「ポストクッキー」をめぐるマーケターの現状:要点まとめ

さまざまなデバイスやプラットフォームをまたいで利用できる拡張性を備えた、単一のユーザーIDを保管する仕組みについての議論が続いている。このような仕組みは、ピープルベースドマーケティング、オーディエンスプランニング、アイデンティティ管理、ID管理などいろいろな名前で呼ばれているが、呼び名はともあれ、拡張性の高い消費者IDを保管しようと、各社がしのぎを削っているのが現状だ。

このようなIDに対するニーズは根強い。モバイルの普及が世界中で進むなか、クッキーベースのターゲティングがますます時代遅れになっているからだ。さらに、拡張性の高い永続的なIDの保管をめぐるGoogleやFacebookとの競争が、とくにアドテク業界とパブリッシング業界にとって、差し迫った課題となっている。しかも、欧州の「一般データ保護規則(以下、GDPR)」が状況をさらに複雑にしている。

「ファーストパーティーによるID管理は進化を続けている。来年になれば、ユーザーの承諾を得る必要性が大きく高まり、旧来のやり方でユーザーデータを取得、保管することへの風当たりが強まるからだ」と、アクセンチュア(Accenture)のデジタルマーケティング責任者、アミール・マリク氏は述べている。

そこで、拡張性の高い消費者IDの保管をめぐる状況をまとめてみた。

強力なプレーヤー

  • この1年間、エージェンシー持ち株会社は、拡張性の高い消費者IDを保管する仕組み作りに大きく投資している。2016年には、広告世界最大手のWPPが「[m]プラットフォーム([m]Platform)」をリリース。同社の狙いは、GoogleやFacebookのIDと同じように、さまざまなデバイスをまたいで利用できる「mID」を構築することにある。
  • 電通イージス(Dentsu Aegis)傘下のマークル(Merkle)は「M1」プラットフォームをリリースし、電通イージスネットワークのメディアエージェンシーに展開した。このプラットフォームには、名前やメールアドレスのような個人を識別できる情報に基づいた、米国消費者およそ2億8000万人分のIDが保管されている。
  • オムニコム(Omnicom)傘下のデータ分析会社アナレクト(Annalect)は、ハーツ・アンド・サイエンス(Hearts and Science)、OMD、PHDなど、オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)のエージェンシーのオーディエンスベースドプランニングをサポートしている。
  • このような仕組みは、絵に描いた餅のように思われるかもしれない。だが、2018年になれば、アドテクベンダー各社が競争をいったん中断し、拡張性の高い単一IDプラットフォームの構築という名のもとに連携する可能性がある。そのような連携から生まれたコンソーシアムのひとつが、アドテクベンダーとパブリッシャーが結成した非営利組織のデジトラスト(DigiTrust)だ。この組織は、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)、サプライサイドプラットフォーム(SSP)、データ管理プラットフォーム(DMP)、エクスチェンジ向けに単一のIDを構築する目的で設立された。
  • アドテク企業のアップネクサス(AppNexus)は、独自のIDコンソーシアムを結成し、いくつかのアドテクベンダーと連携している。
  • パブリッシャーでさえ、単一の顧客IDの構築を試みている。ただし、その内容も理由もエージェンシーとは異なる。ドイツでは、メディアコングロマリットのアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)が、通信会社のドイツテレコム(Deutsche Telekom)や自動車メーカーのダイムラー(Daimler)などのブランドと提携し、GDPRに準拠した単一の顧客ログインプラットフォームを構築した。

この仕組みが重要である理由

  • 世界中でモバイルの普及が進んでいるが、クッキーではモバイルの利用を効率的に追跡できない。
  • 欧州連合(EU)で立法手続き中の「eプライバシー規則(ePrivacy regulation)」は、クッキーターゲティング(とくにサードパーティークッキー)に依存するビジネスの根幹部分に望まない影響をもたらす可能性がある。
  • ウォールド・ガーデン(塀に囲まれた庭)に対抗して企業が生き残るには、拡張性の高い単一IDを保管する方法を考え出す必要がある。
  • GDPRが施行されれば、混乱が起こるだろう。だが、単一IDでログインできる仕組みを実現すれば、ユーザーの承諾を得やすくなる可能性がある。
  • アドテク各社が連携する理由のひとつは、広告データの呼び出しなど、負荷のかかる処理がパブリッシャーのページ上で行われる回数を減らし、ページの読み込み速度の低下を抑えることにある。理論的には、これによってユーザー体験が向上するはずだ。

立ちはだかる問題

GDPRはデジタルメディアと広告の発展を大きく停滞させている。GDPRがどのように施行されるのかが不透明なため、企業は単一IDの保管に向けた取り組みを中断せざるを得ないのだ。

「業界はいま、待ちの状態にある」と、フリーランスのアドテクコンサルタントであるポール・ガビンス氏はいう。「プログラマティックエコシステムのつながりあったパイプのなかで、データの収集や受け渡しについてユーザーから同意を得ることを考えると、GDPRやその適用ルールの全容が明らかになるまで、製品の調査や開発、それにIDの構築に全力で取り組むことはできない」。

ただし、データの収集や受け渡しの同意を得る方法について、英国のプライバシー監視機関である情報コミッショナー局(Information Commissioner’s Office)が最終的な詳細を明らかにすれば、拡張性の高いIDの保管に向けた取り組みが猛スピードではじまるはずだとガビンス氏は指摘する。「すべてのベンダーが、拡張性の高いIDを保有しようと競いはじめるだろう。プランニングやバイイングの際にますます多くのIDが考慮されるようになるため、IDをばらばらに構築することは業界にとって得策ではない」。

Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)