「歳を重ねる」という言葉の復権:ファッション業界の年齢差別との戦い方

ジャッキー・オシャウネシー氏はロサンゼルスでの20年間の勤務を終え、ニューヨークに戻ったばかり。ウエストビレッジの友人宅に滞在していて、喫煙するため外へ出たときだった。午後9時、彼女はかつて住んでいた家の眺めと喧騒を懐かしんでいたとき、ひとりの女性が近くのレストランから出てきて彼女に近づいてきた。

「あなたはとても堂々としている」と彼女はいい、当時60歳だったオシャウネシーを驚かせた。彼女が異論を唱えはじめると、その女性は「そんなことはどうでもいい。あなたは美しいのだから」といって、夜の街に消えていった。

オシャウネシー氏は嬉しく感じたが、数週間後、はじめて出会った場所からほど近い別のレストランでその謎の女性に出くわすまで、そのやり取りをさほど気に留めていなかった。ふたりは一緒に夕食をともにした。数時間話し合い、連絡先を交換してから分かれた。それから数週間、ふたりは街で定期的に会った。ある日女性はオシャウネシー氏に写真を撮ってもらいたいかと尋ねた。女性はオシャウネシー氏が女優をしていた経歴を知っており、円熟したモデルを使った実験に興味をもっていた。

そのとき、オシャウネシー氏はマーシャ・ブラッディという名前しか知らなかったその女性が、実はアメリカンアパレル(American Apparel)のクリエイティブディレクターであることを知った。ブラッディ氏はオシャウネシー氏にブランドの次のキャンペーンの顔になって欲しいと頼み、オシャウネシー氏はそれを引き受けた。その日ランジェリーをまとったいくつかのポーズを含めた一連のポートレートでポーズを取ったあと、オシャウネシー氏はワクワクした。次に知ったことは、バイラルセンセーションになったということだ。

2012年アメリカンアパレルのキャンペーンでポーズをとるジャッキー・オシャウネシー

2012年アメリカンアパレルのキャンペーンでポーズをとるジャッキー・オシャウネシー

未開発市場

第2次世界大戦後の1946年から1964年のあいだに生まれた、ベビーブーマーと呼ばれる世代を調べたニールセン(Nielsen)の調査によると、米人口の推定50%が今年50歳以上になると予想されている。さらに、このグループは、2017年末までに米国の可処分所得の70%を支配すると見られている。

この現状は、アメリカで長年にわたり若者の代名詞であり、容姿や深く根付いた美の基準に基づいてその大部分が構築されているファッション業界に変化を促している。特に女性の場合それが顕著だ。ハリウッドを一目見ても、2014年から2016年の25の最優秀作品賞候補を調べた南カリフォルニア大学の調査では、60歳以上の俳優の78%が男性であったのに対して、女性はわずか12%だった。

50歳以上の女性がより大きな消費パワーをもつ時代、15歳の若いモデルを何十年もランウェイの中心に据えて途方もない値札をつけた商品を販売する高級ブランドにとっては、力が試される分岐点にもなっている。

『ディス・チェア・ロックス:年齢差別に対抗するマニュフェスト(This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism)』の著者アシュトン・アップルホワイト氏は、「ファッションで興味深いことは、それが美に極端な焦点を当てており、パラドックスを生んでいることだ。もちろん、私たちは若さに心酔し、若さと美を同一視するが、歳を重ねることと美しさの共存は可能だ。高齢のモデルを採用することは、それを検証することになる」という。

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2015年のセリーヌの広告に登場した小説家ジョーン・ディディオン

 

ファッションスポット(Fashion Spot)の調査によると、今年2月、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ミラノで開催された世界ファッションウィーク期間中に、年齢50歳を超えるモデル21名がランウェイを歩いており、昨秋のモデル13名から増加している。ニューヨークでは、オシャウネシー氏がラルフローレン(Ralph Lauren)、マイケルコース(Michael Kors)、トムフォード(Tom Ford)、J.クルー(J. Crew)、レイチェルコーミー(Rachel Comey)、トム(Tome)といったブランドのショーに参加しており、年齢の壁をなくす動きを牽引した。

