動画広告というメガトレンドに、マーケターはどのように取り組むべきか?

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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「動画はモバイルと同等のメガトレンドである」。マーク・ザッカーバーグは2月の業績発表でこのように述べ、動画広告がFacebookの成長戦略の柱であることを強調しました。IABの調査によると、アメリカではすでに7割以上のマーケターが、テレビ広告の予算を動画広告へとシフトしています。動画広告の販売効果は平均的にテレビCMよりも高く、デジタル広告ならではのターゲティングを加えることで、その効果が、さらに倍以上も高まるという調査結果も出ています。臨場感を伝え、視聴者の注目を引きつける動画を、ターゲティングされた広告として配信することは、態度変容という目的において、もっとも効果的な広告手法であることは間違いありません。

しかし、そんな動画広告のポテンシャルを活かしている広告主は決して多くはありません。動画をテレビCMとして活用することに慣れたマーケターは、マス向けにひとつのメッセージを発信し、そのリーチを成果指標としてしまうのです。また、動画の制作にも、莫大なコストがかかるという先入観をもっているため、動画広告の可能性を認識していながらも、実験的な試みに踏み切れずにいるのではないでしょうか。

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生活者のメディア利用において、モバイル端末の割合が急激に高まっています。なかでも、FacebookやSmartNewsなどのアプリには、多くの利用者数だけでなく、動画視聴に十分な利用時間があります。生活者の強いアテンションが集まるこれらのプラットフォームに、現時点で動画広告を配信していないことは、機会損失を招いていると言えるかもしれません。今後、広告主、メディア、そして生活者自身による動画の配信は増え続け、アテンションを巡る競争はさらに激化します。そして、いずれ「アドレサブルTV」という形で、テレビにもターゲティングされた動画広告が配信されるようになるでしょう。動画広告の習得は、マーケターにとってもはや避けて通れない道なのです。

動画制作のコストを抑える

動画広告の制作に、テレビCM並みの予算は必要ありません。たとえiPhoneで撮影された動画でも、コンテンツとしての価値があれば視聴してもらえます。逆に、どれだけ予算をかけて、映像制作の品質を上げたとしても、あからさまな広告は視聴されません。静止画のスライドショーや、グラフィックや文字のアニメーションでも、効果的な動画広告を作ることはできます。日本語はほかの言語に比べ、音節レート(読み上げ速度)が突出して高いため、文字のアニメーションは情報の伝達にとても効果的なのです。

動画の制作費が高ければ、それを回収するためのメディア費がかさみ、広告予算が雪だるま式に増えてしまいます。また、実験的な試みの場合、複数のコンテンツやバリエーションを作成し、さまざまな仮説を検証する必要があります。そのため、動画広告の制作コストは、既存の素材やアニメーションなどを活用し、できる限り抑えるべきなのです。

配信された動画広告の効果は、ほぼリアルタイムで計測することができます。最近では視聴行動だけでなく、態度変容の度合いを計測するブランドリフト調査の機能も、プラットフォームごとに充実しはじめています。いまでは、動画広告の作成、配信、そして効果測定も、スマートフォンひとつで行うことができます。もはや動画広告の配信に、多額の予算も、高い技術力も必要ありません。しかし、そのような状況でも動画広告の確かなノウハウを習得し、ワークフローを確立している広告主は少ないのです。

ターゲティングを活用する

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動画広告の効果を高めるためには、オーディエンスデータに基づくターゲティングを活用すべきです。たとえば、複数のセグメントに異なる内容の広告を配信することで、より共感できるメッセージを届けることができます。「マルチセグメントマーケティング」と呼ばれるこの手法は、年代や性別、家族構成などのセグメントごとに訴求軸が異なる通信、金融、保険、旅行などのカテゴリーに効果的です。また、ユーザーのプロフィールなどから、詳細な条件を満たす人物だけに広告を配信する「ハイパーターゲティング」と呼ばれる手法は、限定的なニーズを対象とした高額商材や、BtoB、医療カテゴリーに向いています。そして、ユーザーの反応を基に、連続した広告を、最適なモーメントに合わせて配信する「シーケンシャルメッセージング」は、検討期間の長いサービスや、自動車、不動産などに効果的です。

コンシューマーセントリックに考える

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動画広告は効果的でもありますが、ネガティブなブランド体験を起こす可能性もあります。モバイルデバイスにおける広告の受容性はテレビに比べて低く、生活者の大半は、動画広告の強制視聴を不快に感じます。生活者は、広告が観たいのではなく、優れたコンテンツが観たいのです。視聴の主導権が生活者側にある動画広告では、商品を売るための広告ではなく、面白い、または有益であると感じてもらえるコンテンツを配信しなければなりません。広告主は自らの視点からではなく、生活者の視点から考えることで、より効果的な動画広告を作ることができるはずです。

動画広告は、今後必ずマーケティング戦略の中核的存在になります。アーリーアダプターは、現在も比較的低いコストで生活者のアテンションを獲得することができます。さらに、施策を重ねることで、ノウハウやワークフローを習得し、クリエイティブのアセットや、オーディエンスデータなどを得ることができます。今後、動画広告の重要性がさらに増し、テレビ広告にも影響を与えはじめるころには、これらの資源が絶対的な競合優位性となるでしょう。

これから動画広告に取り組む場合、どこからはじめるべきでしょうか? まずは、オーディエンスデータや計測ツールが充実しているFacebookでの配信を試してみるべきでしょう。テレビCMのようなあからさまな広告ではなく、低コストなアニメーションで、有益な情報を伝えるインフォグラフィック動画などを作成してみても良いでしょう。そして、低コストなテストと仮説検証を繰り返し、効果と再現性の高い、確かな動画広告の知見を深めていきましょう。

Written by 荻野英希