高級ECファーフェッチ、実店舗のデジタル化ツールを提供:顧客データを店舗データとつなぐ

ラグジュアリーECモールを運営するファーフェッチ(Farfetch)は、ロンドンでのファーフェッチOSイベントで、リテール向けの新しいツールを発表した。リテールプラットフォーム「ストア・オブ・フューチャー(Store of the Future:未来の店舗)」は、ラグジュアリーブランドの店舗体験のデジタル化にフォーカスしている。

「ストア・オブ・フューチャー」は、提携しているブランドやブティックパートナーに、オンライン上の顧客データヒストリーと、実店舗への訪問データ分析を提供することで、店舗改善に活かせるツール。このプラットフォームを活用すれば、顧客の購買履歴、好みのブランドや閲覧行動といった情報をデータベースとして店舗が確認できる。それによって、販売員が実際の店舗内でのショッピング体験を、より顧客に適した形で提供できるのだ。

また、機能のひとつ、「コネクテッド・レール(Connected Rail)」では店舗内でのプロダクト認識機能を利用して、顧客がどんな商品を手に取り、試着し、棚に戻したか、といった動きをトラッキング。それによって、将来のおすすめ商品などをカスタマイズできるという。

それだけではない。さらに、在庫や再注文の管理をより効率的にできるようにデザインされている。また、オンラインで購入したものを店舗でピックアップしたり、返品することで、店舗に客足を集めることを狙っているのだ。「ストア・オブ・フューチャー」は現在ベータモードだが、ロンドンのブティック「ブラウンズ(Browns)」と「トム・ブラウン(Thom Browne)」のニューヨーク支店でローンチする予定だという。

「顧客認知」がとても重要

「ファーフェッチはほかにもさまざまなテクノロジーを試してきた。たとえば、『ストア・オブ・フューチャー』を通じて『コネクテッド(接続した/繋がった)ストア』における顧客体験がどんなものか、より深く理解できるようになった。顧客認知はこの分野において非常に重要だ」と語るのは、ファーフェッチの最高戦略責任者ステファニー・ファール氏だ。

2008年にジョゼ・ネヴェス氏によって創立されたファーフェッチは、独立系のブティックの在庫を集約し、小規模リテールのオンライン展開をサポートすることで売上を増加させてきた。ファーフェッチはサイトを通じて発生した売上から手数料を受け取るモデルで、彼ら自身は在庫を有しない。また、ラグジュアリーブランドも同プラットフォームに追加された。2015年には、「ファーフェッチ・ブラック&ホワイト」というテクノロジーソリューション機能を提供開始。これにより商品と顧客の関係をコントロールしつつ、ブランドのeコマースサイトの機能やロジスティックスを強化させる。

「ストア・オブ・フューチャー」はこの流れをさらに、店舗向けデジタルソリューションへと展開させていく予定だ。「ストア・オブ・フューチャー」という名目を謳ったプロダクトはファーフェッチがはじめてではない。デジタルに馴染みが深いリテールがバックエンドのデータベースを実際の店舗のために設立することだって、珍しくはない。コスバー(Cos Bar)リフォーメーション(Reformation)ティンバーランド(Timberland)といった小売ブランドは皆、トラフィックカウンターや顧客特定ツールといった店舗向けテクノロジーを活用して店舗でのショッピング体験を向上させている。

EC業界における初の試み

そんななか、ファーフェッチの「ストア・オブ・フューチャー」の可能性とは何か。それはブランドのネットワークをさらに大きく強化すること。特に、従来であれば、デジタル部門にブランド運営を任せないブランドを巻き込み、彼らの店舗をアップデートさせることだ。

「ブラック&ホワイトを持ってすれば、メインのビジネスターゲットだけでなく、デジタル文化が根付いていないブランドに対しても、デジタル関連のスキルを構築させることができると、ファーフェッチは認識している。これは拡大目標に近いが、もしも成功すれば、コアビジネスとの共食いになることなく、新しい収益源を生み出すことになる」と、デジタルラグジュアリーグループ(Digital Luxury Group)のマーケティング責任者であるタマール・コイフマン氏はいう。

また、EC企業が、パートナーブランドの実店舗内の体験をターゲットにする、初の試みでもある。ライバルであるアパレルのネット通信販売サイト、ネッタポルテ(Net-a-Porter)がロベルト・カヴァリ(Roberto Cavalli)やエミリオ・プッチ(Emilio Pucci)といったブランドパートナーのeコマースサイト支援をしているが、実店舗における顧客体験はサポートしていない。

上場も囁かれるほどの勢い

ファーフェッチはネッタポルテに追いつきはじめた。現在まで、ファーフェッチは合計で3億500万ドル(約380億4000万円)の資金を集め、企業価値は15億ドル(約1652億円)に据えられている。これは去年のシリーズF資金調達(1億1000万ドル[約119億円]を集めた)の結果を踏まえたものだ。BNPイグザン・パリバスのラグジュアリーグッズ責任者ルカ・ソルカ氏によると、ファーフェッチは年間60%のスピードで成長、2年以内にはオンラインアグリゲーター最大手として、ネッタポルテの地位を追い越す勢いだという。

ファーフェッチは株式公開の準備中だというウワサも流れている。2016年には1億2500万ドル(約135億円)の収益予想をしっかりと達成している。ネッタポルテの収益は合計19億ドル(約2093億円)であった。2月にはネッタポルテのファウンダーであるナタリー・マセネット氏がファーフェッチの取締役会に入った。彼女は2015年にネッタポルテがラグジュアリーブランドのユークス(Yoox)と合併した時に会社を去っている。

「ファーフェッチモデルは確実に成果をあげている。一方で変化の早いマーケットで、ますます攻撃的な競合他社との競争のなかでユークス・ネッタポルテグループはマーケット・シェアを失いつつある」とソルカ氏は、最近のレポートで述べた。

さらに激化する競争

ファーフェッチOSで発表された情報はほかにもある。オンデマンドのデリバリーサービスだ。最初はグッチとの独占パートナーシップとしてサービス開始予定だという。ファーフェッチがグッチストアの配達を迅速化し、10都市でなんと同日宅配を行うという。さらには、オンラインでのカスタマイズ機能も発表。フットウェアデザイナーであるニコラス・カークウッド氏とパートナーを組んで独占的に開始されたこのサービスは、顧客にローファーの素材、色、ディテールを選ばせることが可能だ。

先週、ネッタポルテもふたつの新しいカスタマーサービスを発表した。ラグジュアリーリテールと顧客の家の距離を近づけることが目的だ。「まずはサービスを体験してもらう」ことがこの機能の醍醐味といえる。これは対象となる顧客が商品の注文をすると同日に届けられ、もしも商品を実際に見てみて気に入らなければその場で返すことができるというもの。もうひとつは、スタイリストがそれぞれのカスタマー向けに選んだプロダクトのコレクションを自宅まで持って来てくれ、そこで選ぶことができるという機能だ。

「どこがデジタルラグジュアリーをもっとも魅力的にすることができるか、軍拡競争を行っている状況だ」と、コイフマン氏はいう。

Hilary Milnes(原文 / 訳:塚本 紺)