広告なら、社会問題をぜんぶ解決してくれんじゃね?:失業中コピーライター(56歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。

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ペプシが不安定な社会情勢に対する解決策を、モデル歩きドヤ顔で繰り出してくれたわけだが、ほかのブランドたちは一体何をグズグズしているのか。社会問題や大義名分を、ファッションのごとく軽々しく掲げる広告が流行りなんだから、これからの時代に乗り遅れないようにペプシの真似をして何か手頃な社会問題を見つけないといけない。

コカ・コーラは、コマーシャルでネットいじめを根本的に解決してくれたし(おそらくそのコマーシャルがYouTubeのページから消えたのも、いじめが地球上から消えたからだろう)、キッチン・ペーパーのブローニー(Brawny)はパッケージのタフな男のデザイン(金髪と黒髪、2パターン)を無くすことで世界にはびこる女性差別を根絶してくれた。ペディグリー(Pedigree)のコマーシャルのおかげでもはや人種差別なんて過去の遺物となった。そして忘れてはいけないのは、イスラエルとパレスチナの紛争を軽く解決してくれた、この広告もだ。

ハイネケン「まったく違う場所から」

そんなファッション社会運動に参加してくれたのが、ハイネケンだろう(素晴らしい!)。世界中で人類が抱えている社会分断の問題を4分ちょっとで解決している。ハイネケン最新の「オープン・ユア・ワールド(Open Your World)」広告では(映画ではない、広告だ。繰り返し言うけど)政治的に真逆の意見を持つ人々をつなげてくれた。ストーリーが進んで刑務所のブザーが大きく鳴るにつれて(なんでかは分からない)、「逆の意見を持つ」人々はお互いをつなぐ共通項を見つけはじめる。やったね! きっとまず全員をグデングデンに酔わせて、自分の意見や社会情勢なんて覚えてない状態にしてから撮影を開始したのかな。

アメリカには社会問題に取り組む巨大な非営利慈善団体の代表例としてユナイテッド・ウェイ(United Way of America)が存在しているが、ユニリーバはその営利版になろうとしているようだ。彼らの「ソー・ロング、オールド・ワールド(So Long, Old World)」キャンペーンがその再ブランディングに取り組んでいる。

女性用化粧品ブランドのダヴ(Dove)は女性の抱える心理的な不安をすべて完治してくれたわけだが、ユニリーバの男性用化粧品ブランド「AXE(アックス:イギリスではLynxというブランド名)」の9つのビデオ「メン・イン・プログレス(Men In Progress)」は、新しい時代の男性像を見事に提案してくれている。

男の子は泣かない(Boys Don’t Cry)

こちらが、そのエモーショナルなビデオだ。男は涙を流すのか、いや、流すことが許されるべきなのか、は当然、21世紀もっとも重要な社会問題のひとつだからだ。腰抜けどもはひっこんでな、涙は心の汗なんだからよ。グッとこらえたら、スプレー式の香水をふりかけないといけない。

AXEのマーケティング・ディレクターはデーヴィッド・ティットマン(註:英語でTitmanと言うと「おっぱい星人」のようなニュアンスが含まれる)というAXEにぴったりの名前を冠しているわけだが(下の広告を見て欲しい)、彼によるとこの「男の子は泣かない」キャンペーンは、「2016年のイギリスで男として生きることがどんなことか示すために作られた。そして男が自己表現をすることを許さないような社会のレッテルに挑戦すること」を目的としているそうだ。素晴らしいじゃないか。

AXEはいつだって21世紀の男を育ててきた。AXEのロイヤルカスタマーなら2010年のワールドカップで流れたこの広告を覚えているだろう。女性はただの身体のパーツだ、女性の価値は胸だ、そんなメッセージを流してAXEの広告は男たちの漢塾となってきた。まったく何の矛盾も無い。

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9つあるビデオを見れば、男が抱える悩みのすべては解決すること間違い無しだ(ちなみにビデオに登場する男たちは実際のユーザーではなく、”キーインフルエンサー”が演じている)。

こういった広告における「まやかしとしての社会的意義」を取り入れるブランドの数は今後も増えるだろう。せっかくなので実際のブランドたちに「社会問題」のカジュアルかつシャレオツな利用方法を提案したい。以下は、ラフなデザインだが容赦頂きたい。

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(左)「白い服至上主義に賛成。白人至上主義には反対」。これはクリーニング用品ブランドのクロロックスに最適だ。白さを訴える広告は難しい。ニベアが犯した失敗を繰り返してはいけない。ただ肌が白いことを称賛してナチス認定を受けたいなら別だ。

(右)農業機械、チェーンソー会社のスチール(Stihl)には「我々は切り落としに真剣に取り組んでいます。家庭内暴力の切り落としにも真剣です」。なんてコピーが今風で良いのではないか。チェーンソーも使えるタフな漢に女はイチコロだ。

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(左)0カロリー甘味料メーカーのイコール(Equal)には楽勝のアイデアがある。ブランドの名前の横に「(イコール:平等)な給料を女性に」と付け足すだけで消費者は「このブランドは女性の雇用差別に真剣に取り組んでいる」と勘違いしてくれるだろう。何より重要な、売上も急上昇だ。

(右)トランプの移民に対する恐怖政治を扱うのに、タコベルほど適したブランドは無いだろう。タコベルのスローガンに「リブ・マス(Live mas:もっと生きろ)」という英語とスペイン語が混ざったものがあるが、その横に「我々は移民の権利をサポートします。だからスローガンも半分はスペイン語なんです」と説明文を加えるだけで、やったね、社会問題に真剣に取り組む企業イメージの出来上がりだ(ところで数十年前に「国境に向かって逃げろ」というタグラインをタコベルが使っていたのは、いまとなっては冗談のような話だ)。

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(左)おむつブランドのハギーズ(Huggies)が注目するべきなのは地球温暖化だ。そこで、オススメのコピーは、「我々は変化を信じています……おむつと気候の変化を」だ。子どもは世界の宝。これからの地球を背負うのは若い世代なわけだから、早くから地球温暖化について知ってもらうのは重要だ。もちろんそれより重要なのは。ライバルブランドのパンパースよりも早く、この社会問題を利用して売上を伸ばすことだ。

(右)自動車のオイル交換に特化した「ジフィールーブ」には、こちらのコピーを提案したい。「トップからボトムまで、同性愛者の権利をサポートします」だ。何ならジフィールーブという同じ名前を使って、まったく同じ広告でセックス用潤滑剤(註:ルーブは潤滑剤の意味)を宣伝することすらできる。一石二鳥だ。

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あらゆる社会運動を利用しろ!

2015年のコーン・コミュニケーションの調査によるとミレニアル世代の70%が何らかの社会的大義を支援するブランドにより多くお金を使うことがわかっている。お金のためと聞いたらブランドたちも死ぬ気で、なにか手頃な社会的大義を見つけてくれるだろう。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)
Image: Lynx