「ミレニアル世代」はマーケティング業界が生んだ幻想か?:疑われはじめた固定観念

マーケティング業界は「ミレニアル」という単語に執着している。多くのブランドやパブリッシャー(媒体社)の間では、この世代の話題で持ち切りとなっているほどだ。しかし、ミレニアル世代の人口はアメリカだけで8000万人。ひとつのグループとして捉えるには、あまりに大きすぎる規模となっている。

X世代(日本における団塊ジュニア世代)に次ぐ規模となるミレニアル世代。定義としては18歳から35歳までの若者を示す。しかし、最年少と最年長の間には17歳もの年齢差があるため、多種多様な人種が存在するのだ。片親であったり、奨学金で大学に通っていたり、企業のCEOで大金持ちであったりする。そのため、広告主たちはミレニアル世代の行動パターンや類似性、流行などを、予測するのが困難になっているのだ。

「海に住むすべての生物は魚だと言っているようなものだ」と、米エージェンシーRPAのシニアバイスプレジデント兼戦略プランニングディレクターであるデイビッド・メーザー氏は話す。「問題は、私たちがミレニアル世代たちのことをまるで動物のように扱い、研究していることだ。商品を販売するために大勢の人をひとつのグループに当てはめてしまうと、彼らは見下されていると感じてしまう」。

固定概念や偏見

多くのマーケターたちはミレニアル世代をひとくくりにできると考えている。ブランドコンサルティング企業のファースト・ザ・トローザーズ・ザン・ザ・シューズ(First the Trousers Then The Shoes)によると、多くのマーケターたちは次のようにミレニアル世代を捉えているという。

    1. デジタルネイティブのため、モバイルやソーシャルなどでリーチすべき。
    2. 公益を図る企業に魅力を感じる。
    3. コンテンツに「確実性」を求める(どの世代も求めると思うが…)
    4. Facebook、Twitterやインスタグラムなどで、ブランドとの交流を図りたい。

しかし、ファースト・ザ・トローザーズ・ザン・ザ・シューズが北米(アメリカとカナダ)における76件ものミレニアル世代へのマーケティング事例を調査した結果、上記の偏見や固定概念は通用しないということが判明した。「ミレニアル世代への偏見や固定概念が間違った方向に進んでしまい、当人たちはミレニアル世代という名称を拒否しはじめている。考え方や意識が変化しようとしている明確な兆候だ」と、同社の社長兼最高戦略責任者であるウッリ・アップルバウム氏は指摘する。

一方、才能あるマーケターはオンラインとオフラインの両方のチャンネル使い分けるという。そして、彼らはミレニアル世代をひとつの層として認識せず、民族性、地理、趣味やほかの要因でセグメント分けしているのだ。

マクロではなく、ミクロへ

多くのブランドでは、オーディエンスそれぞれの特徴よりも、オーディエンス全体に共通する特徴をもとにメッセージを配信している。メキシコ料理レストランチェーンのチポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)では昨年以降、食材に遺伝子組換え作物を一切使っていない。これは同社がミレニアル世代たちは「良いと思われるものには少しばかりの出費も厭わない」と考えているからだ。

その一方で、媒体社たちはミレニアル世代ではなく、マーケターのみを対象としている。「マッシャブル(Mashable)」では「ミレニアル世代への5つの効果的なマーケティング方法」、「Hubspot(ハブスポット)」では「ミレニアル世代へマーケティングするための8つのヒント」などの記事を配信している。

「ミレニアル世代について書かれた記事は、大体がマーケターに向けた煽り文句だ。マーケターたちはよく食いついている」と、米エージェンシージャイアントスプーン(Giant Spoon)の戦略部門のアソシエイトディレクターであるアダム・ヴィーゼ氏は話す。「ミレニアル世代をターゲットにするということは、『世の中の全員』をターゲットにすると言っているようなものだ。このようなマーケティングではミレニアル世代たちに受け入れられることはおそらくないため、ブランドは自らの信念や情熱を表す要素を見つけるべきだ」。

