「ペイパルマフィア」が日本のスタートアップを狙う理由:「IPOが容易」「創業者の質が高い」

PayPal(ペイパル)創業者ピーター・ティール氏らは「ペイパルマフィア」と呼ばれ、ペイパル売却後も複数の起業を成功し、現在はシリコンバレーのスタートアップ育成で重要な役割を担っている。ティール氏のベンチャーキャピタルの拠点が、Foundersfund(ファウンダーズ・ファンド:創業者によるファンドの意)だ。同社の人工知能スタートアップ、DeepMind(ディープマインド)への投資は、Googleによる4億ポンド(約630億円)の買収につながっており、機械学習の波を先にとらえたものだった。

ユニコーン(評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー)である配車サービス、Lyft(リフト)への投資を成功させている、Foundersfundパートナーであるジェフ・ルイス氏(TOP写真)は、5月13〜14日に千葉・幕張で開催された「スラッシュ・アジア(Slush Asia)」に登壇。

その後、ルイス氏は、DIGIDAY[日本版]の取材に応じ、すでに日本のスタートアップ十数社と会合をもったことを明かした。「新規株式上場(IPO)が容易」「創業者の質が高い」など、日本への投資に前向きな姿勢を示す。米国のベンチャーキャピタル事業で厳しい競争が繰り広げられている一方、日本のスタートアップ投資に参入機会を見出しているのだろう。以下、そのやり取りを一問一答形式でお届けする。

日本のスタートアップ十数社と会合

――日本のスタートアップ投資の状況はどうですか?

日本にはまだ投資してはいないが、投資の機会はあると思っており、多くの投資家は日本が投資に対してオープンな場所だと考えている。IPOがほかの国に比べて容易なことは利点のひとつだ。米国のスタートアップの出口戦略はM&A(買収・合併)80%、IPO20%だが、日本は逆だ。

――どのような日本のスタートアップに興味があるのでしょうか?

バイオ、ハードウェア、ソフトウェア、衛星関連とさまざまな分野の企業が興味深いと感じた。すでにかなりたくさんのスタートアップと会合をもった。2〜3日間の滞在で十数社と会っている。

――日本のスタートアップの印象は?

ファウンダー(創業者)の質はとても高く、人々はビジネスに対してひたむきだ。ビジョンを達成するための努力を惜しまないと感じた。

――日本の起業家は勇気を持つべきだ、と話していましたね。

勇気がなければ、他社と競争をするなかで、機会をとらえることができない。特にスタートアップを起業する人は勇敢である必要がある。最後まで競争を続けられる人はそんなに多くない。「さあ、いまから会社を立ち上げるぞ」というときには、勇敢である必要がある。

――日本はスタートアップを育てるエコシステムが、米国に比べるとまだ弱いかもしれません。それはあなた方にとってチャンスでしょうか?

そう思う。

過当競争の米国、アジアに活路

――米国内では昨年スタートアップ投資の減速がみられたようだが。国外の投資先を拡大する必要があるのでしょうか?

わずかに減速した。中国人が中国の外に出そうとしたマネーが、スタートアップ投資の原資の一部だったところに、中国が対ドルで人民元を切り下げたことなどが影響した。米国内のベンチャーキャピタルビジネスは、過度の競争に晒されている。どんな会社もそれをやるようになったからだ。

――次のトレンドはなんだと思いますか?

次のトレンドは何かという議論はあまり意味がない。それが何かと名指しできるということは、その分野がすでにはじまっていることを意味している。素晴らしいビジネスモデル、創業メンバーを見極めることが基本だ。

――どのようなスタートアップがもっとも競争力があるのでしょうか?

Snapchat(スナップチャット)のようなコンシューマー・インターネット企業だ。消費者はすぐさまサービスを理解するので、極めて急速に成長する。

――アジアのほかの国、たとえば中国はどうですか?

中国は訪れただけで最終的にビジネスをしたことはない。ただ、中国は極端なほど競争が激しい。中国ではすべての企業が政治的だ。その企業が成功するか失敗するかは政府との関係をもっているかに左右されがちだ。日本もとても厳格な規制当局があるとは思うが、性質は大きく異なる。

――インドの成長には目を見張るものがあると思います。

インドにはひとつ小さな投資をしている。Cleartax(クリアタックス)のシードラウンドで投資した。ただし、インドにはとても多くの投資家が集まっている。投資の機会はたくさんあるが、競合が多数いるのが難点だ。

また、インドは国外で成功している例を、国内に根付かせている。Snapdeal(スナップディール:AmazonのようなECサイト)のようなクローンタイプの企業が成功を収めており、それは我々にとっては好ましい状況ではない。

――新興国投資はリスクを伴います。新興国投資では、どのような戦略が必要でしょう?

リスクは確かにある。何よりもいい起業家といいビジネスの構造を見つけることが重要だ。私が投資するブラジルのNubankは、クレジットカードとモバイルを紐付けるサービスだが、他者が規制、技術面での制約をかかえるなかで、良いチームがあり、資本にアクセスし、市場で圧倒的な地位に立つための戦略をもっていると思う。米国の外ではときにこのようなアドバンテージをもつ企業への投資に関して、競争が少なくて済む。

Written by 吉田拓史
Photo by Slush Asia(flickr)