現実世界の行動データがマーケティングを変える:リアル行動ターゲティング

このコラムは、デジタルインテリジェンス代表取締役・横山隆治氏へのインタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]編集部がテキストにまとめたものです。

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広告には潜在層を掘り起こすというアプローチが常に必要です。生活者が商品に意識・無意識に興味・関心をもったり、レリバンシー(自分事化)を持つ素地を醸成したりすることを促さなくてはいけません。ブランドは他社と競合するなかで、常に新しい顧客を招き入れる必要があるからです。

リターゲティング広告は「刈り取り」という言葉に象徴されるように、極めて細分化されたセグメントに打たれるものです。多くの場合その効果は短期的で、刈り取られた後は急速に落ち込みます。費用対効果へ極度にフォーカスすることで、効率は担保できるかもしれませんが、絶対量がなくなります。

ターゲティングという概念が「絞り込む」ということだけに矮小化されているのではないでしょうか。「的に当てる」という最初の部分に立ち返りましょう。現代のメディア消費デバイスのフラグメンテーション(断片化)の時代には、アナログとデジタルの融合が不可欠です。米国ではそのような外的環境の変化がマーケティング業界の激変を生んでいることに、これまでの3回の連載(記事はこちら:第1回第2回第3回[榮枝氏])で触れてきました。

そして今回はデジタルの世界の外に足を伸ばすことを提案しましょう。生活者の「リアル行動」を把握し、アプローチすることでGRP(延べ視聴率)やCPA(顧客獲得単価)とは異なる世界を、マーケティングに加える事ができるのです。このアプローチを私は「リアル行動ターゲティング」と名づけています。

どうやって潜在層を見つけるか

これまで、ネットでの行動はある程度ターゲティングできていましたが、リアル世界での行動は把握できていませんでした。リアルな行動は「見えなかった」のです。私はアトリビューションと言われる広告の間接効果を含めたトータルな評価を行う作業を提唱していました。ユーザーが接触する広告が購買行動にもたらしたレベルを見極め、予算配分などを最適化するのですが、ユーザーにとって広告接触している機会はネット行動のほんの一部に過ぎないので、カスタマージャーニーのデータとしては「歯抜け」です。

そこで、ツールバーに記録された全ログデータを分析する機会を得ましたが、全ログでのカスタマージャーニーは、広告接触機会「だけ」を見るのとは、段違いのレベルでした。たとえば、ある人は最初のうちはグアム旅行を検索していたが、ある瞬間に香港に変わっていたりします。リアルな行動で「何か」起こっている。例えば友達と話したとか、テレビで香港特集の番組を観たとか。リアルな行動にこれまで気づいてなかった仮説を巡らすことは楽しいことでした。これを突き詰めていくと、顧客化する可能性の高い未着手のセグメントを新しく創造することができると思います。

もちろん、データが生きるかどうかは活用法によります。これまでのCRM(顧客管理システム)とDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)との差は、潜在層(ターゲット・オーディエンス)を「新たに」どうセグメントし、セグメントごとの適切なコミュニケーションはどう構築するかを創造していくことにあります。

いま行われているDMPのオーディエンス「汎用」拡張ロジックという方法には疑問があります。テクノロジー専業の方が組んだ汎用拡張ロジックは基本、同じようなURLの閲覧行動などをベースに構築されていますが、これは単に同じようなURLを閲覧するという「ルックアライク(Look-a-like)」でしかないんですね。乗用車には乗用車、化粧品には化粧品の固有の拡張ロジックがありますし、突き詰めるとロジックは実は各ブランドごとにあるはずです。1つのコミュニケーションに反応した人と似ている人は、おそらく次も同じような検索をしていると見てしまうが、実はそうでもない。どういうロジックで拡大推量のフィルターにかけていくか、個別に作らないといけません。多くの企業が「汎用」拡張ロジックの成果が上がっていないため「DMPはいまいち」と思っています。しかし、問題はその業種、ブランドに適したロジックを考えて構築するプロセスを怠っている事です。そもそもDMPの真骨頂は潜在層から新たなターゲットのセグメントと、それに対するベストなコミュニケーションメッセージを創造し、当てはめる事です。さもなくばこれまでのCRMツールの機能拡張版に過ぎません。

