Amazon隆盛の時代、「未来の店舗」はどうあるべきか?

小売企業が「未来の店舗のあり方」について議論するのに、ワシントン州シアトルほど適した場所はない。Amazon本社があるこの都市に集まった小売企業やブランド企業の幹部は、店舗の閉鎖や従業員の解雇が続くなかでも、実店舗の未来を楽観的に捉えようとしていた。彼らがいうには、実店舗は死んだわけではなく、ニーズの見直しを迫られているだけだ。それに、結局はAmazonでさえ、431店舗を展開するホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)を買収したり、自社店舗を構えたりしているではないか。

「もし店舗が死んだのならば、Amazonが店をオープンすることはないだろう」と、チョコレートメーカーのゴディバ(GODIVA)で小売担当責任者を務めるエリック・コリアー氏は、小売業界のカンファレンス「フューチャー・ストアーズ・シアトル(Future Stores Seattle)」で語った。

店舗の未来をテーマに3日間にわたって開催されたこのカンファレンスでは、サムスンや、チェーンデパートのニーマン・マーカス(Neiman Marcus)といったブランドや小売企業の幹部が、未来の店舗に対する自身の考えを語った。また、ショッピングモールを運営するウェストフィールド(Westfield)や、オンラインストアのファブレティクス(Fabletics)が、未来の店舗のビジョンについて語った。

結局のところ、未来の店舗で重要になるのは、デジタルタッチスクリーンや仮想現実(VR)体験ではない。社内のチームを評価し、販売員の能力を高め、デジタルでの展開と実店舗のギャップを埋めることが重要なのだ。

未来の店舗に関する今回の議論で注目されたテーマを以下で紹介しよう。

実際のところ、これは未来の店舗ではなく、未来の顧客の話。

未来の店舗のためのテクノロジーや取り組みが、高価なハードウェアとPRのための話題づくりに足を取られ、規模を拡大できなくなっている例があまりにも多い。

ニーマン・マーカスでイノベーション担当責任者を務めるスコット・エモンズ氏(彼は、同社の研究所アイラボ[iLab]の唯一のスタッフでもある)は、未来の店舗のためのテクノロジーという言葉は使わないことにしたという。

「自分たちが正しく考えていなかったことが、急速に理解されている」とエモンズ氏は話す。「これは、未来の店舗ではなく、未来の顧客の話なのだ」。

ニーマン・マーカスにとってこうした姿勢は、アイラボで生まれた新しいテクノロジーや体験が、モバイル、オンライン、店舗での購入体験を統合させることに焦点を合わせることを意味する。シューズ・セクションで「iPad」から自分好みの靴を選べるデジタルウォールのような、顧客に密着しないテクノロジーは不要なのだ。

実店舗のチャネルは、オンラインのチャネルと競争できない。

サムスンで小売およびイノベーション戦略担当シニアディレクターを務めるマット・オースティン氏は、サムスンの顧客がどこで製品を購入しようと気にしないと語った。ベスト・バイ(Best Buy)であっても、オンラインであっても、自社直営店であっても構わないという。

「製品を買わないで立ち去ってしまう人がいても構わないと考える必要がある。その人が製品について、さらに詳しくなって店を出たのならそれでいい」と、オースティン氏は語る。

だが、ベスト・バイやほかのデパートのような小売パートナーにとっては、こうした考え方を受け入れるのは難しい。彼らはさまざまなブランドやAmazonのようなオンライン企業との競争の激化に直面し、客足の減少に見舞われているからだ。

「大量販売のブランドは、もはや小売企業に縛られていない」と、SaaSプラットフォームを手がけるスクエアルート(Square Root)の小売担当ディレクター、ローガン・ロドリゲス氏はいう。「店舗が、どこでも売っているブランド製品を棚に置いているだけの場所になってしまえば、状況は厳しくなる」。

店舗は、顧客データのハブとして活用すべき。

店舗における顧客とのやり取りは、Amazonのような企業にとっても価値がある、とゴディバのコリアー氏は指摘する。ネット専業の小売企業が実店舗を展開する動きが進んでいるが、その理由は、顧客についてより多くのことを学び、ブランドの認知度を高め、販売にハロー効果をもたらすためだ。実際、実店舗をもつオンライン店舗の取引量は増えている。

ファブレティクスは、いまもほとんどの商品をオンラインで販売している。だが、新しい製品をテストしたり、製品のデザインを決定したり、ブランドのメンバーシップモデルについて顧客に周知したりするうえでは、実店舗が重要な存在となっている。同社チームは、製品に関する顧客とのやり取りから得たすべてのデータにすばやく対応できる準備を整えており、そのことがオンラインストアの運営方法に影響を与えているという。

「実店舗があると販売数が全体的に増えることを、我々は市場で確認している」と、ファブレティクスのプレジデント、グレッグ・スロッグマーティン氏は言う。「ブランドとの接点を増やすことが、ビジネスの拡大につながるのだ」。

小売とブランドは、コスト削減と新しい体験の提供に関して協力できる。

テクノロジーはショッピングモールに困難をもたらしているが、チャンスも生み出していると述べるのは、ウェストフィールドの小売担当シニアバイスプレジデント、スティーブ・デュマス氏だ。同氏は、客足を伸ばすためのモールの取り組みを支援しながら、各店舗と協力して販売スペースを改善するというアイデアを打ち出している。具体的には、統一的なモール体験を提供して、顧客がモールのあちこちにある商品を簡単に探せるようにし、その結果モールのすべての店舗が成果を上げられるようにするという。

「最終的な目標は、人々がくつろいで長い時間を過ごすようなスペースを作り出しながら、新しい体験のなかにモールの店舗を組み入れることだ」と、デュマス氏は説明した。

ニーマン・マーカスのエモンズ氏も、新しいテクノロジーの導入を進める際に、ブランドパートナーに売り込みを図っている。ニーマン・マーカスのアイラボが、拡張現実(AR)を利用したテクノロジー「メモリー・ミラー(Memory Mirror)」を化粧品販売店に売り込んだときには、ブランドに対してもその利点について説明した。つまり、これはカスタマイズした顧客体験を提供できるテクノロジーで、各化粧品販売店が直接ARミラーを所有するという利点だ。その結果、複数のブランドがこのテクノロジーの導入コストを分担することになり、エモンズ氏は規模を容易に拡大できるようになった。

「導入費用については御社のパートナーが支援しますといえるようになれば、肯定的な返事がもらえる」と、エモンズ氏は語った。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)