ポストクッキー時代、ID測定をめぐる戦い

オンライン広告でID測定が再び活発化している。

個人が複数のデバイスを使い分けてたどるユーザージャーニーを、現実的な精度でつなぎあわせることは、これまでずっと不可能に近かった。その主な理由は、モバイル利用はクッキーで追跡できないから、というものだ。そこで、個人と広告の関係をデバイスをまたいで追跡する場面で、「ID測定」が次善の策と見なされるようになってきた。

このコンセプトは新しいものではない。GoogleとFacebookは長年、利用者のログインデータで、ウェブのあちこちで個人を追跡できている。しかし、欧州でデータのプライバシーに関する法律が変わり、またこの分野に最近、広告最大手WPPのメディア投資部門であるグループM(GroupM)が参入したこともあり、この話題が再び業界の議論の中心になってきた。

「これは重大だ。人々はモバイルの世界でクッキーがどれほど無力かを認識していないが、これはポストクッキー時代のエコシステムの始まりであり、そこでは質の高い永続的なIDデータをごく一部の事業者が独占する。そうした一部の事業者たちは、業界がエコシステムをまたいで各IDに接続できるよう一緒に協力したいとは考えていない」と、VCCPメディア(VCCP Media)の会長であるポール・ミード氏は指摘する。「今後、そのようなテクノロジー大手たちが、業界がアクセスして各IDに接続できる『デジタル中立国』のようなものを作ることができれば、それが業界にとっては最良のシナリオだ」。そうなることを願おう。

今回は、ポストクッキー時代のID測定をめぐる最新の状況を挙げていく。

クッキー体制の崩壊

ID測定は、クッキーの代替になるものを確立するだけではない。無駄なインプレッション、不適切な慣行、お粗末なリターゲティングなどを取り締まることでもある。これらの問題はみな、消費者の反発を招き、2016年にアドブロックという形をとった。これらの一部は、クッキーの重複問題が関係している。

「我々はしょっちゅう、クッキー爆撃、リターゲティング、侵害的な広告について耳にする。これらはいずれも消費者を追いやってしまう」と語るのは、グループMのID測定部門、「[m]PLATFORM」でCEOを務めるブライアン・グリーソン氏。[m]PLATFORMが目指すのは、ディスプレイ広告、モバイル広告、アプリ、動画、オフラインのロイヤルティプログラムなどの切り替え部分で、個人のIDとして利用される「mID」という小さなコード(業界内ではムーキー[mookie]とも呼ばれる)の開発だ。この計画の狙いは、大手テクノロジープラットフォームの囲い込み環境や、各ブランドの顧客データセットによるサイロ化を、ブランドが突破するのを支援することだ。これは理論的には、広告体験の大幅なスリム化につながるはずで、そうなると、消費者が同じ広告メッセージにつきまとわれることがなくなる。

「広告主たちが気づきつつあるのは、我々がターゲティング、広告、あるいはさらに広範囲のメディアへアプローチしてきた方法に、本質的な無駄が多いということだ」と、匿名希望のアドテク企業上級幹部は語る。「クッキーに対して広告を買っているが、そのクッキーは必ずしも個人を表していない。誰であれ、1つのデバイスに10の異なるクッキーがあるかもしれない。そのすべてに広告を配信しているとすれば、これは非常に無駄だ」。

すべてのデータが等しいわけではない

顧客の登録データを保有する企業なら、ID測定を実施していると主張できる。イーベイ(eBay)から、通販サイト、Amazonのブランドロイヤルティプログラム、航空会社、パブリッシャー、そしてもちろんクロスデバイスのベンダーまで、すべてがそうだ。ただし、そこには制限がある。

「それぞれがIDデバイス(グラフ)の独自バージョンを構築しようとしている。そこに標準は存在しない」と、エージェンシーのアイクロッシング(iCrossing)で最高メディア責任者を務めるアリスター ・デント氏は語る。「FacebookとGoogle以外の誰かがうまくやれるかどうかについて、私は冷ややかにみている」。

そうした見方になる一因は、クッキーが有効なのは一時的だから、というものだ。クッキーは、有用であり続けるには常に新しく更新する必要があるが、これを管理する技術インフラを備えている会社ばかりではない。「クッキーが無効になりうる理由は膨大にある」とデント氏。「人々が携帯電話やデバイスを交換する可能性があるし、クッキーを消してしまうこともある。さらに、家族でデバイスを共有することもあり、この場合マッチングは困難だ」。

それに加えて、重要なデータは2種類存在する。第1は確率論的なデータで、IPアドレスやブラウザ設定など、ログインによらない情報からユーザーを推定するもの。第2は決定論的なデータで、メールやFacebookのプロフィールなど、個人のログインアカウントを介してデバイスをまたいでユーザーを追跡するものだ。しかし、この2つがきちんとあると主張できるところばかりではない。後者はまさに究極の目標であり、個人の行動をより正確に把握できるとみなされる。この目標にもっとも近いのが、GoogleとFacebookだ。

だがこれら両社でさえも難題を抱えている。「Facebookのオーディエンス管理は、CRM(顧客関係管理)データのようにハッシュ化された個人情報をFacebookのIDとマッチングする。だが、一例としてクッキーベースのデマンドサイドプラットフォームには、結びつけることができないのだ」と、ある匿名希望のアドテク企業幹部は語る。

グループMの難題は、GoogleやFacebookが保有するような直接の顧客ログインデータがない点だ。グリーソン氏によると、代わりにカンター・メディア(Kantar Media)やワンダーマン(Wunderman)といった傘下企業のデータマッチング機能を組み合わせ、確率論的かつ決定論的なデータセットを構築することになるという。

EUプライバシー法という難題

欧州はオンラインプライバシーの寛容度がさまざまで、統一されていない。FacebookとGoogleはグローバル企業かもしれないが、クロスデバイストラッキングに関しては、米国で上首尾のものが欧州ではうまくいかない可能性がある。Googleは、ドイツやスペインといった欧州の国々で長年、個人データの追跡をめぐり緊張状態にある。これにより、Googleの欧州における事業展開にある程度遅れが生じている。さらに、この状況には変化の兆しがない。EUのeプライバシー法(通称「クッキー指令」)と一般データ保護規則(GDPR)はどちらも、欧州委員会による最新の修正によって、トラッキング広告のためのデータ利用に関する施策が強化されている。

Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)
Image from Rajiv Patel / flickr