「カスタマイズできること」がファッションECの最前線:制作過程に参加したがるユーザーたち

ニクンジ・マルバニア氏は、2012年に金融サービス業界で働いていた当時、ひとつの深刻な問題を抱えていた。仕事に履いていくのに適した靴が見つからなかったのだ。

上質のドレスシューズはあまりに高価で、あまりに堅苦しく、また補正するのに時間がかかり過ぎた。最適なローファーを探し求めているうちに、マルバニア氏は自分で靴をデザインすることを考えるようになる。紳士靴を販売するオール・アンド・サンドリー(Awl & Sundry)はこうして生まれた。

マルバニア氏の会社は、オーダーメイド靴の販売で高級靴市場に殴り込みをかけている多くの小売店のひとつで、比較的安価な品揃えと、顧客自身が靴をデザインできるサービスで顧客を引き寄せようとしている。

ファストファッションeコマースの拡大によって店員とやり取りせずに買い物のできる環境が増えるなか、こうした企業はちょっとしたパーソナライゼーションの要素をデジタルの世界に加えることで、顧客との関係を再構築しようとしているのだ。ただし、巨大なカスタマイズ製品市場の真っ只中で、知名度を高め、品揃えを増やすことは難しい。

顧客との関係を再構築

1883年からオーダーメイドの男性向けドレスシャツをデザインしているハミルトン・シャツ(Hamilton Shirts)の共同オーナー、デビッド・ハミルトン氏によれば、オーダーメイド店は、従来の小売店には見られないような一定の説明責任を負っているという。「これは執事のような感覚だ。顧客が正しい選択を行えるようにし、それを顧客に伝える必要があるのだ」と、ハミルトン氏は話す。

同じように、マルバニア氏もオール・アンド・サンドリーについて、「昔ながらのクラフトマンシップを復活」させ、既製服からオーダーメイドへの移行という紳士服のトレンドに対応しようとしていると、述べている。アクセスのしやすさと低価格を売りにするには、中間業者(この場合は、卸売業者、流通業者、小売業者、販売員)の数や通常の実店舗にかかるコストを最小限に抑えることが必要だ。

だが、カスタマイズサービスを手がけるオンライン企業には限界があると、調査会社フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のアナリスト、スチャリタ・ムルプル=コダリ氏はいう。その限界とは、提供する製品に多様性が欠けていることだ。

ムルプル=コダリ氏は次のように指摘する。「この業界で最大の問題は、これがマス・カスタマイゼーションだ、という点にある。こうした企業はたいてい、カスタマイズできるアイテムの少なさが制約となっている。彼らはまるで、トッピングの種類は多いが、肝心の生地の種類が少ないピザレストランのようだ。規模を拡大するには、多様性と選択肢をいまよりはるかに増やすことが必要になるだろう」。

製品の種類の少なさに対応するため、オーダーメイド店は顧客とのリアルなやり取りを再活用しようとしている。オール・アンド・サンドリーは、すべての販売をオンラインで行う一方、ニューヨークに小さなショールームを構え、顧客が自分でカスタマイズした靴を試着できるようにしている。

これはカジュアルな紳士服のカスタマイズサービスを実施しながら、リアルな店舗も運営するボノボス(Bonobos)と同じようなやり方だ。マルバニア氏によれば、このような顧客との1対1のやり取りが、従来のデパートやデザイナーズブランドを上回る顧客体験を作り出すのに役立つという。

「これがオーダーメイドの利点だ。商品とフィット感とスタイルがいったん提供できれば、(顧客が)J.C.ペニー(JCPenney)やヒューゴ・ボス(HUGO BOSS)やアルマーニ(Armani)に行って、靴を買うことはない」と、マルバニア氏は語った。

デザイナーとしての顧客

オーダーメイド服は、伝統への回帰というだけではなく、自分の服に責任をもち、美的な判断を下すのは、ほかならぬ自分だという感覚を顧客にもたらす。これは、本当に独自のユニークなスタイルを作り上げるために欠かせない要素だ。

オンラインファッションブティックのボウ・アンド・ドレープ(Bow & Drape)を立ち上げたオーブリー・パガーノ氏は、このことを「イケア(IKEA)効果」と呼んでいる。最初から最後まで顧客のプロセスに関与することで、協力感と達成感を育てることができるのだ。

スウェーデンの巨大家具企業であるイケアと同じように、パガーノ氏はスウェットシャツから野球帽まで、オーダーメイドの服やアクセサリーをデザインするプロセスに顧客をうまく関与させている。