最近、マッチングアプリ企業ティンダー(Tinder)に買収されたコンタクトマネージメント企業ヒューミン(Humin)のブランドディレクターであるパブロ・ロチャット氏は、年齢だけでターゲティングするのではなく、サブカルチャーなどを取り入れた方が広告主にとっては良いと発言している。素晴らしいコンテンツに世代の壁は無いからだ。

アメリカのDJであるDJキャレド(DJ Khaled)を例に見てみよう。彼はSnapchat(スナップチャット)においてもっとも影響力を持つ著名人のひとりだ。彼自身はミレニアル世代ではないが、ミレニアル世代に愛されるコンテンツを制作している。

また、アイルランドに拠点を構えるアパレル企業レン(Wren)は、「ファーストキス」という動画を2014年に作成し、YouTubeで公開したが、一大センセーションを巻き起こした。動画では見ず知らずの10人がお互いと初キスをする様子が撮影されていて、情熱的なキスもあればぎこちないキスもある。

この動画は、ファーストキスというすべての人間に共通するエクスペリエンスを題材としているため、オーディエンスは共感することができ、数多くの共有につながった(しかし動画公開後、動画に出演した10人が役者であることが判明し、多くの批判が寄せられる結果となった。けれども、多くの批判が逆に注目を集め、広告としては成功している)。

「年齢層でターゲティングをしても意味がない。面白いネコの動画は、7歳の女の子でも、70歳のお爺さんでも楽しませることができる」と、ロチャット氏は話す。「すべての人間に共通する感情を揺さぶり、ターゲット層のみだけではなく、それ以外の層にもオーガニックにリーチできるコンテンツを作ることこそが目的であるべきだ」。

この際だから言うけども、Z世代とも呼ばないで

現在、マーケターは全力でミレニアル世代を追いかけているが、次の世代もすぐ間近に迫ってきている。年齢層が11歳から16歳の、いわゆるZ世代だ。市場リサーチャーやトレンド予測家たちにとって、Z世代が次なるミレニアル世代といえる。

米大手自動車メーカーのフォード・モーター(Ford Motor)では、Z世代の重要性を理解するためにトレンド報告書を作成。「未来派」として知られる同社のシェリル・コネリー氏は数多くの産業会議にてZ世代の重要性について訴えた。

このZ世代へ対する急激な興味は、ミレニアル世代への執着心を彷彿させる。しかし、まだこの悪循環を断ち切ることはできるはずだ。エージェンシーグロウ(Grow)のゼネラルマネジャーであるマット・パドック氏は、世代に特定の名称を付けることはその世代全体を普遍化してしまい、世代のなかの区切りを無くしてしまうと考えている。

世代以外に、年齢や行動など、注目すべき点があると信じているパドック氏。「ミレニアル世代に受け入れられたものは、ほかの大勢の消費者にも受け入れられる、というのは簡単だ」と、話す。「ターゲティングに使えるデータは豊富にある。問題は、それらのデータをどうやって戦略に織り込み、消費者により良いエクスペリエンスを提供するかだ」。

これに対し、RPAのメーザー氏は少し異なる意見をもつ。X世代、Y世代(ミレニアル世代)やZ世代というバズワードを、業界全体から無くした方が良いと考えているのだ。ミレニアル世代のように、広告主たちが大勢のオーディエンスをひとつのグループにまとめてしまうと、「ばかげた偏見や固定概念」が増えてしまうと彼は懸念している。しかしこれと同時に、広告主たちがこれまでのキャッチフレーズを無くして、どうやって顧客とコミュニケーションを図るのか、とても興味が湧いてくる。

「私はすべての世代から名称を無くすことに賛成だ」と、メーザー氏は話す。「どうせ現在使われている世代の名称は昔の白人たちが勝手に決めたものだ。昔の白人たちが作ったルールに従うのは、もういい加減に嫌気がささないか?」と、彼は最後に付け加えた。

Yuyu Chen(原文 / 訳:BIG ROMAN)
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