ネット隆盛の陰で、役目を終える「ディフュージョンブランド」〜ファッション業界のデジタルシフト

ディフュージョンブランド(セカンドライン)が一般消費者に慣れ親しまれて久しいが、現在のファッション業界においては、もはや過去の遺産になりつつある。

ディフュージョンブランドとは、著名なデザイナーズブランドの普及のため、ブランドの特徴やクオリティを保ちつつ、価格を抑えた若者向けのブランドのことだ(例:マーク・ジェイコブスの「マーク・バイ・マーク・ジェイコブス」や、カルバン・クラインの「CK」など)。新規ユーザーの獲得という使命もある、このようなブランドは1990年代から2000年代にかけて全盛期を迎え、各ブランドの収益を底支えしてきた。

しかし、その後、ファッション業界に変化が訪れる。デジタルの興隆により、昨今の消費者は、リアル店舗やオンラインサイト、そしてモバイルなど、複数あるチャンネルをフル活用し、商品リサーチや購入を行うようになった。そのような状況に、多くのデザイナーズブランドがいまだ適応できていないのである。

クリエイティブエージェンシーYardの創業者、ルース・バーンスタイン氏は、「オムニチャネル(ブランドがもつすべての流通経路)への対応は、デジタルに慣れていないブランドにとって、多大な時間と労力、そして組織的な変化を強いられる。また、ディフュージョンブランドをもつことでブランドは、2つの異なるコンセプトを同時に運営するために、労力を分散せざるを得なくなるのだ。これは容易なことではない」と、話す。

メインブランドとディフュージョブランドは表裏一体

ディフュージョンブランドを廃止したいくつかのデザイナーズブランドをみれば、ブランド自体がかつての輝きを失ってしまったことが分かる。「マーク・バイ・マーク・ジェイコブス」の場合、2015年に主流のマーク・ジェイコブスのラインに吸収され、ドルチェ&ガッバーナの「D&G」は、2011年に消え去った。プラダの「ミュウミュウ」は、姉妹ブランドとして再出発し、ダナキャランニューヨークの「DKNY」は、何とか踏みとどまっているものの事態は良ろしくない。ダナ・キャラン氏はクリエィティブ・ディレクター職を最近になって退任し、Twitterで人気アカウントの「@DKNYPRGirl」を担当していたアリザ・リヒト氏は、同社を去ってしまった。

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2014年8月から2015年8月における、ダナキャランニューヨークの株価推移。

ファッションブランドビジネスのデータ分析会社として知られるファッションビ(Fashionbi)のリサーチ結果を見ると、過去1年におけるダナキャランニューヨークのブランド市場指標(上図)は、下火傾向なのがわかる。こうした企業は、新しいチャンネルで正念場を迎えているだけではない。「H&M」や「ZARA」のようなファストファッションや、「トリーバーチ」や「マイケル・コース」など比較的手頃なブランドが、市場におけるディフュージョンブランドの土台を侵食してしまったのである。

「1990年代、こうしたディフュージョンブランドは昨今ほど競争相手が多くなかった」とブランディングエージェンシーRo New Yorkの創業者ロニー・ゼイダン氏がオンラインコミュニティーWebサイト「Luxury Society」に寄稿している。「もはや魅力も華やかさもない。市場が余りに多様化してしまって、買う側にしたら選択肢があり過ぎる」と、書いた。

そうしたなか、大手ブランドはeコマースに着手しつつある。バーバリーは、オンライン事業で成功したことで注目され、シャネルやフレッド・シーガル、トムフォードなどは、2015年になってオンライン販売することを発表した。セリーヌに関しては、いまだに店舗販売のみを貫いている。先述のファッションビによると、高級ブランドグッズにおける売上の5%をオンラインセールスが占めており、全世界での小売売上におけるオンラインセールの割合6.7%には及んでいない。

「実店舗とeコマースの両方を保持している場合、2つを相互に機能させるべきである」と、バーンスタイン氏は釘を刺す。「ディフュージョンブランドがうまく行かなくなってしまった場合、母体のブランドも足を引きずられるのは必至だ」。

ネットの普及で役目を終えたディフュージョブランド

ブランドのインターネット配信やSNS活用も状況を変えつつある。いまやファッションショーは、ライブ動画配信アプリ「ペリスコープ(Periscope)」でストリーム視聴ができ、リボルブ(Revolve)のような新興インディーブランドが小売業界を席巻しようとしている。リボルブのデザイナー、マイケル・コース氏やマーク・ジェイコブス氏は、コレクションの舞台裏や自身の生活をSnapchatやインスタグラムなどでシェアすることで、消費者により近づこうとしてきた。こうして、一般消費者にとって近寄りがたかったファッション業界がインターネットによって透けて見えるようになり、結果として、ハイエンドなデザイナーズブランドの垣根が、ディフュージョンブランドの需要とともに低くなったのだ。

GOT MILK! Thank you @bigandmilky ???

Marc Jacobsさん(@themarcjacobs)が投稿した写真 –

マーク・ジェイコブズ氏のインスタグラム

「ファッション業界がより一般消費者の目に触れるようになったことで、いままでに経験しなかったような変革をもたらしている。商品が店頭に並ぶ半年前にオンラインでショーを観ることが可能になり、消費者が欲しいものと、売り手が提案したいものの間に、無意識のうちにギャップが産まれた結果となった」と、ゼイダン氏は述べる。

「ASOS」「H&M」「ZARA」のような新規参入組は、ほんのわずかなコストで、手早くオリジナルのランウェイを制作。また、「H&M」は、アレキサンダー・ワン氏のようなデザイナーらとコラボして、コレクションを即座に販売できるようにしている。こうした傾向を見ると、ディフュージョンブランドをもつ意味自体がなくなってきているともいえるだろう。

ファッション業界向けのリサーチを行っている会社、ファッションインベストの編集ディレクター、シュレイ・ペインスティル氏は、「eコマースはファッション業界で急速に普及している。ディフュージョンブランドが本来の目的を果たせなくなったいま、商品制作からユーザーへリーチするまでのプロセスをブランドが直接手がけるような効率化は重要だ」と、話した。

ダナキャランニューヨークは、そういう意味で生き残りに賢明な策を講じた。それまでミレニアル世代向けの「パブリック・スクール」というブランドを展開していた、ダオ・イ・チョウ氏とマックスウェル・オズボーン氏を新しいクリエィティブディレクターに招聘したのだ。この動きこそ、ディフュージョンブランドが役目を終えたことを象徴するものだろう。

「ディフュージョンブランドは、以前は成立したビジネスモデルだったが、ソーシャルメディアやeコマースがミレニアル世代のショッピング行動を変えてしまった。高級ブランドがこれから生き残りを賭けるには、こうした習慣に詳しく、インターネットを理解した才能ある人材を引っ張ってくるしかない」と、ペインスティル氏は総括した。

Hilary Milnes(原文 / 訳:南如水)
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