ストリートウェア市場に擦り寄る、高級ブランドたちの狙い:ラルフ・ローレンからルイ・ヴィトンまで

高級ファッションとストリートウェアの境界線は、かつてなく曖昧になっている。

NY発のストリートブランドであるシュプリーム(Supreme)は、10月はじめに、その株式の半分を、ワシントンD.C.の投資ファンド カーライル・グループ(The Carlyle Group)に5億ドル(約550億円)で売却したことを発表した。これは大きな話題を呼んだが、すでにルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)とのコラボでファッションファンを熱狂させたシュプリームにとってはおまけに過ぎなかったと言ってもいい。

シュプリームがアクセサリーの限定コレクションで、ルイ・ヴィトンとコラボすることを発表したのは2017年1月。高級ブランドへの展開をうかがわせる第一歩だった。実は両社は、2000年にシュプリームがルイ・ヴィトンのモノグラムをモチーフにしたスケートボードデッキを販売したことから、揉めた過去がある。どうやら、今回のコラボで昔の出来事は水に流したようだ。

4月には、ドイツのファッションデザイナーであるジル・サンダー氏が、ブランドを牽引する新たなクリエイティブディレクターとして、ルーク・メイヤー氏とルーシー・メイヤー氏を任命すると発表した。一見珍しいことではないように思えるが、これは人気ストリートウェアブランドからの巧妙な人選だったと言える。ルーク氏は元シュプリームのデザイン部門トップであり、かつストリートウェアレーベルOAMCの創設者でもある。

ラルフ・ローレンの復刻劇

さらに、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)は9月に、1992年に発売されファンのあいだで絶大な人気を誇る「ポロ スタジアム・コレクション」を復刻させた。同コレクションのパーカーやTシャツには有名な「P-Wing」ロゴがあしらわれている。男性向けファッション誌『GQ』によれば、オリジナル品は販売終了後もメンズウェアで伝説的な人気があり、5000ドル(約57万円)近い値段が付いたこともある。この驚くべき需要に乗じて、復刻モデルは限定数生産とし、整理券が必要な特定の店舗のみで販売された。

ラルフ・ローレンのポロ1992 スタジアム・コレクション

ラルフ・ローレンの「ポロ1992 スタジアム・コレクション」復刻版

 

NYに拠点を置く有名なメンズウェアショップ カールソン・ストリート(Carson Street)の共同創業者であるブライアン・トゥルンゾ氏によると、ラルフ・ローレンはここ何年ものあいだに若年層のファンが離れており、その威信を取り戻そうという努力の表れだという。若者たちは、小ぎれいでプレッピーなポロからアーバンウェアに傾いてしまっているのだ。「ようやく消費者にリーチする方法を考え直しているようだ」。

ラルフ・ローレンが今回行った復刻版キャンペーンは、1990年代はじめに、日本のストリートウェアブランドのグッドイナフ(Goodenough)やア・ベイシング・エイプ(A Bathing Ape)が最初に実施したモデルを模したものだ。通常のセールシーズンに合わせず、限定品を定期的に発売するこのやり方を、最初にアメリカ本土で取り入れて定着させたのがシュプリームとなる。

老舗ブランドの焦り

いまやこの手法はナイキやカイリー・ジェナー(Kylie Jenner)までもが取り入れており、ジバンシー(Givenchy)の新しいクリエイティブディレクターのクレア・ワイト・ケラー氏も注目している。彼女は、9月にニューヨークタイムズ(The New York Times)に対して、ジパンシーのアイコニックなデザインモチーフを用いた、優雅で洗練されたカプセルコレクション「ジバンシィ エッセンシャルズ」から毎月発売する計画があると語った。

高級ブランドがこのモデルを採用している理由として、「販売チャンネルが枯渇してつまらないものになっている」ことが考えられると、デジタルエージェンシーのハングリー(Hungry)でインサイトディレクターを務めるアシュウィン・デシュムク氏は語った。「老舗ブランドから素晴らしいクリエイティブが出てきていない。だからこそ彼らは、このドロップモデルを採用して希少性を生み出し、消費者の興味を引こうとしている」。

