年々加熱する「コーチェラ・フェス」のファッションマーケ:廉価ブランドからジミーチュウまで

4月15日、第17回コーチェラ・フェスティバル(以下:コーチェラ・フェス)が開催された。コーチェラ・フェスは米カルフォルニア州で開かれる米国最大級の音楽フェスで、日本を含む世界中の音楽好きの若者が憧れるイベントだ。

この若者を惹きつけるフェスはファッションマーケティングの格好の的にもなっている。2015年には高級婦人靴のジミーチュウ(Jimmy Choo)が米インディーロックバンドのハイム(HAIM)とパートナーシップを結び、現在でもH&Mが「H&M・ラブズ・コーチェラ(H&M Loves Coachella)」と称してコラボレーションを行っている。最新のものでは、アリスアンドオリビア(Alice + Olivia)が米ロックバンドのグレイトフル・デッド(Grateful Dead)とコラボレーションしたファッションショーを行うなど、コーチェラ・フェスの影響は至る所で見受けられる。

1999年にコーチェラ・フェスが開催されて以来、このイベントはアメリカ最大の音楽フェスティバルのひとつになるまで成長した。2015年にはすべてのチケットを完売し、売上総額が8400万ドル(約89億円)に達している。調査企業ニールセン(Nielsen)の情報によると、イベント参加者の過半数が18歳から24歳の若者であり、このような巨大市場にファッションデザイナーや小売企業が押し寄せることに驚きはない。

ニッチからメインストリームに

米エージェンシーレッドスカウト(Redscout)の戦略部門を統括するアレックス・クライプ氏によると、コーチェラ・フェスティバルはもともと「ニッチさとカウンターカルチャー」を大事にするフェスティバルだったという。しかしながら現在では、H&Mのような大手小売企業に適合するよう、主流に近づいてしまっているのだ。

「コーチェラ・フェスティバルは音楽とファッションが衝突する震源地だ」と、H&Mの北米コミュニケーションディレクターであるメアリベス・シュミット氏は、米DIGIDAYに話した。「コーチェラ・フェスティバルのルーツは音楽かもしれないが、ファッションやライフスタイル体験を提供する一大イベントに生まれ変わった」。

コーチェラは取材に答えてはくれなかったが、ライフスタイル体験の一環として、H&Mは会場内に「生まれ変わる(Reborn)」と題したブースを設置。このブースでは、ソーシャルメディアの共有機能の可能性を感じられる、色彩に富んだ砂漠の風景のインタラクティブ動画を体験することができる。

H&Mはファッションを民主化させることに成功した。しかし、その成功はバルマン(Balmain)などのデザイナーとコラボレーションをしたからではない。コーチェラ・フェスティバルのようなエクスペリエンスを一般に提供したからだ。

「最新の流行や著名なデザイナーが手がけた商品などを、H&Mは自社商品のラインナップやパートナーシップ協定を通じて消費者に提供することに成功している」と、米アドエージェンシーのアーウィンペンランド(Erwin Penland)で最高商品企画責任者を務めるジェシカ・ナヴァス氏は語る。「多くの人々にとって、コーチェラ・フェスティバルのようなイベントに出掛けることは現実からの逃避を意味し、H&Mの試みを通じて、消費者はイベントが生み出す夢やファンタジーの世界を感じとることができる」。

ビジュアルマーケティングプラットフォーム企業のピクスリー(Pixlee)によると、2015年のコーチェラ・フェスでソーシャルメディアに投稿された写真の数は、50万枚に上ったという。H&M 、ヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)とフォーエバー21(Forever 21)の3社は、昨年のソーシャルメディアインフルエンサーのトップ5にランクインしていて、米娯楽雑誌ピープル(People)と米ミュージシャンであるニッキー・ミナージュ氏もランクインしている。

高級化するコラボレーション

2016年4月第2週、米高級百貨店チェーンニーマン・マーカス(Neiman Marcus)はH&Mの高額なラインナップに加え、アリスアンドオリビアとファッションショーでパートナーシップ協定を結ぶことを発表。消費者がランウェイで見た商品を、即座に購入可能にしたのだ。

このファッションショーには、アメリカファッション協議会と世界的なコンサル企業であるボストンコンサルティンググループが「ニューヨークファッションウィーク」の将来性について調査した結果が反映されている。調査によると、「季節に適した」商品を販売するように、業界全体が変わってきているのだ。

「消費者が実際に着たいと思うような商品を、ランウェイで見せたかった」と、ベンデット氏は話す。「そうするために、女子が音楽フェスティバルに着て行きたくなるような洋服を取り揃えたファッションショーを、コーチェラ・フェスティバルで開催することを思いついた」。

ニーマン・マーカスのファッションディレクターであるケン・ダウニング氏は、米DIGIDAYの取材に対し、「デジタルやソーシャル、従来のメディアによる過度の露出によって引き起こされるファッション疲れ」を回避するため、アリスアンドオリビアのコレクションは、業界の今後の道筋を照らす良い指標になると話している。

ロサンゼルスに拠点を構えるドレスデザイナー兼モデルのクリスティ・ドーン・ピーターセン氏も、著名なデザイナーたちに遅れをとらないよう、米ミュージシャンのZ・バーグ(Z Berg)とタッグを組み、ドレスのデザインを行っている。

「消費者と交流する方法や時間など、ゆっくりとではあるがファッション業界は変わることを強要されている。コーチェラ・フェスティバルでファッションショーを開催するなど、ファッションが日々の生活でどれほど重要になったかがわかる」と、クライプ氏は語った。

パブリッシャーを忘れてはならない

また、コーチェラ・フェスティバルはパブリッシャーにとっても大きな影響力がある。創業140年を超える世界初の女性ファッション誌『ハーパーズバザー(Harper’s Bazaar)』は2015年、「ショップバザー(ShopBAZAAR)」というブティックイベントを主催し、雑誌内に掲載されている商品を購入できるようにした。2016年はオンラインコンテンツ企業のポップシュガー(PopSugar)が同様のイベントを開催している。

「ポップシュガーカバナクラブ」と題し、アメリカファッション協議会のメンバーたちとのブランチや、「絶対に所持すべきもの(PopSugar Must Have Box)」という著名デザイナーが手がけたアクセサリーを無料で配布している。ソーシャルメディアの共有機能を最大限に利用するためにも、Facebook、Snapchat(スナップチャット)やインスタグラムに対応した、背景をカスタマイズできる写真撮影も行った。

「コーチェラ・フェスティバルは現代の世代にとってカルチャー現象となっていて、私たちが書く記事とも共鳴する」と、ポップシュガーの共同設立者であり編集長のリサ・シュガー氏は米DIGIDAYの取材に答えた。「年によって大きく変わるため、今年はどんな流行が飛び出すか見てみたい」と、彼女は話している。

コーチェラ・フェスティバルについて、「イベント自体がブランドだ」とナヴァス氏は指摘。また、今後も成長を続けると予想している

「現在、私たちの社会はとてもデジタル化されていて、どこにいてもすぐにアクセスすることができる」と、ナヴァス氏は話す。「小売企業にはすでに抱え込んでいるオーディエンスがいるため、調査や実験など、自由に行える」。

Bethany Biron(原文 / 訳:BIG ROMAN)
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