リップバーム「EOS」が経験した、SNSの天国と地獄:ブランド危機の解剖学

卵型のリップバーム「EOS(イオス)」は、ソーシャルメディアマーケティングで爆発的な人気を獲得したが、すでにピークを過ぎた。それどころか、逆にいま、ソーシャルメディア上での批判に苦しめられている。

EOSのピークは、2013年から2014年にかけて訪れた。マイリー・サイラスのミュージック・ビデオからキム・カーダシアンのツイートまで、あらゆる所で卵型のツルッとした目新しいリップバームが露出され、ミレニアル世代の心を鷲掴みにしたようだった。

しかし、2016年はじめ、EOSが水ぶくれやかぶれの原因となったと主張する訴訟がいくつか提起され、ブランドイメージが悪化。セレブリティたちによって築かれたソーシャルメディアにおける称賛の声もあっという間に消え失せた。

「かつて、ビューティー業界は、まさしくEOSのようなイノベーションを待っていた。そんな、完璧なタイミングで、新星のように登場したのだ。プロダクトという意味でも、マーケティングという意味でもだ。しかし、いまではEOSのブランド価値は、かなり薄れてしまっている」と、ブランドコミュニケーションエージェンシーであるノースシックスエージェンシー(North 6th Agency)のCEO、マット・リゼッタ氏は言う。

スムーズに思えたEOSブランドの成功が、どうして乾燥した唇のようにひび割れることになったのか見ていきたい。多くの点でEOSは、自分自身の成功が、皮肉にも失敗の原因にもなっていることが分かる。

ソーシャルメディアからの逆襲

EOSの利用者であったレイチェル・クローニン氏が、同製品を相手取り、集団訴訟を起こしたことで、EOSは話題の中心となった。同氏の主張は、EOSを使用したことで、彼女の唇が「激しいかぶれ、乾燥、出血、水ぶくれ、ひび割れ、脱色」を引き起こしたというものだった。被害を訴えたのは彼女1人ではない。この訴訟をはじめとして、その後8件も続くことになる。

EOSにはネガティブな注目が集まるようになったが、人々が同様の被害をシェアすることで、ソーシャルメディア上でこの話題は膨れ上がった。Webマーケティング企業であるレーザーフィッシュ(Razorfish)のコマースコンテンツ業務のシニアバイスプレジデントであるジェイソン・ゴールドバーグ氏は「訴訟によって起きた炎上騒動と、被害を捉えた写真がたくさん登場したことがブランドに甚大なダメージを与えた」と語る。

ブランドの対応は早かった。できる限り多くの顧客を安心させるために個別に対応を行っていったが、事態を収拾することはできなかった。グーグル・トレンド・ダッシュボードによると、EOSに集まる関心は現在、2012年11月以降で最低を記録している。

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「EOSに巨大なオーディエンス到達力を与えたのがソーシャルメディアだったことを考えると、最終的にEOSの敵として立ちはだかったのもソーシャルメディアだったのは皮肉だ」と、ゴールドバーグ氏は言う。

しかし、EOS側は集団訴訟の悪影響について、それほどではないと捉えている。「高いスタンダードを一貫して守ってきたこと、それが2009年以降継続しているビジネス成長の中心的な要因となっている。(訴訟によって)測れるほど大きな影響が出ているとは確認していない」と、EOSの米国マーケティングのバイスプレジデントであるジョアン・カーター氏は言った。

インフルエンサーへの過度の依存

EOSはインフルエンサーマーケティングのパイオニアだった。マイリー・サイラスやキム・カーダシアンといった超有名人たちとパートナーシップを結んで、マーケティングに取り組んでいた。マイリー・サイラスは自身の「ウィ・キャント・ストップ(We Can’t Stop)」という楽曲のミュージックビデオで、EOSリップバームを登場させ、キム・カーダシアンは妊娠中にEOSを使うと良い、というツイートをした。

ブランドとして、ソーシャルメディアにおける存在感も大きい。Facebookページでは600万のいいね!、インスタグラムでは170万人のフォロワーを獲得している。

キム・カーダシアン
妊娠中の唇の荒れ…助けて@EOS!笑

EOSのカーター氏は、「私たちのプロダクトを使う女性たちは、コミュニティのメンバーであるように感じてきた。(コミュニティなのだから)当然ソーシャルメディアに集まる。EOSは世界中の女性たちに、コミュニティへの参加を求めているブランドだ。プロダクトを使用してもらうことで、人々はすぐに結びつくことができる。だから、ソーシャルな場面でプロダクトをシェアして欲しい。オンラインでもオフラインでも」と語った。

この考えは、ローンチ直後からの成功を招いたわけだが、持続可能なものではなかった。どんなセレブリティやインフルエンサーであっても、悪いニュースとして取り上げられているブランドと関わり合って、信頼性を失いたくはない。事実、かつてはEOSをサポートしていたセレブリティたちは、きっぱりとEOSについて触れなくなった。

レーザーフィッシュのゴールドバーグ氏は言う。「EOSは超有名人のパートナーシップに頼りすぎた。それがしっぺ返しとなってしまった。インフルエンサーたちは傷ついたブランドと関わりを持つようなリスクを取ることはできない」。

ノース・シックスのリゼッタ氏は、EOSのというプロダクトからソートリーダーシップや慈善事業に人々の注意を逸らすべきだったと考える。「ブランドをリハビリしているあいだ、(ソートリーダーシップや慈善事業に注目を集めるという)戦略はセレブリティを起用するよりも効果的だ」。

目新しさの急速なコモディティ化

EOSの躍動感あるボール状の形は、リップバーム分野にとって新鮮な変化であった。EOSが登場する前は、どのブランドも似たり寄ったりのデザインしか提供できていなかった。クレヨンのような明るい色によって消費者たちはすぐにブランドを認知でき、異なる香りを色と組み合わせて虹のように提供できたのも面白かった。

しかし、この個性の強さが逆に仇となり、無数の類似品が市場に登場することとなる。セフォラ(Sephora)のような大手化粧品メーカーからアドテク企業までが自分たちのリップバームを提供しはじめた。セレブリティたちが称賛したことで誰もが、利用するようになったこと、そして類似品が溢れたこと、それがブランドが持っていた「目新しさ」という特徴に傷をつけることになったのだ。

「ブランドはリップバーム分野をひっくり返し、顧客に新しいオプションを与えるということを模索していた。しかし、あまりにも短期間に、巨大になり過ぎてしまった」と、ノースシックスのリゼッタ氏は語る。

Tanya Dua(原文 / 訳:塚本 紺)