コピーライターはもはやタグラインすら書けなくなっている:失業中コピーライター(55歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(55)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。

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業界人たちは「タグラインはもう死んだ」なんて言っている。しかし、タグラインを目にしない年なんて存在してないわけだ。タグラインの状況はひどい。「ハッシュタグライン」などと言って、すでに悲惨なタグラインを悲惨なハッシュタグとしても利用することで、目も当てられない状況が生み出されている。

確かに、タグラインが実際に意味をもっていた時代は、ほとんど終わってしまった。アヴィス(Avis)の「We’re No. 2, We Try Harder(我々は二番手だ。誰よりも一生懸命だ)」やフェデックス(FedEx)の「When It Absolutely Positively Has To Be There Overnight(翌日には絶対確実にそこへ届けないといけないときに)」が旧き良き例だ。

いまではタグラインを使ったブランディングは、とにかく短い言葉で意味の込められていない表現を作ることと同義になっている。もちろん、意味が無いのが悪いと言っているわけではない。記憶に残るものであったり、ディスラプティブ(破壊的な革新性があるもの[※バズワードの使いすぎに注意])であれば意味が無くても良いのだ。

ナイキ(NIKE)の「Just Do It」には意味が無いが完全にスニーカー業界を席巻した。Appleの「Think Different」も意味は無いようなもんだ。文法も無視しているにも関わらず、Appleは地球最大のコンピューターブランドになった。この5つの単語が世界最大規模のマーケットのうち、2つを征服したのである。

しかし、意味をもたない2つや3つの単語から成るタグラインは芯の通っていない、価値の無いガラクタばかりになっている。

 

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「アメージングを体験しろ」

 

レクサスの新しい2017年のタグライン「Experience Amazing(アメージングを体験しろ)」は、「重力を無視するダンサー」リル・バックを起用したスポットとともに登場した。彼はまたAppleのAirPodsの広告にも登場している(「重力を無視するダンサー」の流行に乗りたいブランドは急いだ方が良い。まぁ、「重力を無視する」とは言っても実際は特殊効果なわけだが)。

問題はタグラインだ。ロゴの下に横たわった様子も、まるで魚が死んだ姿のようじゃないか。口に出して読んで見て欲しい。何も感情が生まれてこない。2017年にもなって、ロードカーを運転することが「アメージング」だなんて説得力が無いにも程がある。自動運転車がアウトバーンで160キロ出して走行中に、バックシートで恋人と静かに身体を重ねる……2017年のアメージングはこれだ。

 

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「実際、もう魔法」

 

新しいiPhoneが出るたびに新しいタグラインがつけられる。そして毎回決まって、傲慢で馬鹿馬鹿しいタグラインになっている。クックさんに言いたい。iPhone7は「Practically Magic(実際、もう魔法)」なんかではない。「実際、もうほかのどのスマートフォンと変わらない」だ。たとえ「iPhone7. Magic.(Iphone7。魔法。)」と書いただけでも、実際もう1000倍は良いタグラインとなる。

 

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信頼は力(電力)

 

全体主義が社会で流行ってるのは理解する。でも「Trust is Power(信頼は力[電力])」って……ジンバブエの独裁者ムガベのキャンペーン・スローガンになかったっけ。このタグラインについて、デュラセル(Duracell)のマーケティング・バイス・プレジデントであるラマン・ヴェルティーニ氏は次のように語っている

今日、信頼というものは非常に少ない量しか出回っていないようだ。私たちは一歩踏み出して、毎日、誰でも信頼できるパワーであるという私たちのポジションを再度宣言したかったのだ。

いやいやいや、ちょっと落ち着けと。売ってるのはただの電池だろうと、突っ込みたい。電池がより長く持続すると言ってるかというと、そういう訳ではない。ただ、信頼できると。あとまったく意味不明なのは、そのスポットだ。面白い、コメディ風なタッチで作られているのにも関わらず、まったくもって面白くないという仕上がりだ。W&K NYCがエージェンシーだが、一体何を考えていたのだろうか。

 

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信頼は力……トランプのポスターに似合いそうだ。「戦争は平和! 無知は知識!」

 

ほかにも意味のないタグラインは世の中に溢れている。ビール・ブランド、クアーズ(Coors)の「Climb On(登り続けろ)」もそのひとつ。一体何に登ればいいのやら。酔っ払って馬から落ちた時の話か? アディダスの「Original Is Never Finished(オリジナルは完成しない)」もそうだ。またスポット広告のダークなトーンを不快に思った人々もいたようだ。しかし本当に不快なのは、あらゆる場面で何度も使われてきた名曲「My Way」の使い方だろう。マイ・ウェイか、どこがオリジナルなのやら(エージェンシーはジョハネス・レオナルドNYC)。タグラインには一見何か意味深な雰囲気が漂っていながら、特にピンとくるものがない、やはり意味の無い仕上がりになっている。改めて言いたい。ビックリするほど頭が悪いように聞こえるだろう? それはなぜか、なぜなら頭が悪い馬鹿なタグラインだからだ。

ここでひとつ伝えておきたい。タグラインを作成するプロセスに何の秘密の魔法も存在していない。ブランドに関する知識を最大限吸収して、脳みそのなかで温め、そして書きはじめるしかない。

最初は何か意味を紡ぎあげようとしてしまう。あまり正確じゃない、粗末な類語辞典を手に入れるんだ、それをもとに単語をつなぎ合わせていく。ちゃんとした順番につないだり、わざとちぐはぐにつなげたり。そして論理を捨てて、どんな馬鹿げたアイデアでも浮かんだ物はすべて書き留める。それから、気分をハイにする。それからまた書き続ける。汚い言葉も使う。アンチ・タグラインも書いてみるんだ。アンチ・タグラインは、ブランドを史上最悪なブランドのように演出するものだ。50、100、500のタグラインを書く。そしたら上出来なタグラインにたどり着けるかもしれない。もしかしたら、たどり着けないかもしれない。そうなったらひたすら穴を掘る職業に付きたくなるだろう。それかその穴に入って死んでしまいたくなるかもしれない。もしくは、まだ書き続けるという選択肢もある。

お願いだから、誰か。今年こそは良いタグラインを書いてくれ。そうしたら一度くらいはポジティブな記事を書くことができるじゃないか。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)