「マーケティングのデジタルシフト」を関西企業に見た:アドテック関西現地レポート

東京とは一味異なる、パワフルな取り組み方に、その土地ならではのパワーを感じさせられた。

2015年9月15〜16日にグランフロント大阪で開かれた、広告業界の祭典「アドテック関西」(主催ディーエムジー・イベンツ・ジャパン)。関西地方のブランド企業、プラットフォーム、広告代理店、パブリッシャーなど多種多様な面々が集まり、ネイティブアド、プログラマティック広告、マーケティング戦略のデジタル化、モバイルシフト、動画広告など、業界の未来について話し合われた。

ネイティブアドの行方は

ユーザーが取得する情報が飽和点を大幅に越えている現在。ネイティブアドは自然にコンテンツと馴染むため、確かなエンゲージメントを構築できると、注目を浴びている。

初日のセッション『ネイティブアド活用法 実践編』では、プラットフォームの特性を理解し、最適化したクリエイティブを制作する重要性が指摘された。各メディアからの流入数をもとに想定リーチを算出し、合計すればスケールを持たせることができる。ブランド側からはネイティブアドの効果測定を洗練化し、コンバージョン率という結果に「見える化」してほしいとの要望が出た。マーケティング担当者は、企業の収益に繋がることを証明する数字を求められるからだ。

同じく初日の『ネイティブ広告はユーザー/広告主/媒体社の三者をハッピーにするか?』では「ネット広告はユーザー体験に不感症になっていた」と、ネイティブアドが注目される背景が指摘された。今後はステルスマーケティングとの境界線を引くガイドラインの策定が求められている。

面白いコンテンツの要件もデジタル化

コンテンツマーケティングの基板となるのが「面白いコンテンツ」。初日の『話題になるコンテンツの作り方・広め方』では、そのコンテンツ製作について、デジタル時代には大きく変化を遂げており、「スピード感」と「手づくり感」という、相反する条件が必要になってきていると指摘された。

YouTubeで脅威の940万回超再生を記録した動画「【閲覧注意】雪道コワイ」を製作したコンテンツクリエイター眞鍋海里氏(BBDO J WEST)は「広告だと思われた時点で観られなくなる。そう思われないようわざと汚い仕上がりにする」と話した。

コンテンツをヒットさせる方法については「シェアされる文面・文脈を設計できるとうまくいく。どうやってシェアさせるか考える」とソーシャルの拡散を見越した上で、ストーリーとタイトルを練ることを明かした。バズらせるにはメディアに取り上げられることが欠かせないため、そのとっかかりになるプレスリリースは自分の手で書くという。

USJ復活の原動力「マーケティング・ドリブン」

2日目キーノートには、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のハリーポッター・ブームを仕掛け、業績のV字回復を達成した森岡毅氏(USJ運営会社のユー・エス・ジェイ)が登場した。関西でもっとも注目されるマーケターである森岡氏は、マーケターがとらわれがちな伝統的なマーケティング理論に異を唱えた。

森岡氏が問題視したのが、もっとも好まれるマーケティング用語「差別化」。常に比較の対象にされてきた東京ディズニーランドと「差別化」することを求められていたが、ユーザーの動向をデータで見ながら施策を重ねていくことで、似たビジネスモデルでも、力強い成長が可能だったという。

森岡氏はマーケターがリサーチをかける際には、意図する結果が出るような手法をとる場合もあるが、自分は客観性を重視した調査をすると力説した。クリエイティブが強いエンターテインメント業界で、マーケティングがクリエイティブをコントロールする「マーケティング・ドリブン」に成功したという。

マーケティングには社内の強力が不可欠

強いリーダーシップを発揮した森岡氏に対し、マーケティング戦略を実行するために早い段階で社内協力を求めることが必要になる場合もある。2日目のキーノートセッション『トップマーケターが見るコミュニケーションの本質』では、「企業価値に関する部分で30ページあり、キャッチコピーにまとめるのが大変」「外向きにさまざまな施策を重ねて行ったが、気がついたら(社内で)後ろに誰もいなくなっていた」との声も聞かれた。

近畿大学の世耕石弘氏は同大名物の「近大マグロ」を軸に、コミュニケーションを展開した例を紹介。「学内で斬新なアイデア通すのは難しく、賞をとることに注力」した世耕氏は、その壁を乗り越え、堀江貴文氏に卒業式でYouTube拡散を想定したスピーチを依頼したり、学内で近大マグロを提供する居酒屋を営業したりした。結果、入学志願者が5年間で50%増加する成果につながった。

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「近大マグロ」マーケティングを披露する近畿大学の世耕石弘氏(中央右)

モバイルシフト、動画広告の時代

2日目の『モバイルマーケティングの成功の秘訣とは』では、モバイルシフトの収益化のアプローチが検討された。

Facebook広告売上のうち76%をモバイル広告が占めている(Facebook第2四半期決算)ことや、モバイルユーザーはブラウザではなくアプリを利用する割合が高まっていることが指摘された。Facebook Singaporeの山崎雄太氏は「『いいね』を1万集めても、成果につながるか別。マーケティングの目的を明確にする必要がある」と語った。

2日目の「ビデオアド」の可能性では、過去に利用の動きがありながら、透明性の問題で頓挫した動画広告の可能性について語られた。

動画広告は米国では、YouTube、Facebook、Twitterなどによる、激しい競争が生じている商品。日本でもブランド企業が出稿の可能性を検討している。セッションでは、今後の効果測定の策定に向けた議論や、態度変容につながりやすい最適な動画への接触回数が7〜9回との米国のデータが紹介され、テレビコマーシャルとの最適な組み合わせ比率も検討された。

型破りなマーケティング人の登場

どの企業でも、デジタルマーケティングやデータ関連の施策を取り入れるには、社内の協力が必要不可欠になる。そのためには社内を説得できる強い要因が必要で、その最たるものが収益への貢献だ。

USJを復活させた森岡氏は外資系のマーケティング畑で経歴を積んだ「生粋のマーケティング人」。「金がない、人も足りない、時間もない」という状況のなかで、後ろ向きに走るジェットコースター、構内をゾンビで埋め尽くしたハロウィーンなど、ずば抜けたアイデアで「マーケティング・ドリブン」を達成した。

近畿大学の世耕氏は民間企業で広告に携わった後、民間企業の発想を大学のブランディングに持ち込んだ。近大マグロを描いた広告を連発して強い印象を生んだり、学内の近大マグロを出す居酒屋では、卒業証書と書かれた光沢紙を挿入し、お客さんによるインスタグラム投稿を促したりと、アイデアを持続的に出し続けた。

人間同士のコミュニケーション濃度が高い「関西」という土地の企業で、マーケティングを駆使し、成功を収めた森岡氏や世耕氏の軌跡に、「マーケティングのデジタル・シフト」を実現するヒントがあるかもしれない。

(吉田拓史)