クリエイティブディレクターとは一体何者?:失業中コピーライター(55歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(55)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された業界通コピーライター。

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クリエイティブディレクターの仕事って一体何なのか。いままで何度も尋ねられた質問だ。残念なことに、パッと答えられるシンプルな回答というのは存在しない。特にミレニアル世代へ説明する際には、さらによく分からない状況になっている。なんとか自爆しないよう気をつけながら、これまで尋ねられた疑問について答えてみたい。いろんな用語が括弧に入れられてるのは、許して欲しい。

ーーコピーライターは言葉を考えて、アートディレクターが絵を作るってのは分かってる。ってことは、クリエイティブディレクターはコマーシャルを監督するってこと?

だったら分かりやすくていい……でも、まったく、そんなことないんだな。そもそも「言葉」とか「絵」とかって、ぶっきらぼうに描写されちゃうと、いつも不安なオレたちクリエイティブの人間は、さらに幼稚園児みたいな気分になってしまうじゃないか。

ーークリエイティブディレクターとか、ドン・ドレイパー*みたいな人物が、パッとビッグアイデアとかを思いついてしまうってこと?

*ドン・ドレイパー:60年代の広告業界を描いたアメリカのTVドラマ「マッドメン」の主人公

いやいや、それもない。長年続く、超巨大なエージェンシーにおいては、クリエイティブエージェンシーはもう「クリエイティブ」な仕事には携わらない。彼らが行っているのは「ガイド」して「承認」して、最後にはクリエイティブを「盗む」ということ。

ほとんどの場合、クリエイティブディレクターはクライアントにクリエイティブを「売る」役割を担っている。プレゼンテーションがうまく、セールスができるクリエイティブディレクターは、会社にとってキープすべき人材だ(だからと言って巨大なエージェンシーが支払う、馬鹿みたいな高給に能力が見合っているわけではない)。ここらへんの力関係は広告業界に関係ない人も「ああ知ってる。『マッドメン』観たから」って言いたくなるんだが、そんな単純でも無いんだな。

TVドラマで描かれる大げさなものよりももっと微妙な、繊細な力関係のやり取りが現実の広告業界では行われてる。優秀なクリエイティブディレクターは、まだ半分程度にしか完成していないアイデアを、まるで完璧なアイデアのようにセールスすることができるんだ。クレイジーなアイデアを、まだちゃんと詰められていない段階から、論理的で素晴らしいアイデアのようにセールスできる。

それよりも小規模な独立系のエージェンシーではクリエイティブディレクターはもちろん、もっと実地的な役割を担うことになる。彼らもクリエイティブの仕事に関わるし、そうしないと、ビジネスとして生き残れない。

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(左)「フィードバック? これでいいんじゃない」/(右)「たったいま、オレがパッと思いついただけの下らないアイデアあげるから、それでキャンペーン作っちゃってよ」

ーーとはいえ、アナタはコピーライターであって、クリエイティブディレクターじゃないんでしょ、「コピーランター」さん。「実地的な」クリエイティブディレクター自身の意見も聞いてみたいんだけど

分かったよ。じゃあ、オレの前の職場のクリエイティブディレクターである上司に聞いてみるよ。ニューヨークのギガンテ・ヴァス・パートナーズ(Gigante Vaz Partners)の創立パートナーであるポール・ギガンテだ。彼によると、クリエイティブディレクターの役割はこういうことらしい。

クリエイティブディレクターは、直感的で愛嬌のある「口出し人」だ。ただ自分の頭に浮かぶアイデアを良いものと悪いものに区別できる優れた能力を持ちあわせているだけじゃなく、人が考えたアイデアの良し悪しも判断できなくてはいけない。

 

さらに、この役職は、ほかの人間たちにも優れた仕事をしたいと思う、インスピレーションになることが要求される。斬新かつ素晴らしい物に取り組む勇気がない同僚たちの声に反論できないといけないだろう。説明なしには良いアイデアと悪いアイデアの区別がつかない相手に対して、情熱と自信をもって、良いアイデアを売らないといけないからだ。

「口出し人」…(笑)。自分自身ギガンテの下で長年働いて、彼の直感を信じるようになった。彼の意見に同意しないことはまずなかった。普通は誰彼構わず異論を唱えて嫌われてるオレがだ。

ーーでも、私の友達で、まだ26才の「クリエイティブディレクター」がいるけど、いま言ってるようなことは、全然してないみたいだけど?

そう。「昔ながらの」クリエイティブディレクターってのは消えつつある。「昔ながらの」クリエイティブディレクターたちは認めないかもしれないけど。いまでは自分を「クリエイティブディレクター」と呼ぶ輩がどんどん増えて、20世紀に存在した「クリエイティブディレクター」全部を合わせた数よりも、現存する「クリエイティブディレクター」の数の方が多いんじゃないかってくらいだ。

名前もただの「クリエイティブディレクター(CD)」だけじゃなくて「デジタル」CD、「ソーシャルメディア」CD、「コンテンツ」CD、「ネイティブ」CD、しまいには「マーケティング」CDなんてのも存在したりする。パブリッシャーのクリエイティブスタジオにおける若いクリエイティブディレクターの多くは、ただそういった役職名がついてるだけで、広告におけるクリエイティビティの訓練も経験も無かったりする。

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(左)「君にとっておきの面白いプロジェクトがあるんだ。会社の季節のお便りカードなんだけど」(右)/「ちょっとオレにはピンとこないんだよね。イケるアイデアはすぐ分かるんだ」

ーーちょっとまだ分からないから、ググッて調べてみるよ。

大丈夫、それはオレがやっといた。とりあえず避けて通れないのがこの「クリエイティブディレクターが良く言うあるあるネタ」ビデオだ。こちらの19ページに渡る「クリエイティブディレクター・ミーム」も必見。ウィキペディアページによると広告クリエイティブディレクターとは「さまざまなマーケティング企画や戦略を、雇われた会社やクライアントのために開発する人物」だそうだ。なかなかひどい。

画像検索でクリエイティブディレクターを検索するとこの男が登場する。クリエイティブディレクターが業界きっての「ウザ男」であることは以前にも書いた。最後に、以前BBDOのデーヴィッド・ルーバーズ氏をインタビューした時の記事を紹介しておく。彼はすごく自信に溢れた、真面目な男だ。

ーーで、結局クリエイティブディレクターって何なの?

残念なことに、クリエイティブディレクターの定義として、いまでももっとも有力なのは、「マッドメン」の時代から変わっていないようだ。それは白人男性であるってこと。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)