米低所得者層へリーチする、フィンテック系企業の挑戦:隙間を埋めるチャンスとは?

「ファイナンシャルテクノロジー」という言葉を聞くと、都会に住む大金持ちがスマートフォン片手に銀行取引や投資管理している姿を思い浮かべる読者も多いだろう。ここ最近のデータによると、普及率は都会の若い世代に偏っている傾向がある。

しかし、ワイズバンヤン(WiseBanyan)のようなフィンテック系の企業も存在する。こちらは、たとえば銀行口座すらもっていないような、またはそうした従来の銀行口座を使わずにペイデイローン(短期の小口ローンサービス:月の給料を担保に貸し付けを行なう)のサービスを利用しているような、比較的低所得の顧客にリーチする方法を模索しているのだ。

市場規模は大きい。連邦預金保険会社(Federal Deposit Insurance Corporation)の調査によると、2015年、アメリカの家庭の7%が「アンバンクド(Unbanked)」、つまり家庭内で銀行口座をもつ者がひとりもいない状態だった。当然ながら「アンバンクド」の割合としては低所得者層の比率が高い。だが、金融サービス業界がこのセグメントにリーチするのは、総じて困難である。銀行口座をもたない理由が、資金不足や高額な手数料だからだ。

約3分の1は低所得所帯

ピュー研究所(Pew Research Center)が定義する「低所得所帯」とは、所得がアメリカの一般家庭の年間所得平均約3万6000ドル(約410万円)の67%以下の家庭だ。研究所によると、これをアメリカの人口比率に換算すると約3分の1に当たる。業界の専門家は、昔ながらの銀行システムは、こうした低所得者層向けに設計されたものではないため、フィンテック系の企業にこのギャップを埋めるスペースがある、という。

「ファイナンシャルテクノロジーは、消費者が抱える多くの問題の解決に役立つポテンシャルをもっている。だが、現在銀行が提供している商品は、このニーズを満たしていないばかりか、むしろとても価格が高い」と、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)の研究員、アーロン・クレイン氏は語る。

フィンテック系の企業は、より現金やクレジットを利用しやすい低価格なサービスを通じて、低所得者層にリーチしている。低所得者層の消費者がこれまで考えられていなかった部分は投資計画であり、これはしばしば「資産管理」を意味する。

ロボアドバイザーアプリ

ワイズバンヤン社はロボアドバイザーアプリを通じて、ユーザーの財政的な目標を分析し、投資のアドバイスを自動で行うサービスを提供している。これは昔ながらの仲介業とは異なり、収入の分類に関わらず、預け入れや引き出しの際の手数料がかからない。CEOのハーバート・ムーア氏は、このアプリの目的は、障壁を取り除き、どんな所得者層でも財政的な目標を達成できるようにすることだと語る。

「企業として、収入や財産の規模にかかわらず、誰でも財政的な目標を達成できるはずだと信じている」と、ムーア氏は理想を語る。「これまでサービスを受けられなかったような人々の手助けができるはずだ」。

ワイズバンヤンが抱える2万3000人の顧客の約4分の1が、年収5万ドル(約570万円)以下だと、ムーア氏はいう。このアプリの歳入出の流れは、付加価値サービスにあり、これには所得控除の手助けを望む顧客に対して提供する有料ツールが含まれる。この類の資産運用ツールによって、多くのアメリカの人口が恩恵を受ける可能性がありそうだ。

従来の銀行も続々参入

一方で昔ながらの銀行も、低所得者層の顧客であってもニーズに合わせた特別な商品を利用できるという。これには、たとえばシティ(Citi)銀行の「アクセスアカウント」などの手数料の低い口座や、チェイス(Chase)銀行の「リキッド」やPNC銀行の「スマートアクセス」など、当座預金口座の機能を備えたプリペイド式のVISAカードが含まれる。

シティの「アクセスアカウント」の顧客は、毎月10ドル(約1100円)の手数料を支払う必要があるが、一定の条件を満たすとそれが免除される。一方、チェイス銀行の「リキッド」カードやPNC銀行の「スマートアクセス」などカードは、ともに月約5ドルのコストがかかる。

「私たちのゴールは、メインストリームの外にいる人たち(多くは彼ら自身の責任でそうなったわけではない人たち)が戻ってくるのに必要なツールを提供して、願わくは将来、PNCの顧客になることだ」と、PNC銀行のスポークスマンは語る。

埋められるべきギャップ

それでも、業界の専門家は、フィンテック系企業には銀行取引や金融サービスを低所得者層へ提供することで、隙間を埋めるチャンスがあるとCRL (Center for Responsible Lending : 借主にとって公正で包括的な財政マーケットを保証することが使命の非営利団体)のポリシーカウンセラーであるコートニー・ロビンソン氏は語る。「所得の低い借主、有色人種の借主にとっては、埋められるべきギャップがそこにはある」。

一方で、また、金融系の企業が提供するアドバンテージとは裏腹に、スタートアップに残された隙間はやはり、比較的所得の高い借主に偏りがあり、顧客はいまだ高額の手数料や金利に警戒する必要があると、ロビンソン氏は強調している。

「一部の企業は他者との違いやユニークさを装っているが、彼らの商品はペイデイローンに近い金額だ」と、彼女は語る。

フィンテック企業との提携も

だが、昔ながらの銀行にとっては、フィンテック系の起業家と提携することが推進活動を進めるうえで最良の道かもしれない。一例として、3000万ドル(約31億円)の寄付と、CFSI (金融サービスイノベーションセンター) との5年間に渡るパートナーシップを通じて、チェイス銀行は初期段階の起業家たちに対する投資や指導、サポートを行いフィンテックの革新に一役買っている。

「最終的に低所得層の顧客にリーチするのは、ともに仕事をしている私たちだ」と、JPモルガン・チェイス銀行のコミュニティイノベーション部門でエグゼクティブ・ディレクターを務めるコリーン・ブリッグス氏は語る。「私たちはこうして変化をもたらそうとしているのだ」。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:Conyac
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