「プログラマティック」の内製化は 不可能なミッションか?:ブランド担当者の憂鬱

ブランドがプログラマティックソリューションの内製化を開始したのは、エージェンシーにとって警鐘を鳴らす出来事だった。

2015年だけでも、オールステート保険(Allstate Insurance)、スタブハブ(StubHub)ユニリーバ(Unilever)、ネットフリックス(Netflix)など複数の「フォーチュン500」企業が、ファーストパーティーデータに対するコントロールを高め、高額な手数料をエージェンシーに支払わなくても済むようにするため、自社でプログラマティックを運用しはじめている。

ただし、少数の企業ではじまったこの取り組みはまだ大きな流れにはなっておらず、近いうちにそうなる可能性もほぼないだろう。プログラマティックを自社で運用することは、理屈のうえでは(および「トップアドテク企業の予想」といった記事では)良さそうな話に聞こえるが、実際にはかなり厄介だ。

ブランドがプログラマティックメディアプランニングを内製化しようとすれば、途方もない量のデータを集め、経験豊富なスタッフを雇い、キャンペーンの立ち上げに相当な労力を費やすことが必要になる。多くのブランドにとって、これは遠大すぎる目標だ。

そもそも「内製化」の定義がバラバラ

「デジタルの知識がきわめて豊富で、プログラマティックを自前で最適化している広告主は常に数多くいるが、プログラマティックを内製化するブランドが増えるとは、私には思えない」というのは、グループM・コネクト(GroupM Connect)のグローバルCEO、ルート・ヴァンク氏だ。「それはごく限られたグループだ」と、同氏は指摘する。

この問題を複雑にしているのは、ブランドによって「内製化」の定義が異なるという懸念があると、ヴァンク氏は続けた。内製化が単一のDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を利用することを意味する場合もあれば、社内に専門チームを作ってプログラマティックに関するあらゆることに対応することを示す場合もある。

「従来の状況に目を向ければ、グループMと協力してメディアプランニングの管理に従事するメディアマネージャーを抱えたブランドはたくさんある。このことが、ブランドによるメディアの内製化に移行する動きなのかと問われれば、答えはノーだ」とヴァンク氏は付け加えた。

ブランド側に存在するいくつかの障害

大企業はプログラマティック広告の購入を自社で最適化できる力をもっているかもしれないが、ほとんどのブランドにとって、エージェンシーの助けを借りずに、この技術を利用することは困難だ。プログラマティックの経験が浅い企業の場合、内製化を行うには、適切な戦略を設計して適切なプランを実行するために、相当な規模で膨大な量のデータを処理することが必要になる。

「プロクター&ギャンブル(P&G)、フォード・モーター(Ford Mortor)、ネットフリックス(Netflix)といった広告予算の豊富な企業にとっては意味のある取り組みかもしれないが、予算の少ないブランドにとっては、投資を正当化するのに十分なデータを作り出すことは到底できないだろう」と、パブマティック(PubMatic)でパブリッシャー開発担当兼バイスプレジデントを務めるエバン・クラウス氏は言及する。

また、データ以外にも、ブランドはさまざまなDSPに対応できる適切なスキルを備えた人材を雇う必要がある。ほかにも優先すべきマーケティングの取り組みがある場合は、必要な機能をすべて揃え、技術プラットフォームを使ってデータとオーディエンスのパフォーマンスを管理する仕事に集中しなくてはいけないため、これまでの業務と両立することが難しくなる可能性がある。対して、エージェンシー(特に大手)は、さまざまなDSP企業と大規模に交渉することができるのだ。

「地理的な問題としても、プログラマティックを扱う企業は、ブランドがトレーディングデスクを置く本社がある地域とは離れていることが多いため、戦略的な洞察力を備えたベテランの人材を手軽に調達できない可能性がある」と、メディアベスト(Mediavest)でアドテクおよびアドプラットフォーム担当兼シニアバイスプレジデントを務めるオレグ・コレンフェルド氏は指摘する。

エージェンシー側の問題

一方、プログラマティックを求めるブランドの声が強まるなかで、エージェンシーにとっての問題は、「クライアントのためにプログラマティックを運用すべきか」という話から、「プログラマティックで抜きん出るにはどうすればよいか」という話に移っている。

