SNSアレルギーを克服した、NYファッションウィーク:「もうパニックはない」

過去数シーズン、NYファッションウィークは、デザイナーやオブザーバーたちが、「いま見て、いま買う(see-now-buy-now)」方式やソーシャルメディアが既存のファッションショーを変えていく様子を見てパニックに陥るなか、不安と実存の危機に満ち溢れていた。

今シーズンは、そうした混乱は落ち着いたように見える。

「みんな慣れてきている。もう混乱はない。その話題は進行中の議論という位置づけだ」とクリスチャン・シリアーノといったファッションデザイナーたちを扱うイベントプロダクション会社、LDJプロダクションズ(LDJ Productions)の創設者兼CEO、ローリー・デ・ヨング氏は語る。「新たな選択肢が検討されるときには、多くの混乱が起こる傾向がある。しかし、検討されるたくさんの選択肢があるということは、それだけ個々のレベルで適切なことを判断できる機会があるということだ」。

「望むことを実行しなさい」

昨年、CFDA(カウンシル・オブ・ファッション・デザイナーズ・オブ・アメリカ)は、ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)と提携してまとめた、NYファッションウィークの現状に関する報告書を発表した。報告書では同イベントの構成と機能が評価されており、参加者たちへの究極のアドバイスは「望むことを実行しなさい」だった。

これまでのショー設定は、ショー会場だけに一極集中することがなくなったことで消滅し、デザイナーは、ランウェイを使った発表形式にするか、またはマンハッタンを臨むブルックリンを舞台背景に選択するなど、その自由を積極的に取り入れている。

そしてここ数シーズンの話題を独占してきたシーズン中のビジネスモデル、「いま見て、いま買う」に関して、業界は依然として意見が割れている。トム・フォードやタクーンといったデザイナーたちは、物流面の複雑化を挙げて断念している一方で、ラルフローレン、レベッカ・ミンコフ、ミリー(Milly)といったブランドは、新しいコレクションの発売をランウェイショーに合わせている。

エクスペリエンスが重要

ミリーのクリエイティブディレクター兼共同創設者のミシェル・スミス氏は、「このショーでは、人々にショー体験に参加してもらうことを切に願っている。経験し、吸収してもらいたい。それにより、エモーショナルなつながりが生まれる」と語った。ソーホーで行われた9月8日の発表は、その翌日オープンした同ブランド初のポップアップストアで準備された。そのバックヤードでは、新しいコレクションから約30点ほどが商品棚に用意され購入できるようになっていた。

ソーホーで行われたミリ―新作発表からのショット

ソーホーで行われたミリ―新作発表からのショット

「いまやショーは関係者たちだけに向けられたものではない。だからコレクションの発表と発売を一緒にすることは理にかなっている」と彼女は語った。「ソーシャルメディアが業界の状況を変え、関係者以外の人たちが新作の6カ月後の発売を待つことはない。私たちは、すぐ満足が得られるように即時に経験してもらう機会を提供している」。

ファッションウィークでは、「エクスペリエンス(体験)」という単語を耳にしない日はない。そして、それが「エモーショナル」な部分に繋がっていけばなお一層良い。ファッションブランドがいま必要としているのは、イベントと同時にコレクションを発売しているかどうかにかかわらず、記憶に留めてもらうこと、そうすれば、人々は忘れないで購入してくれる。デザイナーたちが新しいショー形式を模索していても、このNYファッションイベントの後ろには統一的な動機が存在している、それは「リーチ」だ。現在、自身のフィード上でビュワーたちが注目するようなファッションショースペクタクルを演出するためにブランドが何十万ドルも費やしているなか、ショーには持続性が求められている。

ライブには投資価値がある

グランドセントラル駅のオイスターバーで行われたケイト・スペードの発表では、参加者たちが一番良く見える場所を探してうろつくなか、モデルたちは、間隔を置いてポーズをとる前にジャズバンドの隣でシミーダンスを踊るため、群集のあいだでダンスの列を組んだ。プレジデントでありクリエイティブディレクターでもある、デボラ・ロイド氏は、このショー設定の背後にあるアイデアは、人々にインタラクションと携帯電話の画面から顔を上げさせることを促すことにあると述べた。そうはいうものの、携帯電話のレンズ越しにショーを眺める(つまり動画を撮影してくれる)人たちがいたのを確認できて嬉しかったと、彼女は認めている。

