小さなデジタル広告会社が大手を魅了するには?:直取引の獲得に必要な3つのスキル

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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デジタル広告の制作や、運用を行う小規模な広告会社は無数にあります。よほど大規模なマスキャンペーンでない限り、彼らが直接大手の広告主との取引ができない理由はありません。しかし、このような会社の大半は、主に広告代理店の下請け業務を行なっています。高いデジタルの専門性や技術を擁していても、広告主とコミュニケーションを取れなければ、元請け代理店の利益を確保する労働力に過ぎません。また、彼らは広告主の課題を直接聞き、フィードバックを得ることができないため、市場の変化を上手く察知することもできません。結果、顧客のニーズではなく、自社の強みばかりに着目してしまい、独りよがりなサービスを提供してしまうのです。下請け業者が、いくら高品質なサービスを提供しても、自らの力でビジネスを切り開いていくことは、決して簡単なことではありません。

現在では、マスメディアに頼らないマーケティング機会があらゆる所に存在するため、広告主も、さまざまな広告会社との接点を必要としています。しかし、新しい広告会社との取引は、マーケターの業務負担を増やし、既存代理店との軋轢を起こしかねません。保身のために消極的になるマーケターは、積極的な取り組みを行う競合に遅れをとってしまいます。小さなデジタル広告の会社は、マスマーケティングや、ブランドマネジメントを知らないかもしれません。しかし、デジタル中心の施策であれば総合代理店よりも高いパフォーマンスを発揮します。そして、何より小規模であるがゆえの高い献身性は、間違いなくマーケターの資源となるはずです。

小さなデジタル広告の会社が、デジタルエージェンシーとして広告主と直接取引をするためには、提供するサービス以外に、少なくとも3つのスキルが必要になります。まずは、相手とその上司を説得できること、次に、マーケターとの共通言語が話せること、そして、互いに連携できることです。どれも決して簡単なことではありませんが、才能やセンスを必要とせず、努力次第で可能なことです。代理店の下請け業務から脱し、顧客により多くの価値を提供したいと思う会社は、積極的に取り組んで欲しいと思います。

1. 相手やその上司を説得する

説得とは、客観的な情報を正しい順番で相手に伝え、自らの意志で行動を変えてもらうことです。広告主側の担当者も、マーケティング施策を実施するうえで、上司を説得しなければなりません。それには、しっかりとした提案書が必要となるのです。しかし、提案書のトレーニングを受けていない会社の資料は、相手を説得する目的で書かれておらず、要点がわかりづらく、客観性や根拠に欠けていることが多いのです。マーケターは、上司に中途半端なものを渡せば、自身の評価を下げてしまいます。広告主を説得するための提案書は簡潔で、わかりやすく、合理的なものでなければなりません。

FICCとVMLでは、説得される側の態度変容プロセスに合わせて情報をまとめ上げる、ワンページメモライティングのワークショップを実施しています。相手や、その上司を説得するために必要な情報を集め、正しい順番にまとめる方法を知ることで、はじめて検討してもらう資料を作ることができるのです。

2. マーケターとの共通言語を話す

広告主とともに仕事をするには、マーケティングの基礎を習得する必要があります。理解が曖昧なまま、仕事を進めてしまえば、顧客に大きな負担をかけてしまいます。そもそもの用語の正しい定義、マーケターが重視する指標、STP、4P、カスタマージャーニーについての知識などは習得しておくべきでしょう。基本的な要素をカバーするトレーニングを受け、入門書的な書籍を読み、提案書へのアウトプットを繰り返せば、広告主とのコミュニケーションに必要な知識は数カ月で得られるはずです。

マーケティングの経験のない人には気の遠くなる話かもしれません。しかし、目的は自らマーケティング戦略を組み上げられるようになることではありません。それは広告主の仕事であり、エージェンシーは戦略を理解したうえで、最適な手法を提供するのです。目的は、マーケティングという共通言語を確立し、ともに仕事ができるようになることです。

3. 互いに連携をする

小さな広告会社が提供するサービスは、企業のマーケティング活動のほんの一部しかカバーすることができません。たとえば、動画の制作会社が単独で広告主の課題を解決することはできませんが、メディアの買い付けや、運用を行う会社と連携をすれば、動画広告の企画から配信、そして効果測定までを請け負うことができます。マーケティング予算の大半を占めるメディア費の有効活用は、マーケターの評価に直結します。そして、メディアを扱えるようになれば、広告会社はマーケティング効果をスケールさせ、安定的な成果を提供することができるようになります。

もちろん、FacebookやGoogleの広告は、プラットフォーム上で誰でも買い付けと運用をすることができます。しかし、知識と経験のない会社が、多額のメディア費を預かるリスクは双方にとって大きいものです。広告の企画や制作を行う会社は、アドテクベンダーのエージェンシー部門などと協業することが良いでしょう。彼らもメディアに特化しているため、単独では広告主に価値を提供することはできません。小さな広告会社は、互いに連携し、サービスを補完し合うことで、広告主にソリューションを提供することができるようになります。

そのためにはWin-Win-Winの関係を築かなければなりません。クライアントの提供価値と、互いの収益性を考え、積極的な案件の紹介、情報交換、そして、業務外でのコミュニケーションなどを通じて、現場間の連携を強める必要があります。小さな広告会社は、仕事を獲得するためのセールスと同様に、自社にとって強力なパートナーの獲得に励むべきです。

エージェンシーが実務を行ううえで必要とするスキルはいくらでもあります。しかし、もっとも重要なのは、その実務を価値あるサービスに変換し、広告主に買ってもらうためのスキルです。そのサービスがいまだ一流でなくても、独自性の強いものでなくても、誰かの課題を解決し、報酬を得ることはできます。そして、顧客との直接取引をしていれば、ヒアリングや、フィードバックを通じて、サービスレベルを向上させることができます。小さな広告会社が自らの力でビジネスを切り開くために必要としているのは、広告主と直接コミュニケーションを取るスキルと、互いに連携するためのスキルなのです。

Written by 荻野英希
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