ラグビーチームとスクラムを組んだ「タフパッド」のPR戦略 〜製品イメージをスポーツで増強

2015年、まだラグビーフィーバーが日本を包み込む前。とある国内ブランドでは、ラグビーを通した、新しいマーケティングの挑戦が開始されていた。

パナソニックの堅牢PC&タブレット「タフパッド/タフブック」は、その名の通り、タフネス性能を極限までに追求したプロダクト。しかし、法人向けであるだけでなく、通常のPCでは対応できない、過酷な状況下での利用を想定したニッチ製品のため、知名度が決して高くないのが課題だった。

また、社会人ラグビーチームの「ワイルドナイツ」は、日本選手権で5度も優勝するほどの強豪。だが、2011年に三洋電機からパナソニックへクラブチームが移管されるなか、パナソニックのクラブチームとしてのあり方を模索していた。

日本代表チームが、W杯イングランド大会において、まさか世界3位の南アフリカに勝利するとは、まだ誰ひとり想像がつかなかった、2015年の前半。この両者のスクラムは、静かに仕込まれていたという。

パナソニック株式会社で本プロモーションのプランニングを行った市川良紀氏と野村幸司氏に、人気ドラマ『半沢直樹』の原作者・池井戸潤氏の著作『ルーズベルト・ゲーム』を彷彿させる物語を聞いた。

「タフ」という言葉で結びつく

パナソニックの「タフブック」シリーズが誕生したのは、1996年。すでに20年もの歴史を有するブランドだ。その一方、「ワイルドナイツ」も三洋時代を含めると、さらに長い歴史を刻んできたチームとなる。

それらが、2015年のラグビーブーム前夜に協力することが決まったのは、一般的なタブレット端末の普及が背景にあるという。同シリーズの堅牢コンセプトをタブレット端末に反映させた「タフパッド」の認知度を、この段階で一気に高めたいという思惑があった。

「iPhoneやiPadが流行ったことでスマホ・タブレット市場が広がり、ビジネスの現場でも新しいIT活用スタイルの時代が訪れた。これまで『タフブック』がリードしてきた市場で、いまこそ『タフパッド』という新ブランドを一気に立ち上げなければ、淘汰されてしまうという危機感があった」と、野村氏は当時を振り返る。そこで白羽の矢が立ったのが「タフなスポーツ」であるラグビー、そして「ワイルドナイツ」だったのだ。

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野村幸司氏

「最大の特徴が製品名に冠されている『タフパッド』について、我々はプロモーションで悩む必要はなかった。高性能CPUや価格、薄さ、バッテリーライフなど差別化要因はいくらでもある。そのなかでも、タフさに絞って訴求すれば『売れる』という確信があった」と、野村氏。バレーボールや野球など、パナソニックが傘下に置く、数多くのスポーツチームから「あえて」ラグビーの「ワイルドナイツ」を選んだのは、「タフパッド」というシリーズに明確なアピールポイントがあればこそだった。

勝つことを前提にプランニング

ラグビーという競技がもつ、泥まみれ、汗だくになってもゴールに進んでいく強さ。それに対する憧れが、ブランドと重なることが、このタイアップにおいて外せない要素だった。その一方で、真剣勝負である競技スポーツの世界では、戦績いかんによっては、タイアップしたブランドのイメージを損ねることもある。

「タフパッド」にとって幸運だったのは、ユニフォームに同製品のロゴを掲載してからの「ワイルドナイツ」が、ジャパンラグビートップリーグ3連覇を果たしたことだ。タイアップ開始以降、いまのところ1戦の引き分けはあるものの、無敗を続けている。

「タイアップしてから負けはじめたのでは絵にならない。強いチームとタイアップすることが基本だが、絶対に優勝できる保証などないので、我々は賭けとして『勝つことを前提に』プロモーションをしていくしかない。そういう意味では、スポーツとのタイアップは博打だ」。

その賭けに勝ったというべきか、日本ラグビーの快進撃は両氏の予想をはるかに超えていた。「タフパッド」の販促ツールの撮影などが動き出したのは、まさに2015年W杯の真っ最中。市川良紀氏は、「日本代表には勝ち進んでほしいが、勝ち続けることで選手たちの帰国が遅くなり、撮影スケジュールに差し障りが出る……そんなジレンマを抱えながら、深夜のテレビ中継にかじりついていた」と、振り返る。

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市川良紀氏

一見、次々と幸運が転がり込んできたように見えなくもない。しかし、「自分のブランドに最適なキャラクターを選ぶこと。そして、流行ってからでは遅いので、撮影から何から前のめりに仕込んでおくこと。これが成功の秘訣」という信念に従った結果だと、野村氏は語る。

こだわりを込めた「販促グッズ」

グッズ、Webサイト、カタログに使用されるビジュアルの制作にあたっては、選手と製品のキャラクター性をマッチさせることに注意が払われた。市川氏によると「たとえば選手の体格やプレイスタイルと端末イメージを合わせたり、『頭脳を使う監督は、4Kモデルの大画面で戦略を立てる』といったバックグラウンド構築には、ラグビーファンが見ても違和感のないようにこだわった」という。

