「広告スタント」には何が必要か。粗悪例と比較してみた:失業中コピーライター(56歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。

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つい先日、ニューヨークでふたつの広告スタント(宣伝のために人目をひく行為)が行われたが、そもそも広告スタントの類は、ほぼすべてが下らないことを覚えておかないといけない。コンセプト自体が無能であったり、パッと見てフェイクだと分かる物だったり、まったくもって記憶に残らなかったりする。たまに、この3つすべてを兼ね揃えた究極に最低な広告スタントも登場する。たとえば、全国オレオの日(3月6日)に行われたドローンによる「ダンク・チャレンジ」が、それだ。

ドローンをつかったスタントなんてコンセプト自体がありふれている。いつも怒っている56歳のコピーライターと同じくらいのありきたりさだ。さらにこのドローン・スタントは、なかでも特に退屈で下らないものだった。

オレオは5つのドローンをクッキーのようにデコレーションし、イースト川の上を飛ばした。そして実際のクッキーを荷船のうえに設置したグラスに入ったミルクのなかに落としたのだ。どうしてもビデオを観たいという奇特な読者がいれば、こちらを観てもらえばいい。とにかくここまでクライマックスに欠けるビデオというのも珍しい。

グラスに入っていたのは本物のミルクなのだろうか。だとしたらなんて無駄なことをしたのだろう。このスタントは「チャレンジ」と呼ぶに相応しくない。どう考えてもビデオに収録されている「ダンク」の瞬間はフェイクだ。よって無能なコンセプト、フェイク、そして観た直後にすぐに忘れてしまうということで、3点獲得だ。少なくともYouTubeビデオに無数についた罵倒のコメントを削除していない点だけは評価したい。

良い広告スタントの例

良い広告スタントというものは、ここ10年間本当に限られた数しか作られなかった。しかし良いものに共通することがある。それはとてもシンプルで、広告の名誉殿堂入りしたルーク・サリバン氏(ファロン・マックエリゴット、ザ・マーティン・エージェンシー)が呼ぶところのクリエイティブな「緊張」というものが存在していることだ。たとえばイギリスでのこのキットカットのビルボード広告やスウェーデンのアポロソフィー・ヘア・プロダクトのための地下鉄のインスタレーションだ。

そして、国際女性の日に先駆けて、投資会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズと、彼らのエージェンシー、マッキャン(McCann)ニューヨークは「恐れを知らない少女像」を建てた(会社をプロモーションする説明プレート付)。少女像はウォール街の有名な雄牛「チャージング・ブル」像に立ち向かっている形だ。

それ以来、このインスタレーションは地元はもちろん、全国的に、そして国際的にも多数のメディアの注目を集めている。観光客や地元の人々も像の周りに常に人の群れを作って押し寄せている状態だ。市長はこの像の設置許可を4月2日まで延期した。そして、この像を恒久的な存在にするための請願キャンペーンが、すでにはじまっている。素晴らしい成果である。

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Sculpture by Kristen Visbal, photo by Federica Valabrega, via. 少女像は雄牛のスタイルと見た目に合うように製作された。コンセプトはマッカーンの女性クリエイティブたち、リジー・ウィルソンとタリ・ガンビナーだ。アドウィークで、これについてのインタビューを読むことができる。

ステート・ストリート社は、少女はリーダーの地位に就く女性の力の象徴を意味しているという。また女性がトップの地位についている会社はより業績が良いというメッセージを伝える、大きなキャンペーンの一環でもあるという。そのキャンペーンを通じて、ステート・ストリート社が投資をしている企業たちに女性役員の数を増やすことを要請しているそうだ(ステート・ストリート社自体の「リーダーシップ・チーム」の女性の割合は、たった18%程度だということは忘れないといけないようだ)。

もちろん、このインスタレーション広告には批判も寄せられた。デイリー・ニュースのジンジャー・アダム・オーティスは、像は少女ではなく大人の女性であるべきだと批判している。

クリエイティブな「緊張」

ここで例の「緊張」の話となるわけだ。巨大な突撃してくる雄牛に9歳の少女が立ち向かう姿に「緊張」が生まれ、広告に何億円相当のPR価値を生み出したのである。大人の女性であれば、ここまでの注目は集めなかっただろう。また、ウォール街のクズたちは、大人の女性の像に下劣なイタズラをすることも想像できる。いや、少女の像であってもクズな男の標的となってしまったわけだから、当然大人の女性であれば間違いなく、クズを集めてしまっただろう。

今週のクリエイティブレッスンはここまで。シンプルかつドラマチックに、緊張を生み出すこと。そして、ほかの人々の仕事を利用することを恐れてはいけない(チャージング・ブルは1989年にアーティスト、アルトゥーロ・ディ・モディカによって違法に建てられた)。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo illustration by Scott Rosser