「我々はこれまで若さイコール美であるという考え方を植えつけられてきた。そして、商売のために若い女性の性的側面を強調することが主流となると、広告やショーに採用することが当たり前になった」と、トムのデザイナー、ラモン・マーティン氏は語った。 「そのキャスティングの方法が無視しているのは、そのほかの女性たち、デザイナーブランドの服を買えるだけのお金とライフスタイルをもっている円熟した女性の一大グループだ。そうした女性に共感する、同じ年齢層の人たちを目の当たりにして、私はそのような女性たちのことを考慮するようにしている」。

デザイナーブランド、トレーシー・リース(Tracy Reese)も年齢の壁をなくす動きに重要な役割を担っている。コミュニケーションマネージャーのアリーサ・ジョーンズ氏によると、ブランドは消費者基盤の理解を反映した取り組みを行っているということだ。「当社の顧客がさまざまな年齢層に広がっていることを認識しており、そのことを反映させる必要性を感じた。その年齢層の女性を代表する誰かが当社の服をまとっているのを顧客が目にすることで大きな違いが生まれてくる」。

トレーシー・リースの2017年春キャンペーンからの画像

トレーシー・リースの2017年春キャンペーンからの画像

 

ショーのランウェイやマーケティングキャンペーンに登場する50歳以上の女性モデルの割合は比較的小さいが、彼女たちの存在は話題になる。カルバン・クライン(Calvin Klein)は、73歳の女優ローレン・ハットン氏が同ブランドの最新下着キャンペーンに抜擢されることを4月末に発表したばかりだ。一方で、元モデルのタイラ・バンクス氏は、自身の人気リアリティー番組『アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル(America’s Next Top Model)』で参加者の年齢制限をなくすことを3月に発表している。また、モスクワを拠点にした新しいモデルエージェンシー、オルドゥシュカ(Oldushka)のように、45歳以上の顧客に限定して門戸を開くといった変化への明るい兆しを示す世界的な反響もある。

変わりつつある認識

ブラッディ氏はアメリカンアパレルの撮影中、2008年に35歳のアリ・セス・コーエン氏がはじめたブログ「アドバンスト・スタイル(Advanced Style)」を偶然目にしたことで、円熟した女性をキャストすることを思いついたと、オシャウネシー氏に語った。当時、コーエン氏はニューヨークに引越し、いまは亡き祖母と貴重な時間を過ごしていた。祖母は彼が知る多くの年配の人たちと対照的に歳を取ることについて特にポジティブだったとコーエン氏はいう。ストリートスタイルのブログが注目されはじめた時期、祖母や街中で遭遇したスタイリッシュな年配の女性に触発された同氏は、彼女たちの写真を撮り、オンラインで共有した。

「僕はライフスタイルやファッションメディアを代表するような女性たちは探していなかった。僕が出会った女性たちは、なによりも自分にインスピレーションを与えてくれた」とコーエン氏は語った。「ファッション業界は年齢差別主義だ。なぜなら世界がそうだからだ。そして、ファッション業界は多くの世界観を反映する。僕はそれとは異なる何かを提示し、歳を重ねることを別の方法で表現する機会を得ることができた」。

ニューヨーク・タイムズ(New York Times)のファッション評論家ヴァネッサ・フリードマン氏がエイジング活用の推進に関して同氏の功績を認めていることもあって、以来コーエン氏はファッション業界でエイジングを進んで活用するという動きの牽引役となっている。コーエン氏はこのテーマについて2冊の本を執筆し、『アドバンスト・スタイル』と同じタイトルがつけられたドキュメンタリー作品の制作を助けると同時に、デザイナー、カレン・ウォーカー氏とともに、62歳から93歳のモデルを限定採用したキャンペーンに取り組んだ。コーエン氏によると、キャンペーンが終わったとき、ウォーカー氏から直接電話があり、突然年配の女性たちが大挙して同氏の店に押しかけるようになったとのことだ。

