「オプションが多すぎる!」:Snapchatのメディアバイイングで混乱をきたす広告主

ボールドワールドワイド(BOLD Worldwide)は、小売ブランドやスポーツブランド向けの広告を中心に手がけるエージェンシーだ。同社のブライアン・クリスティアーノ氏は、クライアントのために試合やレースなどのスポーツイベントで、Snapchat(スナップチャット)の「ジオフィルター」を利用したキャンペーンを数多く展開している。同社がSnapchatのプラットフォームで実施した広告の額は、合わせて40万ドル(約4500万円)ほどになるという。

だが、40万ドルという金額は、Snapchatの親会社であるスナップ(Snap)社にとって、ボールドワールドワイド担当のアカウントマネージャーを置きたくなるほどの額ではないらしい。アカウントマネージャーがいれば、製品トレーニングを受けたり、ベストプラクティスをアドバイスしてもらったり、関連する広告機会を提供してもらったりできるはずだ。

「Snapchatはかなり混乱状態にある」と、ボールドワールドワイドのCEOを務めるクリスティアーノ氏はいう。「バイイングの種類は非常に多い。だが、スナップ社へデータについて尋ねたり、同プラットフォームで広告を展開する、ほかのブランドの成功事例やユニークな事例を聞きたいと思っても、担当者に繋いでくれることはほぼない」。

なぜ混乱が生じるのか?

これはクリスティアーノ氏だけの話ではない。筆者はこの記事を書くために7名のメディアエージェンシー幹部に取材したが、そのうちの3名からは同じような回答を得た。すなわち、エージェンシー担当者がおらず、価格モデルとバイイングオプションが多岐に渡っていることが、Snapchatでの広告展開に混乱をもたらしているというのだ。

一方、それ以外の幹部ら(ほとんどが持ち株会社傘下のエージェンシー幹部)は、いまの状況を企業の成長過程でよく起こることと捉えており、スナップが成熟するまでには時間がかかると考えていた。

「たしかに現時点で見ると、Snapchatはほかのソーシャルネットワークと比べてアドオプションの種類が多く、また誤解も多い」と、電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network)傘下のエージェンシー、360iのプレジデントを務めるジャレッド・ベルスキー氏は指摘する。

若い企業であるスナップは、Google、Facebook、Twitterといった大手企業の先例に倣い、販売チームを業種別、および国/地域別に編成している。販売チームとアカウントマネージャーが、自動車、テクノロジー、消費者向けパッケージ製品など、自分たちが担当する業界のブランドと連携して広告キャンペーンを展開しているのだ。

広報担当者によると、スナップ社は2016年に「大規模な」グローバルエージェンシーチームを社内に設置し、販売チームと緊密に連携しているという。このグローバルエージェンシーチームは規模を拡大しており、チームのメンバーは大手エージェンシーの持ち株会社を担当していると、スナップの担当者は語った。

スナップ社の対応格差

たとえば360iは、スナップ社のエージェンシーパートナーチームに2人の担当者がいる。1人はエージェンシーレベルの仕事を担当し、もう1人はSnapchatのエバンジェリスト兼教育係として、グループレベルの仕事に携わっている。ピュブリシス(Publicis)傘下のチーム・ワン(Team One)とサピエント・レイザーフィッシュ(SapientRazorfish)も、自社の担当者がスナップ社にいる。

レアケースとして、(持ち株会社の傘下にない)独立系エージェンシーのRPAにも、業種レベルの担当者とクライアントを限定しないエージェンシーレベルの担当者がスナップ社におり、この2人と仕事をしていると、同社でデジタル戦略担当アソシエイトディレクターを務めるマイク・ドセット氏はいう。ただし、RPAがスナップ社にどれくらいの広告費を支払っているのか、ドセット氏は明らかにしなかった。

とはいえ、スナップのエージェンシー担当チームは、FacebookやGoogleやTwitterと比べて、はるかに小さい規模で運営されていると、この記事の執筆にあたって取材した人たちは語っている。そのため、持ち株会社の傘下にない多くのメディアエージェンシーは、スナップにエージェンシー担当チームが存在することさえ知らない。

したがって、そのようなエージェンシーがメディアを購入するには、スナップ社のクライアント担当者とやり取りする必要があると、KBS傘下のソーシャルメディア企業、アテンション(Attention)でプレジデントを務めるトム・ブオンテンポ氏は指摘する。

ブオンテンポ氏は、スナップ社のような組織体制では、エージェンシーレベルのやり取りが少なくなるため、誤った情報が生まれやすいと考えている。広告のターゲットを拡大し、アセットのオプションを増やすための取り組みを続けているスナップ社にとって、これはとりわけ大きな問題だ。

「スナップ社は、クライアントのための広告購入において、エージェンシーのパートナー、なかでもメディアエージェンシーが果たす役割の重要性を知っているので、今後もエージェンシー担当チームへの投資を続けていくだろう」と、ブオンテンポ氏はいう。「また、IPOが完了すれば、スナップ社は社員の採用をさらに積極的に進めていくだろう。キャッシュフローが潤沢になり、短期間で規模を拡大して広告事業を成長させたいと考えるようになるからだ」。

ただし、同社が将来的に独立系エージェンシーの担当者を置く計画があるかどうかは、明らかにはしていない。

メニューの多さも問題

現在、スナップが提供している広告プロダクトは3つしかない。スポンサードレンズ、ジオフィルター、そしてフルスクリーンの縦長動画を表示できるスナップ広告だ。だが、価格モデルとバイイングオプションの数はこれよりはるかに多い。そしてこのことが、Snapchatプラットフォームでのメディアバイイングを複雑なものにしている。インスタグラムやFacebookでは、広告主がセルフサービス型のダッシュボードで広告を購入できる。しかし、Snapchatの広告は手作業でのカスタマイズに多くの時間を費やす必要があるのだ。