私は6年前に日本で最初の拡張実験を4社の広告主で行いました。結果は反応がよく出るのと全く出ないないのとに割れてしまいました。同じロジックで良いのと悪いのが出るということは、それが普遍的なロジックではないということの証拠です。プログラマーは汎用的な展開を好みますが、それだけでは最適な顧客への接触方法にたどり着きません。これこそがマーケターが考えるべき領域なのです。

デジタル広告は大いなる調査

そもそも、デジタル広告そのものが大いなる調査プロセスの一部です。広告露出の結果の反応がわかりますから、まずは反応した人が顕在化したターゲットになります。単に勘に頼ってターゲットを想定しても、そもそもそういうターゲットは世の中にいるのか、となります。むしろ反応した人が出てきてから、「その人」をターゲットにする方が理にかなってます。4年前、あるポイントカードを利用する女性に配信して、反応した人(クリックしてサンプル応募した人)を、「書店でどの女性誌を買っているか」にひも付け相関を検証しました。どの女性誌を買っているかはある種のライフスタイルをセグメンテーションする要素になります。結果、ブランドマネージャーが当初想定していたターゲットの購読誌とはズレがありました。

この結果を踏まえると考えられる施策は「ターゲット自体を変える」か、「そのターゲットが反応するようにクリエイティブを変える」か、いずれかを行わなくてはいけません。これまでのマーケティングは、データから読み取れる反応を突き止めないで、ずっと「経験」や「勘」で実行されてきました。しかし、デジタル広告は広告プロセス自体が調査全体のプロセスの一部を担っています。よって、どんどん広告を打ちながら調査データを収集していくべきです。まさにどこに反応する人たちがいるのかというのを大海原でソナーを落として、魚群がどこにあるのかを探すのがデジタル広告です。この方法は絶対量を集めるということにもつながります。まだ発見していない潜在層を見つけるのがマーケティングの醍醐味なのです。

位置情報は宝箱

このようにマーケターは(広告)データから潜在層を探る試みを大いに活用すべきです。さらにこのプロセスに、スマートフォンが加わったのです。スマホは「ターゲットデータの解釈」に大きな変化をもたらしました。マーケターからみれば、スマホはユーザーの行動がどういう変遷になっていくかという「カスタマージャーニー」を見ることができるツールなのです。これまでのPCのクッキーは劣化が激しく、せっかく蓄積したデータも3カ月持つか、という感じですが、スマホのIDから蓄積されるデータは蓄積するほど精度を上げる可能性があります。

まずはスマホからは位置情報(ロケーションデータ)を得ることが大きい(個人情報ではなく、あくまでセグメントされた集団としてのデータ)。位置情報は短絡的な発想ではなく、考え方を広く伸ばすべきです。矮小化された例としては「この店舗の30m以内にきたらクーポン発行する」などの発想は場所が施策の起点で、人が中心の施策ではありません。考えてみれば人の移動している時間は1日のうちの1割程です(総務省情報通信政策研究所)。移動している瞬間だけをとらえると、絶対数が限定されてしまいます。位置情報は蓄積して分析することが重要です。その人の空間移動データでプロファイリングし、その人にとって好ましいタイミングと内容のコンテンツを送るべきなのです。

O2O(オンライン・ツー・オフライン)といいますが、私は逆にオフラインの行動をオンラインのデジタルデータに持ち込むことが重要と考えます。家電量販店には多くの「ショールーミング(何も買わないで変える顧客)」がいます、でも店舗には来てくれています。そうした位置情報も顕在化した行動データとして蓄積していく必要があります。

ブランドスイッチできる動画

動画はそれぞれ形式が異なりますが、インストリームやインリードでも、15 秒を再生できるのを条件にすれば、インプレッションとしてカウントする価値もあると考えます。ある実験でポイントカードでシャンプーを買った人と、それ以外のブランドを買った人にバナーと動画広告を投下してみて、その後の購買行動が取れました。

