製薬業界に学ぶ、プログラマティック広告の運用方法:厳しい規制の乗りこなし方

プログラマティックは複雑になりがちだ。そのことは、大手製薬会社の業務にもあてはまる。製薬業界がプログラマティック技術を導入すると、ほかの業界以上に通常業務が複雑になるのはそのためだ。

なにしろ、製薬業界はどの業界にもまして規制が多い。したがって、製薬ブランドや医薬品販売会社は、自動化された広告キャンペーンを展開するにあたって、慎重な取り組みを求められる。法令を遵守しながら適切な消費者をターゲットとするため、製薬メーカーは、オーディエンスデータの代わりに医療系のWebサイトを活用したり、自社製品が対象とする疾患に関連した疾患にまでターゲットを拡大したりしている。また、ホワイトリストを使って、自社の広告が表示されるWebサイトを管理している。

「医療分野に取り組む場合は、注意すべき事柄がいくつか増える」と、医療系のメディアエージェンシー、ピュブリシス・ヘルス・メディア(Publicis Health Media)でプログラマティックグループ担当バイスプレジデントを務めるブラッド・ローゼンハウス氏は言う。「そのうえ、不安を煽ったり目立ちすぎたりしない倫理観と責任が求められるのだ」。

医療分野で注意すべき事柄

広告のチェックを怠っていると、ブランドイメージを傷つけかねないWebサイトにプログラマティック広告が掲載されてしまうことがある。これは、製薬業界ではとりわけ大きな問題となりうる。ブランドイメージが損なわれれば、自社のイメージが悪化するだけでなく、政府の規制に違反する可能性があるからだ。

医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)などの法律は、製薬会社がファーストパーティーデータを用いて特定の個人の疾患を把握することを禁じている。したがって、ファイザー(Pfizer)は、ある男性が勃起不全(ED)を患っていることを示すデータを入手したり、そのデータを利用してその男性にED治療薬の「シアリス(Cialis)」や「バイアグラ(Viagra)」の広告を提示したりできない。

複数の情報筋が米DIGIDAYに語ったところによれば、製薬会社の広告クライアントは、Web上で人々を追跡することも制限されているという。リターゲティングを行えば、症状からユーザーを特定することを禁じた規制に抵触する可能性があるからだ。だが、こうした規制にもかかわらず、製薬業界のマーケターは、オンラインで潜在的な顧客にリーチするためにさまざまな取り組みを行っている。

リーチするための取り組み

「(ターゲティングでは)オーディエンスデータに代わって、コンテキストターゲティングが利用されることが多い」と、アドソフトウェア開発企業セントロ(Centro)のプログラマティック担当ディレクター、ダン・ラフ氏は言う。

ラフ氏によれば、個人の健康データを利用できない代わりに、疾患に関するコンテンツの近くに製薬会社の広告を表示する方法があるという。たとえば、「バイアグラ」の広告をEDに関する記事の中に掲載するといったやり方だ。ただし、多くの情報筋が明かしているように、製薬会社がWeb上でユーザーを追跡し、他のWebページ上でもそのユーザーにEDの広告を表示することは、法律的にも倫理的にも禁じられている。つまり、コンテンツはターゲットにできるが、ユーザーはターゲットにできないのだ。

ローゼンハウス氏によれば、オンラインの医薬広告に関する規制はあいまいで、解釈の余地が大きいという。データがクッキーなどのデジタルID情報に関連付けられている場合、そのデータを利用できるかどうかは、法的にも倫理的にもケースバイケースのようだ。

「いちばんしてはならないことは、FDA(アメリカ食品医薬品局)とトラブルを起こすことだ。クライアントに何をすべきかアドバイスする際には、慎重な姿勢で臨んでいる」と、ローゼンハウス氏は述べた。

ターゲティングの裏技

そのほかのやり方としては、サードパーティーデータを使って、関連のある疾患を持つユーザーにまでターゲットを間接的に拡大する方法があると、アドテクを手がけるハドルド・マセス(Huddled Masses)のCEO、チャールズ・カントゥ氏は言う。たとえば、バイアグラの広告では、EDを患っているかどうかを示すデータを入手して、ユーザーを直接ターゲットにすることはできない。

だが、バイアグラは、心臓に問題のある人もターゲットになりうる。心疾患を抱えている人は年輩であることが多く、年輩であればあるほどEDを患いやすいからだ。

このような手法を使えば、EDを患っている人にリーチできる可能性を高められる。ただし、このやり方は、病気喧伝(病気を宣伝して商売を拡大する行為)の疑いを持たれる可能性がある。また、ブランドの広告が表示されるWebサイトの範囲が広がり、製薬会社に問題をもたらすおそれもある。

線を引くことが大事

広告測定を手がけるトラストメトリクス(Trust Metrics)のCEO、マーク・ゴールドバーグ氏によれば、たいていの製薬会社は、ブランドイメージを守るための対策をあらかじめ講じているという。また、製薬会社の多くは、ホワイトリストを利用することで、自社の広告が好ましくないWebページに表示されないようにしている。

さらに、ブランドイメージの悪化を懸念する製薬会社には、オープンなリアルタイム入札ではなく、プログラマティックダイレクトを利用する方法もあると、動画広告プラットフォームのスポットX(SpotX)でグローバルデマンドオペレーション担当バイスプレジデントを務めるケリー・マクマホン氏は指摘する。

プログラマティック企業グッドウェイグループ(Goodway Group)のCOO、ジェイ・フリードマン氏は、次のように述べている。「規制の厳しい分野では、何がOKで何がOKではないのかについて、明確な境界線を引くことがまず重要だ。線を引くことができれば、その境界の内側で自動化を進めることは簡単だ」。

Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)