いまや群雄割拠の「EC業界」、いかに生き残るべきか?:ブランディングこそすべて

EC事業者には悩ましい時代が到来した。デジタルテクノロジーが発達するなか、新規オンライン店舗の開設や運営が飛躍的に容易となった一方、競合他社の急増により競争がかつてないほどに激化しているのだ。

なにしろ、いまや単なる物理的な商品の売買だけが、ECではない。

インターネットを介したBtoCサービスは、スマートフォンの普及以降、その裾野を大きく広げた。読み物や動画、それにスタンプやゲームアイテムの課金提供は、コンテンツを販売するEC。Uber(ウーバー)の配車やAirbnb(エアビーアンドビー)の民泊などは、エクスペリエンスを販売するECといえるだろう。

成功を後追いしてはいけない

「デジタル上で課金する仕組みやサービスはすべてECといえる。ショッピングだけにとらわれないECが拡大している」と語るのは、電通デジタルの三橋良平氏だ。同氏は、7月1日に新しく発足する電通デジタルのECオウンドメディア事業部長として、新しい時代のECを考えていくメディア「New Commerce Hub」の責任者を兼任している。

「インターネットリテールでは、成功事例を追い求める傾向があった。すべての事業者が同じ方向ばかりに向かっても、先駆者の成功体験を再現できるわけではない」と、三橋氏は現状のEC業界における問題点を指摘。「いま、EC事業では、『顧客の刈り取りや囲い込みをする』という考え方を辞め、顧客ひとりひとりの顔を思い浮かべるようなやり方が求められている。提供する側の思想だけで、ビジネスをデザインしてはいけない」。

実際、オンラインストア出店数は電通調べによると、2013年から2015年にかけて368%の急増を見せている。「STORES.JP」「Yahoo!ショッピング」「BASE」など、無料のECサービスが台頭してきたからだ。その総数は、およそ90万におよぶ。

figure_1

オンラインストア出店数の推移

均質化した売り方が課題

「いまはストアだらけになっている」と語るのは、同じ電通デジタルのECオウンドメディア事業部でコミュニケーションプランニングの担当をしている高崎真梨子氏だ。「商品販売においては、均質化している売り方をいかに差別化していくかが、課題になっている。どう選んでもらうかが重要」。

EC事業者のさまざまな相談に応える同社では、クライアントの話を聞くと、そのスタッフたちが疲弊しているのを感じるという。お得感に立脚したストア運営に踏み込み、消耗戦に突入しているからだ。立ち上げの時点はそれで良くても、いずれ売上の成長は必ず鈍る。

figure_2

「お得感に立脚したストア運営」の売上推移例

「たとえば、特典を付ければモノが売れるのは分かる。しかし、月ごとの目標を達成するために特典を乱発しすぎると、そもそも何を売っているのか分からなくなる。もうちょっと違った顧客との繋がり方をしたいというクライアントは多い」と、高崎氏は語った。

ファンを作ることの重要性

また、新規顧客を追い求めるあまり、既存顧客をないがしろにしてしまう企業もいる。通常、新規顧客の販売コストは、既存顧客の5倍。しかし、全体の売上の80%は、上位20%の既存顧客によってもたらされている。新規を開拓するのではなく、既存顧客を引き留める施策を打ち、顧客離れを5%改善すると、利益が25%も改善するという。

figure_3

新規顧客と既存顧客の売上比較

お得なだけでは、消耗戦に入る。新規だけに目を向けても、利益が得られるわけでない。既存の顧客と深く長く付き合っていくために必要なのが、何度も言及しているとおり差別化だ。ECには「ブランディング」が求められる。

「いままでEC事業においては、短期的な『効率』が最重要視されがちで、長期的にビジネスを成功させるための『ブランディング』が考えられていないケースも多かった」と、電通デジタルのECオウンドメディア事業部でビジネスデザインの担当する坂本雄祐氏は語る。「しかし、本当のブランディングは、顧客に商品を買ってもらったり、サービスを使ってもらって、良い体験をしてもらい、好きになってもらうことだと思う」。

ブランディングの最たる例

既出の三人が中心となっている運営している「New Commerce Hub」には、そうしたブランディングを加速させるEC事業者の事例が事欠かない。業界の未来を感じさせるプレイヤーが多く登場している。

その端的な例として坂本氏は、一風変わった物件やリノベーション前提の物件など、これまでにはなかった視点で不動産を紹介する人気サイト「Real Tokyo Estate / 東京R不動産」、エステやスポーツ、カフェランチにスーツのオーダーまで、さまざまな「体験ギフト」を販売する「ソウ・エクスペリエンス」を挙げる。

「彼らは社員全員が走り回って、『いい』と思ったものだけを提供している」と、坂本氏。「商品も変わっているし、売り方も変わっているから、そこには熱量がある。これこそ、まさに差別化といえるだろう」。

digiday2016_1347_fin

左から坂本雄祐氏、三橋良平氏、高崎真梨子氏

アイデアで差別化を図る例

また、それほど「変わったもの」でなくとも、その見せ方によって、「そこでしか得られない体験」を生み出している事例もある。おしゃれなライフスタイルを提案する写真や読みものが充実した、北欧雑貨や食器を扱うECサイト「北欧、暮らしの道具店」。海外向けに、日本のオタク文化に関する商品を販売したり、最新情報を発信する「Tokyo Otaku Mode」がそれだ。

「たとえば、POP表現が話題になる街の本屋と同じように、最先端を走るEC事業者のブランディングは、リアル店舗のそれと変わらない」と、高崎氏は語る。「差別化するときに、小手先で実施しても方向性がズレていく。サービスが生まれた原点に立ち返って、それを顧客にどうアピールするかが求められる」。

「Tokyo Otaku Mode」は初期の頃、オタク商品を海外顧客に発送するときに、緩衝材としてあえて日本の新聞紙を選んだ。そうしたら、「まさにこれです!」という反応が来た。彼らは「日本で買った」実感を得たかったのだという。「顧客には、売り物や売り方、見せ方、そして接し方からしか、企業の姿勢は見えてこない。そこで、ブランドの核をどう見せるのかが大事だ」と、高崎氏は付け加える。

ECサイトだけでは意味がない

ECは、単にネットでモノを売るというだけの事業ではなくなりつつある。商品の開発からプロモーション・販売まで、すべてを一気通貫して、購入に足るべき体験を提供するサービスとなっているのだ。

「ECサイトだけではどうにもならないことが多いと思う」と、三橋氏は最後に指摘する。「サービスの起点はECだが、そこから業務領域全般に視野を広げ、問題解決することが必要だ。経営的な視点で、EC事業を構築しなくてはならない」。

Sponsored by New Commerce Hub

Image from Thinkstock / Getty Images(TOP)
Photo by 渡部幸和(本文中)