「問題はひとつの巨大なアービトラージシステムにある」:ブランドの元グローバルメディア責任者の告白

デジタルメディアでは人材不足問題が進行中だが、ブランドではこれがさらに先鋭化している。メディアの透明性に関する全米広告主協会(以下ANA)の報告や、プログラマティック取引におけるアービトラージの広がりのような大きなスキャンダルによって、ブランドが適切なメディアスキルに投資をしてこなかったという具合の悪い事実に光が当たっている。

業界の裏側を匿名で率直に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、ある多国籍ブランドの元グローバルメディア責任者に話を聞いた。そのキャリアのなかで数十億ドルの予算を管理し、またメディア側とエージェンシー側で過ごした経験のあるこの人物は、クライアントはメディア理解を面倒がったことで自ら墓穴を掘ったのだと考えている。

以下は抜粋であり、わかりやすくするために若干編集してある。

――ブランド側の最大の問題は?

メディア構造だ。クライアントがメディアオーナーと完全に切り離されている。エージェンシーが調達ビジネスへと変貌し、安さを優先するクライアントがそれに拍車を掛けている。収益を失ったエージェンシーが、デジタルで儲けるさまざまな方法を見つけ出し、これが隠れた費用につながった。そして、クライアント側はこれに対処するスキルがゼロなのだ。

――ゼロというのは、なぜ?

クライアント側にはメディア人材のキャリアパスがない。マーケティングの給与体系に縛りつけられているが、それはメディアの給料より安い。給料がよくないので、最高の人材は集まらない。スキルセットの獲得にお金を払っているのは上のほうだけだ。こうして、エージェンシーはますます賢く、鋭くなり、クライアントは取り残される。

――デジタルにおいて取り残されると?

何もかもだ。クライアントはエージェンシー頼みだ。エージェンシーはそのためにお金をもらっているのだから、エージェンシーの尻を少し叩きさえすればいいと思っている。だからエージェンシーは「わかった、叩かれるよ。だって実際にはぼったくるのだから」という態度に出る。クライアントは機能としてのメディアさえわかっていない。メディアとは、調達かマーケティングに追加されるものでしかないのだ。

――だから調達主導になっている。

そうだ。そして調達では、商売として成り立たせようと周辺部で小さな盗みをして、約束どおりのコストカットを実現させようとエージェンシーたちが争う。そこには本当のコミュニケーションプランニングが存在しない。「10ポンドを払ったと言うなら、10ポンド分をもたらしてくれたのか? そうでないなら、あなたの報酬はキャンセルだ」といった具合だ。コミュニケーションプランニングの書類はドアストッパー代わりに隅に置かれ、どこの何がいちばん安いかを中心に議論が進むピッチに私は出席したことがある。

――YouTubeボイコットでそれが表面化した。

あれは大問題だった。質と内容をコントロールしているとエージェンシーは主張するが、インプレッションを買う平均的な人たちはそんなことはやっていない。だとするとクライアントはどうなるのか。エージェンシーがフルタイムでメディアの対応に当たり、クライアントでメディアを担当するとされているのが数人という状態なら、望みはゼロだ。エージェンシーのマージンがそこまで大きいのだとすれば、エージェンシー側がこれを止める理由があるだろうか。まったくない。

――コンテンツ検証ソフトウェアの追加料金をクライアントが払いたがらないのだと主張するエージェンシーがいる。

それは、そこにどれだけのマージンを上乗せしたいのかによる。プログラマティックの最大の問題がアービトラージなのは変わらない。大手のエージェンシーは、購入の選択肢を3つか4つ提示する。完全な透明性を選べば、DSPからの購入価格とクライアントの支払い額がわかるが、何も変わらない。エージェンシーは、完全に透明な場合、25~30%を報酬とする。透明性をなくせば、報酬は14~15%になる。しかし、これはまったくのでたらめで、違いはない。透明性に追加料金を設定して、アービトラージで失われる分を埋めているだけだ。

――メディアオーナーとクライアントが切り離されているという話は?

多国籍エージェンシーから無料掲載や大口取引、追加割引を求める大きな圧力を受けている大手メディアオーナーたちを私は知っている。巨大なアービトラージのシステムがこうやってできるのだ。メディアオーナーたちは、クライアントがどのような働きをして、クライアントとエージェンシーの契約がどう機能しているのかを把握する必要がある。

――どうやって?

メディアオーナー側のプレゼンテーションは大半が稚拙だ。誰が糸を引いているのかわかっていない。マーケティングの構造も、誰が予算を握っているのかも知らない。また、マーケターを理解しておらず、メディアとして苦労している。私は、エージェンシーのピッチを娼婦のダンスと呼んでいる。ピッチを裏で指図する悪党はエージェンシーの仲介屋で、個々のエージェンシーはショーウィンドウの中の少女なのだ。クライアントたちがこの価格決定過程を促進しているものだから、エージェンシーは特定のメディアパートナーを利用することで固定価格をクライアントに保証する。そのようなエージェンシーがピッチに勝利し、これが固定化する。だから、大手の放送局が新しい番組の放送をスタートさせ、クライアントがそこに関与したがっている場合も、エージェンシーは、ボーナスが用意されているからといって、必ずしも頑張ってくれるとは限らない。クライアントは、本当に大人になり、スキルのあるメディア人材が必要なことを理解し、マーケティングの給与体系とは別にメディア人材にお金を出さないことには、苦しみが続くだろう。

――そんな風になるだろうか?

ならないだろう。いらだたしいのは、これについてクライアントが文句を言っている点だ。ANAのレポートの結果についてクライアントはショックを受けてあきれてみせているが、実際に何か進んでいるだろうか? 何も進んではいない。クールでピカピカの新しいもののすごさや、スターが契約している映画は知っている。しかし、水面下に目を向けていない。表面には優雅な白鳥がいるが、その下にあるのは汚れと腐敗なのだ。

――たとえばどんな?

米国だったら、たとえば、目に見えるインプレッションを買うだけだと話す人がいるだろう。非常に立派なことだ。しかし、ほかの126カ国はどうだろうか。収益基盤をアジアに移したとしたら、そこには何の保証もない。

――海外でバックマージンを作っている?

その通り、デジタルがアジアで爆発的に拡大しているからだ。米国では企みがばれたから、アジアで、中国でこのやり方を試してみようという状況だ。クライアントは本当に世間知らずだ。独立したメディア機能として上級のメディア人材の採用をスタートさせ、調達やマーケティングのおまけにしないで、その役割を尊重する必要がある。

――むりやり変えようとしてみたことはある?

ある。それは全部契約に盛り込まれている。広告取引の団体が契約についてたくさんの良い仕事をしているが、その契約を理解している人がいなければ、それはないことにされてしまうかもしれない。世界で最高の契約をできても、その管理のノウハウがある人がいなければ、エージェンシーにひっくり返されることもあり、意味がないのだ。

Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)