の重要ポイントが位置情報と連動しているため、ユーザーは街中を移動しながらプレイし、さまざまな場所を訪れる。

ナイアンティックのアジア統括マーケティングマネージャー、須賀健人氏。

ナイアンティックのアジア統括マーケティングマネージャー、須賀健人氏。©BACKSTAGE

回数を重ねるごとに参加人数の事前予測が難しくなるほど規模が大きくなっていったと須賀氏。今年の東京開催のイベントでは1万人以上の参加者が集った。ユーザーはなぜ「Ingress」のイベントに参加するのか。そこには4つの理由があると須賀氏はいう。「ユーザーがイベントに来てくれる4つの要素は、当日限定のグッズ販売、当日しかもらえないグッズ、普段は出会わないほかのプレーヤーとの交流、そして3カ月に1回のゲーム大会の主催だ」。

また、イベント参加者は二次創作物を公式に販売することができるという点も、参加者が楽しめる要素のひとつだという。二次創作物のグッズは「Ingress」の公式グッズよりも売れ、メルカリを通して販売されている。

媒体向けに広告プラットフォームサービスを提供するフリークアウトも、同様に位置情報データを活用したビジネスを展開している。同社CEOの本田謙氏は、セッション「テクノロジーが変える未来のイベントマーケティング」で、こうした位置情報データを活用することで、競合イベントの状況が丸見えになり、「ファーストパーティデータの概念が希薄になってくるだろう」と言及。「アプリが位置情報を取得していれば、そのアプリオーナーがデータを販売出来るようになり、データ流通の産業(ビジネス)が起こる」と、今後のデータ情報のビジネス化について語った。

SNSとイベントの関係性

ライブ感やリアル体験が、ソーシャルプラットフォームのコンテンツとして成り立ついま、コルク代表取締役社長の佐渡島庸平氏とお笑い芸人の大谷ノブ彦氏は、「マンガ x DJ x テレビ」というセッションで「編集」が果たす役割について議論した。

「コミュニティが知っている人物かどうかによって、ライブコンテンツの方が通用するのか、編集されたコンテンツの方が通用するのかが違ってくる」と佐渡島氏。「ハッシュタグがコミュニケーションツールとして流行っているのが良い例。雑誌の中吊りのようなタイトルの面白さがあり、ハッシュタグに関連する興味をもったユーザーたちのコミュニティを創り出す。こうしたプラットフォームの発展によりコミュニティが成長するうえでの連続性が可視化されるようになった点が、一気にマスへリーチするTVと違うところ」。

コルク、代表取締役社長の佐渡島庸平氏。

コルク、代表取締役社長の佐渡島庸平氏。©BACKSTAGE

大谷氏は若者のソーシャルコンテンツの消費行動について分析し、「SNSやネットは、ライブコンテンツと編集コンテンツが複雑化したレイヤーのようになっていて、いまの若者はそれらを上手くチューニングしながらコンテンツを体験しようとしている」とコメント。人を巻き込むサイクルは、ソーシャル上のコミュニティが能動的に動きだすことで生じると話した。

「チューニング」という作業は、編集と一致する部分があり、それはデータ処理がいくら精巧になっても、人の手が必ず介入するもので、リプレイスされることが出来ない価値だと佐渡島氏は説明。また、日本の出版、メディア業界はキラーコンテンツが常識を覆すのを期待しすぎているとも指摘した。「すべては流れである。海外のサッカー場の周りにパブなどが充実しているように、コンテンツの周りにユーザーや顧客が体験を共有できる環境を作っていくべき。その方法をデジタルでどうやって出来るかを考えている」と、海外を視野にデジタルとイベントを融合したマーケティングを模索している。

現実世界に広がるYouTube

YouTubeは動画を配信するクリエイターが、自らの体験をユーザーと共有するプラットフォームだ。また、観たいコンテンツを検索するという、ユーザーの能動的な視聴姿勢が強みでもある。そんなYouTubeは、クリエイターの動画配信の時間に合わせてコンテンツを訪れ視聴するユーザー、いわゆる目的視聴の割合が増えているという。「デジタル時代のExperiential Marketingとは?」のセッションで、GoogleのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー、中村全信氏は「広告主は以前ならメディアを知らなくても広告出稿を行っていた。それがいまは、メディアを知ったうえで、オーディエンスのことも可視化された状態でメディアを選ぶようになっている」と語る。

GoogleのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー、中村全信氏。

GoogleのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー、中村全信氏。©BACKSTAGE

YouTubeは、ユーチューバーと視聴者やファンが交流するイベントを催しており、広告主や代理店からはメディアとして評価されているという。サブスクライバーが1万人以上いるユーチューバーには、無料でコンテンツ製作スタジオ、「YouTubeスペース」を開放しており、コンテンツ強化を支援している。中村氏は、インスタグラムはライバル視していないとはいえないが、YouTubeとはユーザーの使用目的が異なると指摘した。

YouTubeのコンテンツ視聴の65%はモバイルからだ。今後は、正確な効果測定のためにデータをどのように可視化していくか、またコメント欄をどうマーケティングに活かしていくかが課題だという。

ユーザーに委ねることで活性化

「自走するイベントの作り方」のセッションでは、企業向けのソフトウェアなどのサービスを提供するアマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)やKintoneのサイボウズ、ソラコムが登壇。それぞれのサービスのユーザーたちが積極的に製品についての勉強会を各地で開催しており、ブランド側は新製品紹介などを一切行わず、イベント運営を助けるサポートに専念していると語った。AWSマーケティング本部 本部長の小島英揮氏は、JAWS UGというイベントの責任者としてユーザー主体のイベント運営に尽力してきた。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンマーケティング本部長の小島英揮氏。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンマーケティング本部長の小島英揮氏。©BACKSTAGE

小島氏は、イベントを活性化させるコツとして「フィードバックを形に変えられる人物がコミュニティにいること、ユーザーから勉強会イベントに呼んでもらえるような関係性を構築すること」をあげた。また、Kintone caféを主催するサイボウズのkintone、プロダクトマネージャーの伊佐政隆氏は、「世代交代をし続けられるかが、自走し続けられるコミュニティの条件だ」と話した。

こういったイベントを運営する場合、社内からの応援が得られない場合があることもイベンターが頭を悩ませる所だ。そこで、社内でもスタッフに対しての勉強会を開催し、地道にユーザー主体のイベントへの理解を求めることが懸命だと議論された。

イベントマーケティングの最大の魅力は、ユーザーと実際に交流するチャンスをもてることだ。単に自社ブランド製品を知ってもらうための場ではなく、ユーザーが望むコミュニティの形を実現することでコンテンツ化するということだ。また、イベントの開催はユーザーとの長期的な関係構築に繋がるという点も、今回のBackstageのセッション全体を通して語られたことのように思う。

Written by 中島未知代

※DIGIDAY[日本版]は、「BACKSTAGE2016」のメディアパートナーです。