eコマースと直結したファッション誌『ポーター』の実験:紙とデジタルの新しい関係

雑誌『ポーター(Porter)』は、一般的なファッション誌に見えるが、ショッピングアプリ「NET-A-PORTER」とも連動しており、まるでeコマースカタログのように利用できる。紙の雑誌をペラペラめくっているときに、気になる商品が見つかったら、アプリのカメラでページをスキャンすれば、すぐに商品購入ページに行き着くことができるのだ。

2014年から隔月刊で発行されている、この『ポーター』。年会費25ドル(約2800円)で、高級志向の顧客向けに配布される、eコマース対応の雑誌となっている。

「従来の雑誌は、読者をじらす存在だった」と、『ポーター』のルーシー・ヨーマンズ編集長は語る。ヨーマンズ編集長は、2012年まで女性向けファッション誌『ハーパーズバザー(Harper’s BAZAAR)』の編集者をしていた。

たとえば、『ヴォーグ(VOGUE)』誌のページをめくると、買いたいと思うコートやバッグを見つけることができる。だが、そうした商品は現実では簡単に手に入れられない、と同氏は指摘する。「顧客に対して、購入させようと煽りながらも、結局は入手できないのだ」。

平均約2000万円の年間所得

有名人のインタビュー特集や流行ファッションを掲載する雑誌『ポーター』は、2014年2月に発刊。現在、全世界での発行部数は、前年比10%増の17万部となっている。

米国だけで100万人の購読者がいる『ヴォーグ』誌などと比べると、『ポーター』は、まだ上るべき階段が天高くまで続いているといえるだろう。だが、「NET-A-PORTER」で提供される高級志向のeコマースストアを補完するものとして、商品への関心を掻き立てるとともに、上得意客を獲得する機会を同ストアに与えてきた。

「EIP(Extremely Important People)」と呼ばれる、このような上得意客。年間世帯所得は、平均で17万8000ドル(約2022万円)もあるという。

アプリスキャンで即購入

『ポーター』各号の冒頭ページには、商品の購入方法が記載されている。アプリ「NET-A-PORTER」をダウンロードしたあと、メニューの「雑誌『ポーター』をスキャン(scan Porter magazine)」を選択し、各号のページ上に端末を掲げる。すると、「ショップ(shop)」アイコンが現れて、同ショップから購入できる商品のブランドや価格、購入ボタン、さらにほかのカラーや関連商品が表示されるのだ。

そのページに掲載されている商品には、24時間対応の接客サービスを示す「コンシェルジュ(concierge)」、ジャケットなどアイテム別ページに進む「探す(find)」、有名人やモデルが実際に身につけている商品すべてをチェックする「もっと見る(see more)」というラベルが付けられている。

左:『ポーター』の誌面/中央:アプリでスキャンしている様子。左:購入可能アイテムを表示した画面。

ヨーマンズ編集長によると、『ポーター』には、購入できる商品が各号に平均で500アイテム掲載されているという。関連商品を考慮に入れると、その数は2000アイテムになる。2015年の読者調査では、商品のスキャン回数は8万5000回で、インタラクション率は78%だった。

物販だけでなく、広告収入も

UXについては、読者が端末で『ポーター』のページを移動する際は、動作が少しぎこちなく感じることがあり、慣れるのに時間が掛かるようだ。しかし、パーソナルサービス風にするために、コンシェルジュサービスなど、eコマースストアでは入手できない特定商品を探してくれるサービスも提供している。購入者がニューヨークやロンドンにいる場合は当日発送も可能だ。ほかの地域でも配送料無料となっている。

ヨーマンズ編集長によれば、「NET-A-PORTER」は、どちらかと言えばオンラインコンテンツブログに近い、同社のデジタルカタログ『The EDIT』もサポートできる。

『ポーター』掲載アイテムを、「The EDIT」ではすべて紹介しているが、「NET-A-PORTER」では扱っていないものもある。また、同誌には『ヴォーグ』同様に、多くの広告が溢れている。シャネルのようなブランドや、女優ユマ・サーマンのようなセレブと築いた関係のおかげで広告収入を得ているのだ。そのため、49人から成る編集チームは、ショップサイトと切り離した編集作業を存分に行えるという(「The EDIT」には25人のスタッフがいる)。

出版不況に一石を投じる

「『NET-A-PORTER』は、自ら採算が取れるマーケティングツールのようなものだ」と、ヨーマンズ編集長はいう。

刺激的な誌面を利用して、読者に購入を促す雑誌は、『ポーター』だけではない。『ヴォーグ』では、画像・音楽認識アプリ「Shazam(シャザム)」によって拡張される広告が掲載されている。その一例が、2015年9月号に掲載された米小売大手ターゲット(Target)の見開き広告だ。また、女性向けファッション誌『エル(ELLE)』は、買い物案内アプリを提供するショップアドバイザー(ShopAdvisor)と提携し、ビーコンメッセージを利用して、記事から実店舗に顧客を誘導している。

「ブランドとパブリッシャーの両方を兼ねている場合は、顧客に購入してもらう方法において、もっと明確でユニークな視点に立ち、ページの枠を越えられるようにしなければならない」。米エージェンシー、アーウィン・ペンランド(Erwin Penland)のエグゼクティブバイスプレジデント、ジェシカ・ナバス氏はそう指摘する。

今後、紙の媒体は廃れると予想されてきたが、『ポーター』に関しては、記事にCTA(Call to Action)機能、購入ボタンを追加することで、その予想に抗っている。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via 米DIGIDAY