「我々は『年を取る』という言葉を復権させるために取り組んでいる。人々はその言葉を恥じているし、自分たちに使われたくないと思っている。年を取ることへの恐怖という巨大な文化があり、世界中でエイジングに対抗している。それがこの戦いを困難にしている」と、ウォーカー氏はいう。

アリ・セス・コーエン氏と彼のブログ『アドバンスト・スタイル』をテーマにした写真

アリ・セス・コーエン氏と彼のブログ『アドバンスト・スタイル』をテーマにした写真

 

コロンビア大学エイジングセンターの社会医療科学および心理学アシスタントプロフェッサーのデビット・ワイズ氏はコーエン氏に同調し、一番の課題はアメリカ社会におけるエイジングへの認識を変えることだと語った。ワイズ氏は、研究を通じて年齢からの離脱と呼ばれる拒否感につながる、年を取ることに関して否定的な感情が蔓延していることを発見した。

「人は年を取るにつれて老いを遠ざけようとする。こうした態度が高齢者差別と、誰も年を取りたくないという考え方を維持している。その場合、老いることに肯定的な意味を与えることは難しく、否定的な年齢への偏見に対抗することが難しくなる可能性がある」。

ファッションにおけるエイジングの未来

アップルホワイト氏は、ファッションとビューティー業界がエイジングを受け入れることに前向きでない状況は、消費者自身が年を取るという概念を敬遠していることによって存続していると述べた。シワを取り除き、より若く見せるために女性たちに売り込まれる数々の製品に加えて、「年相応の」行動という誤った考え方を促進させる衣服によってこの状況は悪化していると、アップルホワイト氏はいう。

「時折、私のブログで『年配の女性がミニスカートをはいても良いのか?』と質問する人がいる。私は本人が望むものは何でも着て良いと思う。周りの人たちがそれを見て快適でないとしても、それはその人たちの問題だ」と、同氏は語った。

この循環を緩和するには、年配女性へのマーケティングは、気になる部分を小さくしたり目立たなくするということよりも、彼女たちの魅力を見せつけることにもっと焦点を当てるべきだとアップルホワイト氏は述べた。

「年齢差別が収益にさえ勝るというのは、驚くべきことだ」と、アップルホワイト氏は語った。「市場は赤字志向になっている。ウエストラインやヒップラインがはっきりしなくなってしまった人が着用できるゆったりした服だけを提供する。それでは、聴覚を失ったときの補聴器と一緒だ」。

コーエン氏は、適切なマーケティング活動が行われない場合、年配女性たちが束の間のトレンドとしてコモディティ化されはじめ、最終的に年配の消費者たちのさらなる疎外または盲目的な崇拝化に向かうことを心配している。

「私は年配の女性たちがアクセサリーのように扱われ、若い人たちのあいだで身動きがとれない様子を見て残念に思う。焦点を当てるのは、年齢ではない。重要なのは、人々が考えていることを活用するのは、ひとつのトレンドだということだ。私としては、これがあまり進歩しているとはいえない」。

アメリカ社会がエイジングの概念を再考し続けることで変化が起こると、コーエン氏は予想していた。「人は皆、年を取る運命にあることを認識しなければならない。だからエイジングについて話をしたり、会話を生み出したりすることが重要だ。女性たちはありのままの自分でいることに一層勇気づけられ、年齢を隠さなくなる。彼女たちは若い年齢層と年配層のあいだに対話を生み出している。そして、多くの女性が髪の毛が白くなっていくことに抗わない」。

しかし、オシャウネシー氏は、この動きが一時的な成功に留まらないことに希望をもつ。同氏はトムのショーに参加後、あらゆる年齢層の人々から活躍を称えるeメールを受け取った。そのなかには、もう年を取ることを恐れないと伝える若いファンも多く含まれていた。

オシャウネシー氏はいう。「人々が正々堂々と意見を述べることで、このトレンドは前進し続ける。私は年を重ねることに抗っていない。年を取ることを受け入れているのだ」。

Bethany Biron(原文 / 訳:Conyac