大手エージェンシーネットワークの優位性はここにある。彼らは、吸収合併を通じてプログラマティックの技術や製品を自社で所有しているからだ。ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は、2008年にヴィヴァキ(VivaKi)を設立した後、2014年にラン(RUN)を買収し、プログラマティック技術を手に入れた。

また、WPP傘下のグループMは、ザクシス(Xaxis)とDSP技術の「プロテウス(Proteus)」を(エクスチェンジ・ラボ[Exchange Lab]の買収を通じて)手に入れ、 電通イージス・ネットワーク(Dentsu Aegis Network)はアムネット(Amnet)を買収してプログラマティックを手がけている。さらに、オムニコム・グループ(Omnicom Group)はトレーディングデスクのアキュエン(Accuen)を、IPGはカドレオン(Cadreon)をそれぞれ抱えているのだ。

これらのエージェンシーはいまでも、広告キャンペーンのパフォーマンスを最適化する目的で、「ダブルクリック・ビッド・マネジャー(DoubleClick Bid Manager)」や「トレードデスク(The Trade Desk)」などのサードパーティー製DSPや「ブルーカイ(BlueKai)」などのDMP(データ管理プラットフォーム)を取り入れているが、自社独自のプログラマティック製品によって他社と差別化し、アドテクベンダーへの依存度を下げることに成功している。

しかし、プログラマティックプラットフォームを持たないエージェンシーは、こうした大手ネットワークからプログラマティック製品をライセンス供与してもらえない。そのため、一連の技術を自前で構築するか、サードパーティーのアドテクベンダーから技術を借りてこなければならない。

つまりは差別化が難しい

どちらの方法を選んだ場合でも、彼らはジレンマに陥る。技術を借りて来る場合、エージェンシーはそのベンダーのブランドで、その技術を提供する必要がある。一部のベンダーは、エージェンシーのブランドを用いることを認めるオプションも提供しているが、他社エージェンシーにも同じことができるのであれば差別化の意味はないと、クリアコード(Clearcode)のCEOであるマチェイ・ザワジンスキー氏は指摘する。

一方、エージェンシーが(大手ネットワークよりは小さい規模で)技術スタックを構築できる場合は、データに対するコントロールを高め、クライアントのニーズに合わせて技術をカスタマイズし、プログラマティックバイイングでありがちな価格の上昇を避けることができる。もちろん、このやり方で最大のデメリットは、投資に見合う見返りを得られないまま、技術の構築や買収に投資するリスクを負わなければならないことだ。

ザワジンスキー氏は次のように述べている。「このような理由から、エージェンシーはアドテクのエコシステムの一部となることに集中した方がよいと私は思う。そうすれば、ほかのプラットフォームの単なるコピーでしかない『コモディティ化』した技術を構築するのではなく、より優れたサービスをクライアントに提供したり、ユニークな製品を市場に出したりできるようになる」。

それでもエージェンシーは中心的な役割

一部のエージェンシーは、プログラマティックの分野で他社より優れた取り組みを行っている。ブランドは、トランスペアレンシー(透明性)やビューアビリティ(可視性)などの問題について不満を訴えているものの、エージェンシーのパートナーなしにプログラマティックを扱うことは到底無理な話だ。

先に述べたようなプログラマティックの複雑さは別として、ブランドがアドテクベンダーと直接仕事をするのは理想的ではない。なぜなら、ブランドは専門知識や経験がなく、優良なパブリッシャーと直接的な関係を築いていないからだ。一方、エージェンシーは、クライアントのために大量のメディア購入を管理しているため、より良い条件(より安いDSPコミッション)で交渉できる可能性がある。

本質的に、プログラマティックは手法をめぐる取り引きに過ぎない。ブランドの全体的なメディアバイイングプランから独立した存在ではないのだ。「プログラマティックはひとつの単一な取引ではない。戦略、運用、技術、取引、データの組み合わせなのだ。このすべてを連動させる必要がある」と、グループM・コネクトのヴァンク氏は話す。

「これは、タクシーを予約したいからといって、自分でタクシー会社を始めることはないのと同じことだ。それならウーバー(Uber)を使うだろう」と、ワンク氏はコメントした。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
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