「人々はこのプロセスに参加したがっている。ミレニアル世代にとって表現は、我々が信奉するものや購入するものの、非常に中心的な価値なのだ」と、パガーノ氏は言う。

オーダーメイドの女性靴を手がけるシューズ・オブ・プレイ(Shoes of Prey)の共同創設者ジョディ・フォックス氏も、パガーノ氏の考えに賛同する。フォックス氏によれば、顧客が自分の製品をデザインできるようにすることは、オーダーメイドブランドの強化につながり、標準的な小売店に対する優位性を彼らに与えるのだという。

同氏は、「いまはカスタマイズできることが実に重要であり、これによって、(顧客が)欲しがっているものに対して、所有しているという感覚とつながりがもたらされる。身に着けている靴を人々が褒めてくれるとき、それは彼らが自分の個人的な嗜好を支持してくれていることを意味する。そのため、最終的にはるかに大きな満足感が得られるのだ」と語った。

ブランド認知度を獲得する

オーダーメイドブランドが増え続けるなか、一部のブランドは、著名なデザイナーですでに飽和状態のオンライン小売市場に参入するにあたって、どうしても避けられない苦労に直面することが多くなっている。

「老舗的なブランドの多くが、デジタル環境のなか、これからどのように存在していくのかを考える必要があると思う」とハミルトン氏は言う。同氏の会社は、インターネットの時代がはじまる前に彼の父が立ち上げた。「特にオーダーメイドブランドは、こうしたあらゆる決断に、あなたを導いてくれる人とのやり取りがある点で、かなり特殊なのだ」。

マーケティングの費用がますます高騰するなか、新しい企業にとって最大の問題は認知度を獲得することだとムルプル=コダリ氏は指摘する。同氏によれば、シューズ・オブ・プレイなどの企業は、ノードストローム(Nordstrom)のような「大手」と提携したり、斬新な動画広告を試してみたりするといった取り組みを実にうまくこなしているという。

オーダーメイドブランドのeコマースは盛り上がりを見せているものの、オンラインで勢いを獲得し、ブランド名を確立する取り組みは、必ずしもスムーズにはいかない。そのような戦略を実施している、オーダーメイドの小売店にとって、ソーシャルメディアキャンペーンは、自社のプレゼンスを活かし、自社のユニークで独自のデザインを知ってもらうために欠かせない存在だ。

「インスタグラムは事実上コンテンツに制限がないため、オーダーメイドブランドにとって優れた使いやすいプラットフォームだ。カスタマイズができる場合は、トレンドとなっている出来事にすばやく合わせて毎日新しいものを作り出し、人々の役に立つことができる」とパガーノ氏は言う。

インスタのアルゴリズム導入の影響は

インスタグラムで3万1500人のフォロワーを抱えるボウ・アンド・ドレープは、最新のアイテムを定期的に投稿している。同社は実店舗を持たないが、店内展示を利用して直接触れ合える体験を強化している。最近ではデパートのロード・アンド・テイラー(Lord & Taylor)と提携し、20~30分もあれば、来店者がその場で製品をデザインしてプリントアウトできるようにした。

ただし、インスタグラムがまもなく導入するアルゴリズムベースのフォトストリーミングモデルがユーザーエクスペリエンスに変化をもたらすため、オーダーメイドブランドのオーナーはソーシャルメディア戦略を再考し始めている。

ビジュアルマーケティングプラットフォームを手がけるピクスリー(Pixlee)のCEO、カイル・ウォン氏は3月に、「インスタグラムの新しいアルゴリズム式フィードは、コンテンツの量ではなく、コンテンツの質を重視するものだ」と、米DIGIDAYに対して語った。「ブランドは、単なるフォロワー数やリーチではなく、適合率とエンゲージメント率を最大化する戦略を優先することが必要になる」。

マルバニア氏は、何がもっとも効果的なのかを既存のモデルから学んでいるところだと述べ、アルゴリズムの実装に合わせて「調整が必要になるだろう」と語った。同氏によれば、オール・アンド・サンドリーのフォロワー数の拡大にはインフルエンサーが重要な役割を果たしてきたという。今後も、有料記事に手を出すことはせず、インフルエンサーのネットワークを活用することを計画している。

一方、シューズ・オブ・プレイでは、「一部のキャンペーンでスポンサー付き投稿を実験的に取り入れ、パフォーマンスに基づいた評価を行う」ための実験や計画を積極的に実施するとフォックス氏は語っている。

Bethany Biron(原文 / 訳:ガリレオ)