そうした渾身のビジュアルが加わったことで、タフパッドの製品イメージは大きく進化した。これまではスペックばかりを押していたところに、ラグビー選手たちの印象的な写真が挿入され、堅牢さや力強さと言った「タフ」な印象がより強まったのだ。

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「タフパッド」シリーズの販促グッズ

「タフパッド」の堅牢さを示す主要な特徴は、落下に強いこと、防水・防塵、そしてマイナス10度から50度までの温度域で動作する耐候性である。こうした特色も、ラグビーのフィールドを背景にした同製品の写真があるだけでイメージしやすくなる。

その後、「ワイルドナイツ」のパワフルなビジュアルを前面に押し出した販促グッズは、クライアント企業の担当者とのコミュニケーションに大きく寄与することとなる。そこでの発見は、野球やサッカーほどのメジャースポーツではないものの、日本でもラグビー人口は多いということ。もちろん、すでに終了していたW杯の効果もあったが、グッズの評判は予想以上のものがあった。

「高校ラグビーなどの経験者人口が多いことに加え、ちょうど1980年代のドラマ『スクール☆ウォーズ』を見ていた世代が働き盛りを迎えていることも、いまのラグビー人気を下支えしているのではないか」と、野村氏は分析する。「タフパッド」のようなBtoB商品のマーケティングにおいては、決裁権をもつ層に刺さる「2周目のブーム」を意識することもポイントになることの証左と言えるかもしれない。

『ルーズベルト・ゲーム』的展開

両氏とも、もともとはラグビーファンではなかった。「きっかけは仕事だったが、少しづつルールを覚えて、観戦に足を運ぶようになった。2019年のW杯日本大会まで絶対に見続けることになるだろう」と、市川氏。さらに「ワイルドナイツ」とのタイアップが、社内の士気高揚にも効果を上げていると付け加える。

「社内の食堂に彼らが登場するポスターが貼られるようになったり、ワイルドナイツがリーグで勝ち進むのを見て俺たちもやるぞ、というモチベーションアップにつながっている。ラグビーが団体戦であることもプラスに作用しているだろう」。

そして、「ワイルドナイツ」の選手たちも、「タフパッド」のために作られたプロモーション映像を試合前に観て士気を上げるという。ブランドとスポーツチームが、相互にプラスの作用をもたらす関係が生まれつつあるようだ。

唐沢寿明氏の主演でドラマ化された小説『ルーズベルト・ゲーム』は、社会人野球をテーマにした物語。不振にあえぐ中堅メーカー青島製作所が、同社野球部の復活とともに、企業としても息を吹き返すという内容だった。まさに、それを地で行っている。

しかも、「タフパッド」シリーズをめぐるこの物語は、国内だけにとどまらず、世界展開も見えてきた。

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パナソニックでは、東京オリンピックに向けても着々と準備が進めている

そして、2019年へ向けて

現在のラグビーブーム以前から、2019年のラグビーW杯日本開催を視野に4年間かけたブランディングを想定していた「タフパッド」シリーズ。グローバル市場で展開するプロダクトであることもあってか、意外にもラグビーとタイアップした今回のマーケティング手法について、海外、特にイギリスやオーストラリア、ニュージーランドといったラグビー先進国からの評価が非常に高い。

野村氏によれば、「ワイルドナイツ」のヘッドコーチであるロビー・ディーンズ氏(オーストラリア、ニュージーランドのラグビー界では英雄的存在)のサインを見たオーストラリア人のスタッフは、「日本でたとえるなら長嶋茂雄元監督のサインと同等だ」と感激していたという。また、欧州におけるグローバルな販売会議でのレスポンスも良好だったそうだ。

「この手法をマテリアルごと欧州に提供することで、それぞれ地元やナショナルチームと同様のマーケティングを展開していくこともあるだろう」と、市川氏。日本発のラグビーを使ったブランドコミュニケーションが、ラグビー先進国でも踏襲される可能性が出てきたという。

デジタルな展開に目を奪われがちな、昨今のマーケティング業界。データフィードに根ざしたターゲィングは、たしかに届けたい人へ確実に情報を行き渡らせることができる。

しかし、情緒に強く訴えかけるスポーツという媒介を通した、古来のマーケティングもいまだ有効であることも事実だ。マーケティングで人々の心をつかむには、さまざまな可能性を見極めたうえで、大きな決断を下すべきなのだろう。

 

3つの形態で使える最新モデル「CF-20」JP-CS_left2_WP

「タフブック」シリーズの最新モデル「CF-20」は、頑丈ノートPC業界において世界初となったデタッチャブル(分離型)PC。どんなハードな現場においても、入力しやすいPCスタイルだけでなく、持ち運びやすいタブレットスタイル、また画面を見ながら入力できるコンバーチブルPCスタイル、3つの形で利用できる。モニターサイズは、10.1型。頑丈設計でも約1.76 kg、薄さ33.5mmと薄型軽量の設計となっている。

 

Photo by 秋山まどか(※本文中のみ)