「IoT時代のマーケターは、直感的かつ本質的であれ」:日本コカ・コーラ 豊浦洋祐氏

デジタルマーケティングは、大きな転換期を迎えている。よりビジネス貢献が求められる一方で、データを軸にデジタルとフィジカルの融合が進んでいるのだ。

日本コカ・コーラ株式会社は2016年4月、日本向けの公式スマートフォンアプリ「Coke ON(コーク オン)」をローンチして、対応自販機と連携させた。そこで製品を購入すると、アプリ内にスタンプが付与され、その数に応じてドリンクチケットが発行されるなど、さまざまなユーザーベネフィットを提供している。また、対応自販機から得られた購買履歴データをよりデータドリブンなマーケティングに活用するために取り組んでいるという。

デジタルとフィジカルの融合、すなわちIoT(インターネットオブシングス)の取り組みを同社マーケティング本部 IMC iマーケティング 統括部長の豊浦洋祐氏は「デジタルマーケティング3.0」と定義する。そんな彼に、2017年のマーケターは、デジタルマーケティングをどのように捉えていくべきかを聞いた。以下、一問一答にて展開する。

――「Coke ON」、山田孝之さんのCMも目立っていますね。

2016年4月の「Coke ON」ローンチ時に、対応自販機の設置は、年末までに14万台を目標にしていました。それに関しては、目標に向けて順調に推移しています。一方、アプリのDL数についても、年末までに200万DLという目標に対して、すでに約230万DLを達成しています(取材日時点)。

この12月から、テレビCMをはじめとするIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)を本格化させ、半月くらいで100万DLくらい伸びました。

山田孝之さんのCMで、さらなる普及を図るスマホアプリ「Coke ON」

――たしかに、急に「Coke ON」の存在感が出てきました。

それは戦略的にあえてそうしている側面があります。「Coke ON」のサービスは、アプリと対応自販機がセットになって、はじめて使えるものです。もちろん、機能的にはSpotifyと連携した「Coke ONミュージック」などの独自機能もありますが、コアサービスを提供するには、対応自販機の設置状況に応じたプロモーションを行っていく必要があるのです。

当然ながら、ローンチ時の昨春の段階では、すぐにドライブをかけられる状況でなく、設置状況のメドが立ってきた12月頃からアクセルを踏んだというわけです。

――売上貢献という点では、どんな成果がありましたか?

「Coke ON」対応自販機の売上は、非対応に比べて大きく伸びています。裏を返せば、自販機チャネルのセールスが活気づいていることがデータで裏付けられたからこそ、200万DLの目標をめざしてアクセルを踏もうという経営判断が下せたといえます。

全国的な対応自販機の設置推進は大きなプロジェクトで、全国のボトラー社とともに取り組む、コカ・コーラシステム全体を含めた一大プロジェクトです。対応自販機を増やしていく、投資、人的リソースの確保などは、ボトラー社の協力がないとできないことでした。

――自販機のリアルタイムデータはどんな新しい価値を生んでいますか?

購買データを、ファーストパーティデータとしてリアルタイムに抽出・分析できるのは大きな強みです。得られた知見で面白いものは、時間帯によって、購入される商材が異なることです。朝はコーヒーやミネラルウォーターなどが多く、昼はランチと一緒に飲むお茶が、午後は、炭酸を含め、息抜きのための甘みのある飲料の売上が上がります。

また、同じコカ・コーラでも年代別によく購入される時間帯は異なります。このように、時間帯や年代で売上が可視化されることにより、購買機会がさらに浮き彫りになってきます。それを今後のマーケティング活動にフィードバックしていきたいです。

「『Coke ON』アプリをエンタープライズアプリに育てたい」という豊浦氏

「『Coke ON』アプリをエンタープライズアプリに育てたい」という豊浦氏

――デジタルでパーソナルなデータが可視化されるのは大きいですね。

いま、アプリ内の行動履歴データも蓄積しているところです。こうしたファーストパーティデータをサードパーティデータと、DMPなどを活用して連携させることで、たとえば、ペイドメディアに「Coke ON」の行動履歴データを活用することも可能です。

アプリをダンロードしたユーザーのなかには、DLしただけで、自販機でスタンプを押していないユーザーもいます。アプリ内のプッシュ通知でお知らせすることもできますが、プッシュ通知をオフにするユーザーも一定数います。そこで、アクティブユーザーの掘り起こしのために、ペイドメディアを使ってターゲティング広告を当てていくという展開も考えられます。

――それらをPOSデータと連携させる予定はあるのでしょうか?