実際に、リテール業界はデジタル化の波によって打撃を受けており、従来のマーケティングでは現在の顧客とは繋がることができなくなっているため、高級ブランドは苦戦を強いられている。昨年、個人向けの高級品の市場規模は、2930億ドル(約33兆4600万円)の横ばいとなり、金融危機以来はじめて成長が止まった。

業界をくつがえす

だが、老舗ブランドが頼っているのは、ストリートウェアの販売戦略やブランド間の提携だけではないと、ハイブランドファッションのエスセンス(Ssense)のシニアエディター、アダム・レイ氏は語った。何よりもストリートのデザイン性や美学を用してきているのだ。ジバンシーの550ドル(約6万2800円)のロットワイラーのTシャツや、グッチ(Gucci)のドナルドダックのデザインを使った最近のTシャツやパーカーを例にとり、「ブランドは、遊び心がありストリートウェアの象徴的なデザインを使って、Tシャツなどのシンプルなファッションをハイファッションなものに変えてきた」。

話題のブランド、ヴェトモン(Vetements)のデムナ・ヴァザリア氏のような、比較的最近の高級ブランドのデザイナーたちは、これまでの高級ブランドとはまったく異なる視点を持っていて、その考え方が伝統的な市場全体にも広がっていく可能性がある、とレイ氏は話す。同氏によれば、この新鋭のデザイナーたちは、(ファッションショーの)ランウェイで披露される商品すべてを実際に顧客が着れるファッションにすることにより力を入れているという。

「これまでのランウェイでは、実際には生産されない、いわば非実用的な服が多く、それが当たり前になっていた。ヴァザリア氏のようなデザイナーはこうした慣習を打ち破ろうとしている。いま、高級ブランドのランウェイで見られるファッションはストリートでも見かけるようになってきている」。ヴァザリア氏は高級ブランド バレンシアガ(Balenciaga)のクリエイティブ・ディレクターでもあり、この新しい考え方や風潮がファッション業界全体に広まっていくことも容易に想像できる。

ルイ・ヴィトンとシュプリームのコラボアイテムを購入し、店舗の前に並ぶファン

ルイ・ヴィトンとシュプリームのコラボアイテムを求め、店舗の前に並ぶファン

動きには賛否両論

こうしたストリートファッションブランドに影響を受けた、高級ブランドの動きに対する業界人の意見はさまざまだ。

肯定派のあいだでは、変化しつつある消費者のニーズに老舗のブランドがようやく応えはじめた結果と受け止めている。トゥルンゾ氏は、「ようやくここまで来た。こういった変化によって、ブランドはより顧客とダイナミックに関わりあうことができる」と語った。また、この動きはストリートウェアが有するアングラ感やニッチ感を薄めてしまうものではなく、ストリートブランドも王道のファッションとして受け入れられたことになるという。

一方、ブルックリンのストリートウェア販売店、キンフォーク(Kinfolk)でクリエイティブディレクターを務めるジェイ・ペリエ氏は懐疑的な見方をする。「ストリートウェアの要素を取り入れようとしている高級ブランドに対して私が感じている問題は、『本物らしさ』の欠如だ」。スケートボードの文化を取り込もうとするブランドや、たとえばファッションショーでヒップホップの面を見せたグッチ(Gucci)にしても、本当にその世界観を体現しているわけではない。「ライフスタイルとリアルであることは、ストリートウェアには欠かせない。それこそが我々の存在意義であり、貸借できるようなものではない」。

デシュムク氏も、高級ブランドがストリートウェアが持つ熱狂的でオーガニックなカルチャーを欠いているという点では同意する。たとえば、最近行われたストリートウェア・ショップのグッドカンパニー(The Good Company)とリーボック(Reebok)が行ったコラボレーション・イベントでは、なんの前触れや計画もなくシンガーのフランク・オーシャンが登場している。おそらくルイ・ヴィトンも同様に、観客を呼び込むためだけにオーシャンのような有名人に、ファッションショーでのパフォーマンスを依頼するようになるだろうと同氏は指摘する。

「私はこの傾向を侮辱だと捉えている」と、デシュムク氏は続けた。「高級ブランドはいつでも同じことをする。カルチャー的に人気を博したトレンドや芸術を我がもの顔で、自分たちのブランドに取り込もうとする」。

Jessica Schiffer (原文 / 訳:Conyac