分かった事の一つは「タイミングの重要さ」。シャンプーの購買サイクルは1カ月半ほどです。買ってすぐバナーが出るのと、そろそろなくなる時期にバナーが出るのを購買率で比較しました。そろそろなくなる時期にぶつけた広告は効果が顕著でした。これはリマインド効果だと推測します。しかし、いつものブランドから別のブランドに移るという、ブランドスイッチ効果は、バナーではなく動画が圧倒的だったのです。ただし、認知を取る目的ならば、消費者が動画を5秒でスキップしてしまうと、何の広告かわからない。むしろバナーの方が認知をとれたという事例もあります。

私は(テレビ)CMの指標を、マルチデバイスでの評価に対応するためインプレッション数で管理することを提案しています。「1インプレッション」の定義について、オンラインでの15秒のCMの「どのような」露出の状態をインプレッションと数えるかをまず定める必要があります(IAB基準だけとは限らない)。そして定義されたCMが再生されている状態をインプレッションとしてテレビCMのインプレッションと同等に扱う、というのが基本的な考えです。オンライン動画の全てがYouTubeなどで一般的なインストリームのみをカウント対象とする訳ではない、考慮すべき事は多くあります。

例えばモバイル動画広告の配信対象をモバイルに親和性高いティーンを対象とした時、意外に難しい状況があります。というのは、通信キャリアーの情報では親が子どもの代わりに契約しているので、契約データでは未成年のデータは掴みきれないのです。アップル社もレギュレーションで未成年には広告を配信しない設定にしているので、ティーンに当てるのはかなり(オンラインでも意外に)難しいのです。しかし位置情報をしっかり観察することで、解決方法も見えてきます。例えば(学校に滞在するはずの)「平日の午前9時から夕方くらいに学校にロケーションデータを持っている人」の大半はティーンズと定義しても良いはずですよね(先生も含まれますが)。

たとえば、ビジネスマンをターゲットにしたCMを金曜日の午後7時の番組で流します。それを観てない人を補完するには金曜日の夜に家に帰らず、繁華街にいる人ですから、そうしたロケーションデータを持っている人が補完対象です。このように考えるのが位置情報の使い方です。

別の例として、例えば調布にマンションの物件があるとします。これまでは「場所」を中心に考えて調布周辺にチラシを撒くのがアナログでの施策でした。しかし着眼を「人の行動」に広げて「調布から15分で新宿に通勤できること」を考慮してみるとデータの使い方が変わります。平日の午前9時から午後5時に新宿にロケーションデータ持っている人は、概ね新宿に勤めている人と予測されますから、モバイル広告で彼らを「調布のマンション」の配信対象とした方が面白いですよね。

位置情報はこれまでの交通広告やアナログのチラシのプランニングを変えることもできます。例えば、あるチラシ配りを事業とする運輸会社は、かなりの精度の細分化配送が出来るビジネス運営を行っています。しかし、そこまで細分化にマッチングするターゲットの位置情報は持っていません。この場合、この運送会社に、デジタル上で蓄積した位置情報をベースにして、こういうポスティングをしてくださいというセグメントデータが提供できれば、既存の交通広告やチラシすらこれまでより効果的な実行施策に変身できます。

リアル購買データの活用

私が提唱する「リアル行動データ」は、位置情報に限りません。楽天カードのようなポイントカードから取得できるリアル購買データもまた重要なデータになるでしょう。

例えば日本では楽天がおよそ「億」に近いIDを蓄積していると考えられています。さまざまな消費財の取引で大きなパイをもっています。さらに楽天は、楽天ポイントと提携するリアルなチャネルも増やしています。この1億IDもっていることが、強みとなり、この楽天データを共有したいCPG企業が多く存在します。

これは、マーケター(特にCPG企業)が自分のファーストパーティデータだけ使ってマーケティングする事や、「汎用」のサードパーティーデータだけを使ってマーケティングする事から脱して、さらに次のステージのデータの必要性を示しています。「購買データ」、「メディア接触データ」、「ソーシャルデータ」、「ロケーションデータ」の4つの大きな外部にある信用あるデータを上手に活用する需要が生まれるでしょう。そのためには「セカンド・パーティー・データ(上記の例では楽天のデータ)」への注目と共に、様々な企業に点在するデータを相互にパートナーを作るデータ・エクスチェンジのプラットフォームの整備が日本にも必要でしょう。

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