「ブランデッドショートは来るべきムーブメントだった」:SSFF & ASIA代表・別所哲也氏

街のカフェで、通勤電車で、スマートフォンを横に持って動画コンテンツを楽しむ人も珍しくなくなった。日本でまさに動画マーケティングが軌道に乗った昨年。俳優の別所哲也氏が代表を務める国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」(SSFF & ASIA)では満を持して、企業がブランディングを目的に制作したブランデッドムービーを評する「ブランデッドショート(BRANDED SHORTS)」部門を立ち上げた。

昨年は数あるブランデッドムービーのなかから、28作品をSSFF & ASIAが選出し、アイデア・ストーリーテリング・シネマチック・エモーショナルの4つの観点から審査。インターナショナルカテゴリーではジョニーウォーカー ブルーラベル(Johnnie Walker Blue Label)の「紳士の賭け事Ⅱ」(英/2015)、ナショナルカテゴリーでは早稲田アカデミーの「へんな生き物」(2014)が、それぞれ最優秀賞を受賞した。

今年から、選考作品は公募制になった。DIGIDAY[日本版]では、まさに審査が進行している4月末、別所哲也氏に「ブランデッドショート」部門についてインタビュー。同氏は、音楽も映画も、クリエイティブとビジネスとテクノロジーが掛け合わさって発展してきたとひも解く。「芸術と商業のあいだでのせめぎあいはあるかもしれない。だが、それらは相反するものではなく、表裏一体だ」と、ブランデッドムービーがショートフィルム全体を牽引することへの期待を語る。以下、一問一答形式で、その内容を紹介する。

——まず、昨年「ブランデッドショート」部門を立ち上げた背景は?

もともと、国際短編映画祭という形でSSFFを1999年に設立しました。その後、急速に人々の生活にインターネットが浸透して、ここ数年ではネット上にコマーシャルでもなく、かといって映画でもない、まさにハイブリッドな存在といえるショートフィルムが生まれています。

もちろんネット上で、写真の共有、音声・音楽配信、次いで動画配信という必然の流れがあったことは大きいですが、それ以上に僕らがこの「ブランデッドショート」に注目したのは、映像が本来もっている「情報価値を運ぶ」という使命を存分に発揮していたからです。エンターテインメント性と物語性を兼ね備え、かつ企業のメッセージという情報価値を伝えています。

実際に、映像作家である映画監督も、活動の垣根を越えて企業と接点をもち、腕を振るい始めています。その潮流に気付いたとき、これは僕らがスポットを当てるべき重要な領域だし、企業とクリエイターをつないでもっと盛り上げていければと思ったんです。企業から、動画マーケティングへの期待をすごく多く聞いていたことも、追い風でした。

——実際に、初回を実施してみて、いかがでしたか?

やはり、来るべきムーブメントがやって来たという感じでしたね。同時に企業や広告会社の皆さんが抱えている、この時代に情報やメッセージをどう伝え、共感を生み、ファンをつくるかという課題も実感しました。

こうした課題とショートフィルムとの親和性は高いと改めて感じましたが、一方でまだ日本では模索の段階で、ブランデッドムービーもバイラルCMもないまぜの戦国時代です。これから、ルールの整備も含めて、市場が形づくられていくのだろうと思っています。

——ルールとは、どんなものになりそうでしょう?

たとえば映画は、エジソンが発明してからビジネスになるまで、約100年をかけて醸成しています。そのあいだには配給のあり方、ビデオなど販売のあり方、あるいはテレビでの放映や編成フォーマットなどで試行錯誤があった。動画広告でも、今後同じことが起こるでしょう。

ただ、映画はゼロベースで仕組みが整備されていきましたが、この20世紀型のモデルを引きずって考えがちなところは、少し難しいかもしれません。「動画広告もテレビCMと同じでいいだろう」という意見や、15秒30秒という制限に縛られてしまうことも、そうですね。

僕は、数十秒で商品サービスのスペックをマスに提供する時代と、ネット上で共感を得る、あるいは見た人が恣意的に良し悪しを分かち合ってしまう時代とでは、機能するアプローチは明らかに異なると思います。そんなことも、「ブランデッドショート」部門では議論したいと思っています。

「『ブランデッドショート』は来るべきムーブメントだった」

「企業とクリエイターをもっとつないでいきたい」

 

——反商業主義のクリエイターもいそうです。その意識は変化してますか?

変わっていると思います。というより、もともと商業と芸術は、相反するものではないと捉えています。

かつて音楽の都・ウィーンで音楽が華開いたとき、そこには奏者だけでなく、音楽をビジネスにしようと彼らのパトロンになった人がいて、同時に技術によって生まれた新しい楽器がありました。これを吹いて面白い音楽をつくってみないかと、奏者を後押しする存在があったから、音楽は発展していった。映画も同じで、その進化の過程でフィルムやレンズという新しい産業も興りました。

1947年に米で公開され、クリスマス映画の定番になっている『34丁目の奇跡』は百貨店のメイシーズを舞台にしていますが、ブランデッドムービーの先駆けですね。芸術と商業は水と油ではなく、実は表裏一体なんです。

——では、若いつくり手は、その垣根自体を感じていない?

