テレビのプログラマティックバイイングは日本でも有効か

本記事はデジタルインテリジェンス代表取締役・横山隆治氏による寄稿です。

◆ ◆ ◆

米国で始まっているテレビCMのプログラマティックバイイング。実態はまだネット広告のように完全なプログラマティックなオンライン入札までは達していないようだが、従来の「手売り」とは違う買い付け方がスタートしている。IDCのホワイトペーパーによると、米国で2014年に55億円市場のテレビのプログラマティックは、2017年から本格化し、2019年には1兆2000億円市場に伸びて、従来のテレビ広告の取引方法によるものが減るという。

言葉の定義として、「プログラマティック(リネア)TV」(以下PTV)から、ストリーミングやVOD(ビデオオンデマンド)などのデジタル・ネイティブな「プログラマティックビデオ」は分けて説明することにする(いずれ融合するが、今年は分けておく)。米国のテレビ局は毎年5月頃に、同年9月からの新番組枠を売る「アップフロント」を行なうが、そこでプログラマティックビデオ広告と称して売られるものには、「RTB(リアルタイム入札)買い付け」や「ダイナミック入稿」の機能の意味をもたない。データベースト・ターゲティングができる、という意味でのPTVだ(ニールセンのデモグラフィックデータだけでなく「更にデータをプラスした」という意味)。

さて、日本でこうしたテレビCMのプログラマティックバイイングは導入できるのか、またその意味や価値はあるのだろうか(約4200万世帯がケーブル回線ないし衛星受信の利用者でアドレサブル広告[セットトップボックスを通じて得られた視聴データを基に、世帯別ターゲティングできるCM]が可能な米国とは環境が違うことは大前提だ)。

私の見解は、テレビ局、広告主、そして消費者の3者にとって「良いこと」になるだろうということだ。

CMは少出稿でも「テレビ観る層」に効率的に届く

テレビCM、特にテレビスポットは、ターゲットが、テレビが到達しにくくなった若年層でもリーチをゼロから50~60%くらいまで持っていくには、どんなメディアも敵わない最高の到達効率がある。ただ、若年層にはテレビの視聴時間が極めて短い層は一定以上おり、ターゲットリーチは途中からかなり頭打ちになる。俗に言う「サチる」(サチュレーション[saturation]を起こす)のだが、これが通常のリーチのカーブより厳しく、新たなターゲットリーチを上積みしにくいのだ。

ただ逆に言うと、テレビスポットの最大の特性は、テレビを普通に視聴している層には、比較的少ない出稿量でも簡単にリーチする到達力にある。若年層でもターゲットリーチ50%は130GRP程度で達成できる。もちろん十分なフリークエンシーとは言えないが、あとはクリエイティブ次第だ。

ということは、テレビ局側は、従来テレビCMまでは考えない比較的少ない広告予算しか持たない広告主やブランドのGRP100%未満の出稿についても、プログラマティックで多数の案件を受注することにより、価値を見いだせるだろう。

従来、テレビを使うには最低「億の予算」がないとできないという先入観があったと思う。テレビを使えないと、ネット広告、新聞広告、雑誌、交通……ともろもろ考えると思うが、例えば3000万円をテレビ以外の組み合わせで使うのと、出稿量としては少ないが、3000万円をテレビスポットに使うとすると、リーチで言えば当然、圧倒的にテレビに軍配が上がる。テレビは大型出稿を追い過ぎている(大型出稿は基本競合ブランドとのサウンドのシェア争いが前提だ)。従来はとにかくたくさん出稿させるための論理ばかりだったが、少出稿量でも効果があることを証明してみるべきだ。

テレビ局は、こうした需要をもっと取り入ればいいのだ。そこでいわゆるプログラマティックだ。「手売り」だけだと、やはり案件単価の大きい出稿だけ扱うのが前提だ。経済原則で考えれば、案件単価の高いかわりにパーコスト(視聴率1%あたりのコスト)の低い扱いは「手売り」時代は楽で効率的だが、プログラマティックによるオンライン取引時代になれば、案件単価は低いが、パーコストの高い多数の案件受注を受けられる可能性があるのだから、テレビ局がこれを選ばない理由が見つからない(実際米国ではPTVで非常に高いパーコストが出現している)。

