新年予測:2017年、米ブランドは政治スタンスを表明しなくなる

ソーシャルメディア上でのヘイトスピーチはこれまで特に警戒されることは無かった。誰しも存在していることは分かりながらも、インターネットの闇として無視していたのだ。

トランプ次期大統領の側近スティーブ・バノン氏が会長を務める、「ブライトバート(Breitbart)」のような「オルタナ右翼」サイトの存在も気にかけることは無かった。しかし、今回の大統領選でブランドたちが不気味にも気づいたのは、まさに「ブレイトバート」そのものがホワイトハウス内に存在することになったということだ。

これはブランドにとっても厄介な事態を生み出している。政治的なトピックには触れないようにしているブランドでも、意図せずに移民問題など政治的な話題に引きずり込まれることがあるからだ。2017年はブランドが政治的なスタンスに対して、どう表明していくか注目される。

ボイコットの応酬

エージェンシー・アイクロッシング(iCrossing)の最高戦略責任者であるアン・ボローニャ氏は次のように言う。「政治とビジネスはいつもトリッキーな交わりを抱えてきた。新しい問題ではないが、いま、よりスケールが大きな問題となっている。今回の大統領選挙はソーシャル上でパンドラの箱を開けた。2017年はこれまで以上にソーシャル上で多種多様な議論が行われるだろう」。

大統領選挙は多くのブランドにとっても多大なプレッシャーであった。たとえばケロッグはヘイトスピーチを理由に「ブレイトバート」からの広告撤退を公に発表したが、それを受けて「ブレイトバート」は4500万人の読者に向けて、ケロッグ商品のボイコットを呼びかけた。

ニューバランスの広報バイス・プレジデントは、ドナルド・トランプの貿易に関するスタンスに賛同を表明したが、それは多くの顧客からのボイコットを招く結果となった。食料配達サービスのグラブハブ(Grubhub)のCEOマット・マローニー氏は、社内メールでドナルド・トランプ支持者は会社を辞めることを薦め、多くのトランプ支持者からの非難を受けた。

ブランド・デジタル・ストラテジストであるシャノン・コルター氏は#GrabYourWallet(#財布を握れ)というハッシュタグを使って、人々にボイコットを呼びかけている。ボイコットの対象はトランプ一家のビジネスを扱う企業たちだ。そのなかにはAmazon、ベッドバス&ビヨンド、メイシーズと、大リテール企業たちが名を連ねている。

彼女(ドナルド・トランプの娘イヴァンカ)の商品やドナルドの商品を販売する企業をボイコットすることはできる。#GrabYourWallet

躊躇しない消費者たち

消費者からのバックラッシュというリスクが高まり、ブランドはパブリシスト(プロの広報担当)のような視点がますます必要になってきている、とボローニャ氏は語る。もちろん、ブランドのなかにはリスクを率先して取り、2017年も政治的なスタンスを明確にしていくものも出てくるだろう。しかし、リスクを避ける企業文化を持つブランドの場合、ただこういった政治的な問題を避ける態度にならざるを得ない。

エージェンシーのヒュージ(Huge)におけるソーシャルコミュニケーション責任者ナディーナ・ガグリエルメッティ氏は、「自分の価値観と合わないブランドをソーシャル上で批判することを消費者たちは躊躇しない」と、指摘する。

しかし同時に、ブランドのDNAのなかに政治的なスタンスがしっかりと根づいているのであれば主張を続けるべきだとガグリエルメッティ氏は付け加える。アイスクリームブランドのベン&ジェリーはその好例である。彼らのプログレッシブな政治スタンスは、長年に渡って主張されてきており、いまとなっては企業文化の隅々に根付いている。

「沈黙」も良いわけではない

「沈黙は金なり」も、この問題に関しては常に真ではない。スタンスを表明しないことがリスクとなる場合もある。2005年に録音されたといわれるドナルド・トランプとTVタレントのビリー・ブッシュの会話が流出した事件は記憶に新しい。人気テレビドラマ女優アリアン・ザッカーがいる撮影セットでの会話で、トランプはビリーに対してこう言っている。

「(アリアン)にキスしてしまうかもしれないからチックタック(口臭予防キャンディー)を食べておいた方が良さそうだな。ほら、私は美人には自動的に吸い寄せられるから、もうすぐにキスをしてしまうんだ。磁石みたいなもんで。すぐキス。待ったりなんかしない」。

チックタックはまったく望んでもいない形で全国的な注目を浴びることになった。こうなっては、トランプの下品なコメントに対する何らかの声明を表明しないと、彼の発言を許容しているように見えてしまっただろうと、ガグリエルメッティ氏は説明する。

チックタックはすべての女性をリスペクトしています。最近の(問題となっている)発言と行動はまったくもって不適切で受け入れられないものだと考えます。

「誰も確実なことは分からない」

エージェンシー・ディープフォーカス(Deep Focus)のCEOであるイアン・シェイファー氏は「いまの時代、(自分と異なる意見に対する)不寛容が膨張してしまっている。だからといって『ブランドは意見をもつ必要がある』という考え方が根絶されるべきだとは思わない。また恐れのあまりブランドが(主張することを)止めるのは見たくない」という。

ブランド・リサーチのコンサルタント企業ブランド・キーズ(Brand Keys)のCEOでありファウンダーであるロバート・パシコフ氏の考えは、こうだ。ブランドの扱う商品カテゴリーや関連する価値観に関しては、ブランドは主体的に会話に参加しないといけない。しかし、イデオロギー的な問題は常に避けるべきだと。

パシコフ氏は言う。「政治イデオロギーや、それどころか社会問題なんて誰が気にするんだ。99.9%はそのブランドや分野自体と何の関係も無いんだ。イデオロギーをこうやって混ぜたブランドは、トランプがはじめてだから、マーケットがそれにどう反応するかは誰も確実なことは分かっていない」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)