報道によるとスポンサードレンズは、日曜日から木曜日が1日あたり45万ドル(約5100万円)、金曜と土曜が50万ドル(5700万円)、祝日や特別なイベントのある日は70万ドル(約8000万円)で、広告プロダクトのなかではおそらくもっとも強気の価格設定となっている。エージェンシーは、レンズを開発し、コードを書いているスナップの担当チームと緊密に連携する必要がある。また、ひとつのレンズをリリースするまで数カ月もかかる場合があると、RPAのドセット氏は述べている。

これに対し、ジオフィルターは動きのない広告のため、数日から数週間で制作できる。500万平方フィート(約46万5000平方メートル)を超えるエリアにジオフィルターを展開する場合は、スナップの担当者に関与してもらうことが必要だ。だが、広告主の予算がそれほどない場合は、Snapchat.comのセルフサービスプラットフォームを利用して、独自のキャンペーンを制作できる。ボールドワールドワイドのクリスティアーノ氏によると、スナップの担当チームからリクエストを承認してもらえるまでにかかる時間は、30分から6時間程度だという。

ただし、セルフサービスプラットフォームがいつでも手軽に利用できるわけではない。月曜日から金曜日の午前5時から午後7時のあいだにジオフィルターを利用する場合、広告主は毎日のように作業を一からはじめなければならない。また、シカゴとニューヨークの両方でジオフィルターを利用したくても、1回のメディア購入で2つの都市をカバーすることはできない。

Snapchatのジオフィルター用セルフサービスプラットフォーム(ボールドワールドワイド提供)

 

ジオフィルターの価格は、ジオフェンスの大きさ、時間の長さ、場所、集まる人の数(イベントを開催している場合など)によって大きく異なるとクリスティアーノ氏。「希望すれば、10ドルを支払ってごく狭いエリアでフィルターを利用することもできるし、規模や場所に応じて数十万ドル(数千万円)をかけることも簡単にできる」と説明した。

一方、レンズやジオフィルターと比べ、スナップ広告はもっとも簡単に購入できるメニューだ。広告主は、縦長動画の広告をスナップ社から買うこともできるし、自動化された売買を利用して同社のAPIパートナー14社のどこかから買うこともできる。スナップ広告のCPM(1000インプレッションあたりの価格)は20~40ドル程度(約2000〜4000円程度)で、表示される場所(「ディスカバー[Discover]」、「ライブストーリー[Live Stories]」、または友人のスナップとスナップのあいだ)とフォーマット(スワイプアップまたは標準)によって額が変動すると、複数の広告会社の幹部は述べている。

スナップ社はまた、標準的なバイイングオプションのほかに、「スーパーボウル(Super Bowl)」、大学男子バスケットボールトーナメントの「マーチ・マッドネス(March Madness)」、バレンタインデーなど、主要なスポーツイベントや文化的イベント向けの広告パッケージも提供し、最低支払額を設定している。たとえば、全米プロバスケットボール協会(NBA)のトーナメントは9万5000ドル(約1000万円)、マーチ・マッドネスは1万5000ドル(約170万円)だ

これらのパッケージには、レンズやジオフィルターにライブストーリーやディスカバーのスナップ広告を組み合わせたものから、スナップ広告やレンズのみのものまで、さまざまな種類があるとRPAのドセット氏。ほかのソーシャルネットワークやパブリッシャーも、主要なイベント向けなど需要の高いインベントリー(在庫)をパッケージ販売しており、スナップのやり方はこれとよく似ていると説明した。

「価格設定は、定額制になることもあれば、CPMベースになることもある」と、ドセット氏は付け加えた。

もちろん、広告主がディスカバーに配信しているパブリッシャーと直接スナップ広告の契約を結ぶこともできる。コンテキストに合わせることが非常に重要だと考えられ、提携したいメディア企業が1、2社しかない場合には、直接契約がいいだろう。ディスカバーのパートナーは、インベントリーの販売価格を柔軟に設定している。ただし、彼らが販売できるのは自社のチャンネルのみで、ほかのパブリッシャーのインベントリーと組み合わせることはできないと、スナップの広報担当者は述べている。

いまも成長の途上

エージェンシーの幹部らは、スナップの広告プロダクトに統一性やわかりやすさが欠けている原因について、スナップ社が成長の初期段階にもかかわらず、これほど多くの購入オプションを設けていることにあると考える。また、スナップ社のターゲティング能力と測定能力は、自社の提供する広告プロダクトに追いついていないという。

スナップ社のインベントリーは独特で、広告主がスナップ社をほかのソーシャルネットワークと比較するのは難しい。たとえば、SnapchatのジオフィルターがFacebook広告より成功しているといえない理由は、2つがまったく種類の異なるものだからだと、サピエント・レイザーフィッシュのシニアメディアディレクター、カーリー・コスタランティーノ氏はいう。

Snapchatはいまのところ、リーチ、動画視聴数、エンゲージメント、視聴完了率といった指標の提供においては、ブランドを満足させることができている。だが、パフォーマンスマーケティングについては十分でないと、エージェンシーの幹部らは指摘する。スナップ社は、コンバージョンを測定したり、Snapchatのオーディエンスを世帯収入別に分類したりすることができないからだ。

「このプラットフォームについて学ぶには、スナップ社内のチームに頼ることがどうしても必要になる」と、コスタランティーノ氏はいう。「Snapchatはまだまだ新しい存在だ。したがって、ターゲティングや測定といった点では洗練さを欠いている」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)