ケイト・スペードのショーに臨むモデルたち(写真:Sam Nandez / BFA.com)

ケイト・スペードのショーに臨むモデルたち(写真:Sam Nandez / BFA.com)

「この形式の発表なら、服のそばに近寄って、細部まですべて見ることができる。確かに、みんなそれを画像で残すだろうけど、私はそれは構わない。それで後々にまで伝わっていくから」と、ロイド氏はいう。

デ・ヨング氏は、新作コレクションはライブストリーミング発表のみ、または(デザイナーのミシャ・ノヌー氏がこれまでSnapchatやインスタグラムで試みているように)新商品をソーシャルメディアで直接発表することを検討しているクライアントたちと一緒に、これまで数年間仕事をしてきた。しかし、彼らはいつも同じ決断に立ち返ってくる。それは、ライブイベントは投資価値があるということだ。

「ファッション関係のクライアントにとっては、ランウェイを使ったショーがその何十万ドルもの費用に値する価値があるかどうかが問題になる。しかし、ライブ体験にとって代わるものは存在しない。事前、その最中、事後に何が起こるのかがとても重要だ。収容人数の1500人を超えることができれば、それは価値があるということになる」と彼女は述べた。

「世界の扉が開かれた」

9月第3週、LDJプロダクションズは、アンビル・ベンチャー・パートナーズ(Anvil Venture Partners)と提携して、LDJフューチャーズ(LDJ Futures)と呼ばれるアクセラレータ投資ファンドを立ち上げ、ファッション、美容、テクノロジー産業におけるブランド体験の新しいエコシステムを発展させるためにリソースを提供することを発表した。ファッションブランドにとって、ファッションショーの寿命を伸ばし、より多くの収益を生み出すためにこれらのリソースは投入されるようになり、「いま見て、いま買う」の採用を含むが、これに限定されないひとつの戦略になる。

LDJフューチャーズと提携する最初の企業は、デザイナーズコレクションの商品のファブリックにGPSビーコンを埋め込むAR(拡張現実)企業、キャンディ・ラブズ(Candy Labs)だ。ビーコンの画像が撮影されると、いつ、どのように購入できるか、製造方法についてのバックグラウンド情報などが浮き上がる。そのうちに、LDJフューチャーズは、ソーシャルメディア上で繰り広げられるこうしたイベントを目にしている関係者以外のすべての人たちが利用しやすい、ファッションショー関連の情報やそこでの購入についての取り組みに注力するようになるだろう。

インスタグラムは、デザイナーによるファッションショーがその排他性を失っているときであっても、ファッションウィークで重要な役割を継続して担っている。ラルフローレンを見てもわかる。9月12日の夕方に、同ブランドは300名のファッション通をニューヨーク州北部のベッドフォードに招いた。そこでは、ラルフ・ローレン氏のクラシックカーガレージのなかで、2017年秋の「シーナウ・バイナウ(いま見て、いま買う)ショー」が開催された。招待客にはみな、白と黒のフォーマルな服装をするようにとの指示。このショーの演出は、24時間に渡ってインスタグラムストーリーで再生されるために構成されており、視聴者たちをそのショーをどうしても見たい気持ちにさせ、同コレクションを購入したい欲望を刺激することを目標に、舞台裏についてのコンテンツが共有、配信された。

「ファッションショーは変わっていない。ファッションショーはシーズンやコレクションを世界に紹介しつづけているだけだ。しかし、そこにソーシャルメディアが参入してきている。それにより、ブランドは未知のものに対して恐る恐るアプローチするのではなく、それに対して賢明であることが求められる、人々がアクセスする権利をもつ世界の扉が開かれたのだ」と、WGSNのアシスタントエディター、カサンドラ・ナポリ氏は語っている。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)