映画から入った人は、芸術としてのトレーニングを受けているので、「シネマチック」であるかという観点は持っていると思います。一方で、ブランデッドムービーにも映画的な要素がある。企業の意図は確かに商業的ですが、それを込めて物語に昇華させるとき、それは芸術にもなります。

芸術と商業とのあいだで、せめぎあいはあるかもしれません。ただ、どこかで線引きしたり、優劣を争うような時代はもう終わりを告げたと思います。いっとき広告が攻勢をかけ、またフラットになった。

結局、人間の本質は変わっていません。よく、人間は社会的動物だといわれますが、僕は「人間は物語る動物」だと思っています。「ねえ、これ知ってる?」とか「今日こんなことあって」という些細な情報や気持ちを古来から共有し続けてきたのが、人間という動物であり、集団なんじゃないかと。

「ブランデッドショート」がまさに盛り上がる兆しを見せているのは、物語を伝えるのを得意とする映像という形が、人々がブランドにもスペックではなく共感を求めるようになった流れに、ちょうど合致したのだと思います。

——もはやスペック訴求でモノは売れないと、皆が痛感しています。

そうですよね。もう、スペック情報は生活者が自分で入手できますし。そこで取って代わるのが、共感なのだと思います。

人間はいつの時代も幸せを求めていますが、僕はそれは「ベターライフ」と「アナザーライフ」のふたつに具現化されると思います。現代でそれを提案するには、ブランドの歴史に立脚した画一的なメッセージをマスで伝える、というブランディングだけではたぶん足りない。

もうひとつのブランディング手法である、届ける相手が受け取りたい形でメッセージをカスタマイズして「あの人の生活にはあの商品がある、だからほしい」という共感を生む必要があるのでしょう。それを探り、企業と生活者の接する面を広げる役割を、「ブランデッドショート」は担っていると思います。

——今回のテーマは「cinemaTIC cinemaTEC!」ですね。

ここまで少し、概念的な話になりました。ですが、そうはいっても企業としては観てもらって、ビジネス的な成果が上がらないと話にならない。そこでは、たとえば離脱率をはじめKPIの設定、共感指数の測定方法、視聴ユーザーとビッグデータ上でどうつながるか……といった議論も必要です。そうしたテクノロジーとテクニックに対しても、のろしを上げて、皆さんと科学し考える場にしたいという思いを込めて、「cinemaTIC cinemaTEC!(シネマチック・シネマテック)」としました。

ご指摘のように、これは「ブランデッドショート」部門に限らず、全体を通して謳っています。特に「どう拡散するか」にまつわるテックは、いまやあらゆる作品に関係しますし、先ほどお話ししたように芸術と商業と技術は切っても切れないので、それぞれで得た知見を相互に活かせればと思っています。

「テクノロジーとテクニックについても語り合う場にしたい」

「テクノロジーとテクニックについても語り合う場にしたい」

 

——テックというと、AIがブームになりつつありますね。

究極はAI監督じゃないですか? それはウェルカムです。AIによる脚本、ボーカロイドのようなデジタルキャスト、さらにストーリーも観る人にカスタマイズされるかもしれない。いま、ネットは感情を科学していますよね。好き嫌いや、微妙な気持ちまで読めれば、本当に人間に肉薄しそうです。

ただし僕は人間として、AIに負けたくはない(笑)。人間の理屈だけでは動かない、予測不可能な瞬間を模索していきたいです。

——では最後に、今後の展望をうかがえますか?

企業や広告会社の皆さんと議論を重ね、メッセージがよりよく伝わる作品と知見を見出すのは大前提として、さらにふたつ。ひとつは、日本特有の物語づくりの力を世界に発信していきます。ハリウッドではもう10年にわたり、落語や浄瑠璃の構造やキャラクタライゼーションを研究しているんです。運営側としても、日本に目を向けつつ世界に打ち出す、求心と遠心の両方を大事にしていきたい。

もうひとつは、このブランデッドショートという舞台を、クリエイターと技術者のキャリア形成の場にもしていきます。監督はじめ脚本家や俳優しかり、ヘアメイクやスタイリストもしかり、カメラマンや編集、ドローンパイロットまで、企業や地方自治体やNPOなどと重なる場が新たな活躍のフィールドになると思ってもらえるようにしたいですね。

その点でも、僕ら運営側はコンサルや制作にもどんどん入って、「ブランデッドショート」領域を広げていきます。すごいスピードで変わるテックのシーンも包み込む、変幻自在な団体でありたいですし、そういうところを面白がって皆が集まってきてくれたらと思います。

僕らはもともとランキングプラットフォームとして、時代の技術や価値観を映しています。企業が加わる「ブランデッドショート」は、その最たるものになるはずです。ぜひ、注目いただけたらうれしいです。

 

【BRANDED SHORTS上映】
上映期間: 6月5日(月)~6月9日(金)
場所:アンダーズ東京 Andaz Studio(東京都港区虎ノ門1-23-4虎ノ門ヒルズ 51F)
料金:無料

【BRANDED SHORTSイベント】
日時:2017年6月7日(水)14:30~17:45 ※途中休憩有
(※①グローバルカンファレンス、②ネスレ日本新作ショートフィルム完成発表会、③「Branded Shorts of the Year」授賞式)
場所:act*square恵比寿(東京都渋谷区恵比寿4-19-19)
料金:無料
※上映プログラム・イベントへの参加予約は公式ページにて

 

digiday2017_0937_fin▼別所哲也
ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 代表

 

1965年静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。90年、日米合作映画『クライシス2050』でハリウッドデビュー。近年では、「レ・ミゼラブル」「ナイン ザ・ミ ュージカル」、「ユーリンタウン」などの舞台に主演。 第1回岩谷時子賞奨励賞授賞。99年より、日本発の国際短篇映画祭「ショートショート フィルムフェス ティバル」を主宰し、文化庁長官表彰を受賞。観光庁「VISIT JAPAN 大使」、内閣官房知的財産戦略 本部コンテンツ強化専門調査会委員、カタールフレンド基金親善大使、横浜市専門委員、映画倫理委員会委員に就任。

 

※DIGIDAY[日本版]は、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア Branded Shorts」のメディアパートナーとなっています。

 

Text by 高島知子
Photo by 渡部幸和