もちろんそれは、「Coke ON」アプリを自販機アプリから、エンタープライズアプリに育てたいという将来構想のなかに含まれる要素です。

「Coke ON」を、自販機以外のチャネルでも使えるユニバーサルなアプリにしたいという思いはあります。そこに留まっていると、破壊的なスケールにはつながらないからです。マクドナルドアプリのような数千万DLの世界に到達するには、いまとは違う発想が必要でしょう。

一方で、自販機チャネルは収益性の観点から重要なチャネルです。つまり、自販機で使えるというアプリの価値、ポジショニングを広げていくことによって、色んなところで使えるがゆえのネガティブな面というのも考えられます。そのあたりは、社内で十分に議論を重ねながら、これから先のロードマップを見極めていきたいです。

――コカ・コーラは、リアルタイムマーケティングも先進的です。

2013年に、ソーシャルエンゲージメントセンターを立ち上げ、さまざまなリアルタイムマーケティングを行ってきました。しかし、いままでのリアルタイムマーケティングは、コンテンツをリアルタイムに届けることしかできませんでした。「Coke ON」によって、コンテンツだけでなく、体験を付加することができるようになりました。

代表的な例がふたつあります。ひとつは、リオ2016オリンピックのときに実施したプロモーションで、日本人選手が金メダルを取るたびに、「Coke ON」へドリンクチケットを配布しました。これにより、「コカ・コーラを飲みながら、さらに金メダルのモーメントを楽しめる」という体験を提供したのです。

リオ五輪の最初の1週間で約4万7000回のメンションを獲得した

このゴールドメダルサンプリングの施策は、DIGIDAYの翻訳記事「リオ五輪をめぐる、ブランドの「勝者」と「敗者」はどこか?」でも紹介されました。非常に印象に残っています。

――ありがとうございます。ちなみにもうひとつは?

もうひとつは、アクエリアスで実施した気温とエリア連動型のサンプリングです。これは、猛暑日を記録したエリアで、アクエリアスのドリンクチケットを「Coke ON」ユーザーに配布したものです。これまでもアクエリアスは熱中症予防啓発のコミュニケーションを行ってきましたが、そこにアクエリアスを実際に飲むという体験を提供できるようになったのです。

このサンプリングの引換率は84%を記録しました。つまり、自販機に行ってアクエリアスを受け取った人が、ドリンクチケットを受け取った人の84%もいたということです。今年は、テスト施策という位置づけで、展開エリアもサンプリング本数も限られていました。ですが、来年以降はもっとスケールアップさせていきます。

さらに運用面も、もっとデータドリブンで自動化できる余地があります。というのも、今年は、各エリアの最高気温を担当者が目視確認して、該当エリアに広告配信する運用でした。これをサードパーティの気象データを用い、35度を超えたエリアに自動的に広告を配信することが行えるようになります。

――リアルタイムマーケティングに大事なことは何でしょう?

ソーシャルエンゲージメントセンターの運用は、これまではどちらかというとソーシャルリスニングを重視し、得られた知見をその日のコンテンツ開発に活かすというものでした。傾聴によるエンゲージメント強化は、One To Oneの関係構築にはメリットがありますが、エンゲージできる人が限られるという課題があります。

それに対して、いま、ソーシャルマーケティングで重要視しているのは、One To Nの関係構築。そのためには、拡散性が高く、質の高いコンテンツを作り、ソーシャル上での二次拡散を喚起していくことを考えています。

結局のところ、生活者一人ひとりがブランドアンバサダーになって、ブランドを語ってくれる。これがもっともリーチスケールの最大化につながるというのが、過去3年のトライアンドエラーで私たちが導いた結論です。

2016年末に販売されたリボンボトルは、多数の関連投稿と拡散を生んだ

――それを、いかにビジネス貢献させるかがポイントですね。

拡散するような、質の高いネタ作りに力を入れ、かつ、生活者を巻き込んだ仕掛け作りを両輪で行う。この象徴的な事例が、2015年に発売した「い・ろ・は・す もも」の発売前に、次は何味が出るか予想するクイズをTwitter上で行ったティザーキャンペーンでした。

僕たちの商品はコモディティなので、いかにリーチを作るかが大事です。生活者自身にメディアになってもらい、コンテンツプロデューサーになってもらう必要があります。

それがツールなのか、キャンペーンなのかはわかりません。ですが、いずれにしても、ソーシャルに投稿する動機づけ、「リーズン・トゥ・ポスト(Reason to Post)」の部分を設計していきたいです。

――2017年、デジタルマーケターが注力すべきことは?

私は、これからのマーケターとして、より意識していかないといけないことがふたつあると思っています。「直感的であること」と「本質的であること」。このふたつの両立を意識していきたいですね。

直感的というのは、消費者視点で直感的にいいサービスとわかることです。そして、本質的とは、マーケター視点での「問い」です。デジタルマーケティングは、ただ新しい施策に取り組むだけではだめで、本質的な経営課題に直結しているのか、ビジネス戦略と直結しているか、消費者の本質的な課題解決になっているのか、そこが問われてくるのです。

ひとりのマーケターであると同時に、ひとりの生活者でもある。このふたつの視点を念頭に置いて、2017年以降も取り組んでいきたいです。

 

_23A7166ok▼豊浦洋祐
日本コカ・コーラ株式会社
マーケティング本部 IMC iマーケティング 統括部長

 

2001年にP&G Japanに入社。デジタルマーケティングを統括。2009年にNIKE Japan入社。デジタルマーケティングの責任者を経て、ランニングカテゴリーの広告クリエイティブ、メディア、デジタル全般の消費者コミュニケーション開発を担当。2013年に日本コカ・コーラ入社。iMarketing統括部長として、オウンドメディア、ソーシャルメディアを含むデジタルマーケティング全般を統括。

 

Written by 阿部 欽一
Interview by 長田真、阿部 欽一
Photo by 合田和弘