広告業界の謎:自動化時代、いまだメディアバイヤーが求められるのはなぜ?

2009年、広告アナリスト兼ライターのボブ・ガーフィールド氏は、DPAA(Digital Place Based Ad Association)の年次カンファレンス「デジタルメディアサミット(Digital Media Summit)」で、会場を埋め尽くしたメディアバイヤーたちに対し、あなたたちは「消え去る運命にある」と語った。

これは悪いことが起こる前兆のように思えた。当時は、プログラマティック広告の拡大と業界のデジタル化が起こりつつある時期で、少なくとも理論的には、広告バイヤーの職が少なくなると考えられた。多くの人が引き合いに出したのは、ウォール街で証券取引が自動化されたことだった。かつて人々で溢れかえっていた取引所の立会場は、いまやガラガラの空間になっている。これは、証券取引の仕事をする人が減っているという事実を示しているのだ。

2013年には、あるエージェンシーで幹部を務めていたマールテン・アルバルダ氏が、このような状況を「メディアバイヤーの死」とブログで表現した。同氏は、コカ・コーラ(Coca-Cola)や酒類メーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)などのブランドでマーケティング責任者を務めたこともある人物だ。

だが、2016年に入ると、興味深い事実が明らかになった。それほど大きな変化は起こっておらず、メディアバイヤーの数はいまでも非常に多いのだ。そこで本記事では、メディアバイヤーがなぜこれほど粘り強く生き残っているのかを考察したいと思う。

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――では、どのくらいの数のメディアバイヤーがいるのか?

はっきりしたことはわからないが、複数の情報筋によれば、大規模なエージェンシーに所属するバイヤーの数は数千人規模に及ぶという。だが、グループM(GroupM)やIPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)など、大手のメディアネットワークや持株会社は詳細を明らかにしていない。

――ちなみに、メディアバイヤーは何をしているのか?

アドテク企業のアドロール(AdRoll)はこの夏、エージェンシーのバイヤーを対象に、アドテクがバイヤーの職に与えた影響に関する調査を実施した。その結果、65%のバイヤーが、自分の仕事がテクノロジーストラテジストに変わったという意見に「強く同意する」と回答した。また、49%のバイヤーが、アカウントマネージャーやクリエイティブコンサルタントに変わったとする意見に強く同意した。

これは、間違いなくひとつの変化だ。メディアプランニング&購入エージェンシーのメディアソシエイツ(Mediassociates)でバイスプレジデントを務めるベン・クンツ氏によれば、電話でやり取りして注文書や請求書を送るような仕事に労力をかける人は減り、「分析」や「プランニング」を行う人が増えているのだという。つまり、ROIの最適化や最終的なメディアプランの分析を担うバイヤーが増加しているのだ。また、自動化されたシステムであっても人間によるリスク管理が必要だとクンツ氏は指摘する。「メディアバイイングの仕事が、メディア評価という複雑な役割を担うようになっている」とクンツ氏は語った。

販売サイドから見ると、バイヤーはいまも中心的な役割を担っている。コンテンツマーケティングプラットフォームを手がけるインスティンクティブ(Instinctive)のCEOを務めるマニ・ガンドハム氏によれば、メディアバイヤーはいまや、キャンペーンの企画を(パブリッシャーにメールで依頼するのではなく)自分で手がけているという。そのため、プログラマティックや自動化は、全体のプロセスのうち、注文書や請求書のやり取りなど、もともと時間がかかるものではなかった一部の作業を最適化しているにすぎない。だが、バイヤーはいまもベンダーの管理や評価を行い、APIを利用せずにプラットフォームを購入しているのだ。

――この問題の解決は、エージェンシーにとって最優先事項なのか?

財務的には、イエスだ。エージェンシーにとって最も大きなコストは、正社員、つまり従業員だ。当然ながら、人員削減はコストの削減につながる。

あるブランドの幹部によれば、経営環境の厳しい持株会社は「プログラマティックのノルマ」の達成を盛んに求めるようになっているという。インベントリー(在庫)の管理に必要な人の数を減らし、運用コストを削減できるからだ。

――では、そうした動きが起こらないのはなぜか?

物事には時間がかかるというのが、業界幹部らの意見だ。ある大手持株会社が所有するメディアバイイング企業の幹部によれば、このエージェンシーはバイヤーの数を少しずつ減らしている段階だが、その効果が現れるまで人員をスリム化するにはあと5年かかるという。

また、メディアバイイング業界で働く人たちは、あまり表立って言えないもうひとつの理由の存在を指摘する。エージェンシーは、人を配置することでお金を儲けているというのだ。エージェンシーとクライアントがある業務契約を締結する場合、その契約はたいてい人数ベースとなり、どの程度の経験を擁する従業員がその仕事に関わるかが基準となる。つまり、多くの人を配置するほど、エージェンシーは多くのお金を請求できるというわけだ。

「クライアントは、ある特定のやり方に慣れている。契約は投入される人の数に基づいて交わされるものなのだ」と、メディアエージェンシーであるノーブル・ピープル(Noble People)のCEO、グレッグ・マーチ氏は言う。そのため、この仕組みを大きく変えてしまうことは、クライアントを動揺させることにもなりかねない。「変化を起こすことは難しい」とマーチ氏は語った。

――だが、すべてが自動化されるわけではない。

そのとおり。テレビ業界では、プログラマティックはまだまだ先の話だ。合わせて105名のバイヤーとプランナーを抱えるメディアキッチン(The Media Kitchen)では、メディアバイイングに関わる人は減ったが全体の人数は増えたと、同社プレジデントのバリー・ロウェンサル氏が語っている。

拡張現実(AR)のような新しいテクノロジーが将来的なビジネスチャンスとともに姿を見せつつあるなか、こうした新しいプラットフォームや新しいメディアを購入する仕組みづくりに注力するバイヤーが増えつつあるのだ。

「3年前には、誰もSnapchat(スナップチャット)を買おうとしなかった。誰かがこのプラットフォームを買うための仕組みを考えなければならなかった。つまり、人に辞めてもらうのではなく、彼らがほかのことに取り組めるようにすることが肝心なのだ」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
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