また地方発の通販商品もBSばかりでなく、地上波ローカル局のスポットを上手に買い付ければいいのだ。そもそもローカル局は手売りの営業力も乏しい。東京と大阪に支社をつくって、あとは代理店頼みなのだから、プログラマティックバイイングのシステムを導入すれば、ローカル広告主からローカル局のスポット買い付けが見込めるだろう。BSは全国一斉に届いてしまう。地上波をエリアごとに上手に使ってマーケティングする手もあるだろう。ローカル局にとっても朗報ではないだろうか。

少出稿需要に対応できるプログラマティック

これを別の視点から話す。

テレビ広告、特にテレビスポットは「売り手」の論理でできている。価値の高い枠だけ買えない。売り手市場のテレビ広告は、Aタイム単価設定があるように、Aタイム(価値の高い枠)1本引くには、ほかも何本か買うことになる。

しかしテレビ局に100GRP案件が毎月100件、200件と入ってきたら、また日中や深夜も特定ターゲットにリーチする価値ある枠としてデータで販売できれば、大きな出稿量案件に組み込むだけでなく、こうしたミドルエンドな需要向けに枠を売ることができる。

そうすると、既存の大手広告主も恩恵がある。ターゲット効率が良く、視聴の質も良いところを効率的に買える。これは、歴史的に大量に買ってきた広告主の特権というべきか。

プログラマティックで新たな「少出稿需要」をテレビスポットに取り込むことは既存広告主にも良いことだ。そして、消費者には、今まではテレビCMでは出会えなかったブランドとの出会いの機会が増えることになる。

少ない出稿量でも記憶に残すには、インパクトのあるCMクリエイティブが必要である。

拙著「CMを科学する」にも書いたCMのアテンション・インデックス(AI)値(※)には、1回目の数値が極めて高いが2回目以降は落ちてしまうクリエイティブがある(というか、大概そうである)。しかしこれは敢えて出稿量が少ないので1回目だけで記憶してもらおうと経験的にこうしたクリエイティブを作っていたということだろう。視聴者も初めて観るCMとの出会いが増える訳で、これはテレビの平均アテンション値を底上げするだろう。

※テレビ画面が点いている事をカウントする視聴率に対し、家族の構成員がテレビ画面を専念視聴しているかに注目した「視聴質」を測定、インデックス化したもの。

テレビにプログラマティックバイイングを導入することでは、新たな需要を獲得するテレビ局も、より効率的なバイイングができる既存大型広告主とテレビが使えるようになるミドルエンド広告主も、新たなブランドと出会える消費者も、3者とも「得する」ことになると思われる。

大手広告代理店もプログラマティックバイイングの仕組みそのものにコミットしてくるであろうから、「手売り」での大量出稿案件だけにこだわる必要はない。むしろ需要をミドルエンドにも拡張する方が、将来性がある。

そうなるとかろうじて「手売り」でテレビスポットを売っているが、プログラマティックにはついて行けない代理店だけが取り残されて扱いを減らす可能性がある。「得をしない」のはイケてない代理店だけだ。

私は今のネット広告がテレビから広告需要を奪ってきたとは思わないが、テレビのプログラマティックバイイングで一番影響を受けるのは逆にネット広告かもしれない。テレビの逆襲と言ったところだろうか……。

今までの売り方にこだわるか、プログラマティックバイイングも取り込むか……。結論はそう難しくはないようには思う。結論は難しくないが、導入にはハードルがある。

それはテクノロジーの問題ではない。テクノロジーは既にあり、何年も前からチャレンジされている。要は、ここに成長の鍵があると思う業界や、実質的な効果効率を求める広告主の心理の問題だ。そしておそらくそれを解決するのは、以前はテクノロジーがあっても、欠落していたデータであろう。新たな(実質的な効果を判定できる)視聴データが仕組みを変えるだろう。

Written by 横山隆治
Photo by Thinkstock/GettyImage